第90話 ロボット破蓋3

(代われっ!)

「はい!」


 恐らく俺もナナエも反射的な判断だっただろう。即座に身体の主導権を入れ替え、俺の前に壁になっているヒアリを逆に抱きかかえてその身を護る。

 その直後に復活したロボット破蓋がレールガンを発砲してきた。激しい発射音とともに俺の肩と脇腹に激痛が走る。


 くそっ。二発ぐらいもらったか。これ以上当たるのも辛いし足は無事だから今のうちに逃げて距離を取るしかねえ。

 俺はすぐにヒアリを抱きかかえたまま大きく上に向かってジャンプする。


「おい、大丈夫か!? そっちにはあたってないか!?」

「……えっ、あ、うん、だ、大丈夫……」


 俺の呼びかけにヒアリは無事そうだったので安堵した。とっさにかばったが、あの威力だと恐らく俺の身体なんてあっさり貫通していただろう。ヒアリに当たらなかったのは本当に運が良かったからでしかない。

 ヒアリは何の躊躇もなく俺――ナナエの前に立ち犠牲になろうとした。ちらりと見たその顔はやや紅潮して興奮しているのがわかる。やはり犠牲になることに満足感を得ているんだろう。本気でヒアリは死んでいてもおかしくなかった。ぞっとするしかない。


 しかし、ヒアリは自分の望むように犠牲になれなかったせいか、だんだん少し残念そうな表情になり、


「で、でも、ナナちゃんが……」

「俺は死なねえから気にすんな! ちょっと上まで行くぞ!」


 そのまま数段上の階段にまでたどり着く。どうやらかすった程度だったおかげで被弾した部位はもう治り痛みも消えていた。


(戻すぞ)

「はい!」


 ナナエは身体の主導権を取り戻すと、即座に対物狙撃銃を構えて、スラスターを吹かせて追いかけてきたロボット破蓋に向けて二発発砲した。核を狙わずにあくまでも追いかけてくるのを牽制しただけらしく、レールガンを破壊し、頭部に一発お見舞いしてバランスを崩しただけだった。しかし、これで少しだけ時間が稼げる。


「おかしいです。さっき確実に核を破却したはずなのになぜ……」


 倒したはずのロボット破蓋。突然復活し、また襲ってきた。わけがわからない。


 しばらくして、ロボット破蓋が再生し、再びこちらに向かって飛んできた。すぐにナナエの確実な狙撃がロボット破蓋の腹部にある核を貫く。

 いつもならこれで崩壊が始まるはずなのにあっという間に核の部分が再生され、またこちらにレールガンを乱射し始める


「今のは確実に仕留めましたよ!?」

 

 すでに困惑を超えて混乱に近づいているナナエ。俺も見てたが、間違いねえ。さっきの一発は確実に核を破壊したはずだ。なんで動ける?


 核を破壊しても倒せない破蓋。冗談じゃない。あいつらいくらぶっ壊しても即座に再生するんだから、核という弱点が無くなったら倒しようがなくなってしまう。


 ナナエは動き回りながらどうすればいいのか考えていたが思いつかず唇を噛む。


「……もしかしたらっ」


 ここでヒアリが一気にロボット破蓋めがけて飛びかかる。


「ちょっと難易度高いけど! いっくよー!」


 真正面から行くなんて無理だ――と思ったが、ヒアリの動きが半端ない。ワイヤーを壁や階段に突き刺して振り子運動を続け、さらに壁から対岸の壁に飛びつき、その間もワイヤーを駆使して動き回る。ロボット破蓋はレールガンを乱射しまくるが全く当たる気配がない。まるで空を自在に飛んでいるかのようだ。


 その間にヒアリは両手に鉈を構えたままぐるっとロボット破蓋の周りを飛び回り、一瞬の隙きを突いて核に鉈を突き刺した――いや、よく見ると核と本体の隙間に突き刺している。

 そして、もう片方の鉈を核に突き刺してえぐり出した。そして、即座にワイヤーを大穴の壁に突き刺して巻取り、階段まで戻る。

 ヒアリは鉈に突き刺したままのロボット破蓋の赤い核を高々と掲げた。


「これってやっぱり……ナナちゃんこれを撃って!」

「はい!」


 ナナエが即座に対物狙撃銃で核を撃ち抜いた。バリーンとガラスが割れるような音が響いて核が砕け散る。

 しかし、弱点の核を失ったはずのロボット破蓋は背中のスラスターを吹かしたまま空中で停止している。なぜ動かないのかはわからないが、やはり核を失っても崩壊する気配はない。


 ほどなくして、ロボット破蓋の腹部に核が再生し始めた。ヒアリはそれを見てからナナエのところに飛び戻り、


「ナナちゃん、あれ核じゃないよ! ただの赤い玉だった!」

「そんな……!」


 困惑するナナエ。あれは核じゃないのか? てことはダミーか。しかし、そうなるとどこにあるのかわからないぞ。


「もう一回!」


 ヒアリはまたしてもロボット破蓋に真正面から突っ込む。くっそ、無茶苦茶な戦い方すぎて見てられない。

 しかし、ヒアリはまた華麗な空中機動を披露し、あっという間にロボット破蓋の全身をずたずたに切り裂いてしまった。

 ダミーの核をえぐり出したときも思ったが、もう確信していいだろう。両足が動かなくなったヒアリだが、はっきり言ってその前より今のほうが強い。補助器具を駆使して力が更に強大化している。


 ヒアリの超空中機動による鉈さばきにロボット破蓋は全く対応できず、バラバラにされてしまったが、すぐに再生を始める。

 

「ダメだよ、見つからない! ナナちゃんはなにか見えた!?」

「こちらでも核は確認できませんでした! 一体どこに!?」


 壁に張り付いたままのヒアリと対物狙撃銃を構えたナナエは二人共困惑する。

 俺も見ていたが、ロボット破蓋の核は見当たらなかった。かなり細かく切り刻まれていたので体内に隠していたとしても破壊されていなければおかしい。

 そうなるとこういう結論しか出せない。


「核がない破蓋……!? そんなのありえませんよ!」


 ナナエがヤケクソ気味に発砲して再生が完了しそうなロボット破蓋の頭部と両手を破壊する。再生中は動けないようなので、これで時間稼ぎをしているのだろう。

 しかし、核を持たない破蓋? だが、再生は普通にしてる。これじゃ倒しようがないぞ。


 俺はロボット破蓋の姿を見る。ずんぐりむっくりした体躯、頭部には赤い目のような1つ目。両手両足。腹にはダミーの核。背中には空中に浮かぶために吹かしっぱなしのスラスター……ん、ちょっと待てよ。


 俺の記憶の中にあるあのロボット破蓋のの元になった姿が蘇り、


(おい、あのスラスターを撃ってみてくれ)

「スラスターってなんですか!」

(背中で火を吹いているやつだよ! あのロボット野郎はあれで空を飛んでいるんだ!)

「破蓋は普通に空中を浮遊して移動しますよ!」

(わかっちゃいるが、他に思いつく場所がねえんだよ!)

「やってみます!」


 ナナエが照準を整え、一発でロボット破蓋の背中のスラスターを撃ち抜いた。

 すると激しい閃光とともに大爆発が起きる。そして、そのままロボット破蓋は大穴のそこへと落ちていった。


「成功……ですか?」


 いまいちしっくりしない感じでナナエが呟く。しかし、そのままロボット破蓋は戻ってこなかった。

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