第89話 ロボット破蓋2

「いっくよー!」

「無茶はダメですよ!」


 連絡を受けたヒアリが上から一気に飛び降りてきた。同時にナナエがロボット破蓋に向けて数発発砲し、再びマシンガン――レールガンを破壊する。

 これでヒアリが降下していても撃たれることはない。あとは破蓋の核をたたっ斬れば――ってちょっと待て。


(待てヒアリ! そいつは接近戦武器をもってるんだ!)

「ヒアリさん一旦離れてください!」


 俺の言葉をナナエが代わりに伝える。しかし、ヒアリはそのままロボット破蓋めがけて一気に接近する。


「大丈夫! 一気に片付けるから――え、あ、あれ?」


 ここでロボット破蓋は手にしていた再生中のレールガンを投げ捨てると、肩に刺さっていたものを引き抜いた。最初は小さな筒でしかなかったが、その内部からシャキーンとサーベル――しかも高温になるヒートサーベルってやつだ――が飛び出してくる。

 そうそう俺が知っているこのロボットもこんな感じの音を出して武器を抜いていた。何から何まで一緒だ。

 しかし、すでにヒアリは斬りかかる態勢に入ってしまっていた。そこにロボット破蓋がヒートサーベルで逆に切りかかった。まずい。あれできられたら何がおこるのかわからないぞ。


「大丈夫だよ!」


 ヒアリはそう叫ぶと片腕につけていたワイヤー発射機からワイヤーをうち、少し離れた大穴の壁に突き刺した。そして、一気にワイヤーを巻き戻して壁の方へ軌道を変える。ロボット破蓋のヒートサーベルはギリギリヒアリに当たらずに空を切った。

 避けきったヒアリは壁沿いの階段まで移動して、肩に付けた補助器具で立つ。


「ふえー。びっくりしたよぉ」


 無事なヒアリを見てナナエはほっと胸をなでおろす――が、すぐに目くじらを立てて、


(おじさん! そういう事はちゃんと言ってください!)

(悪いスマン、俺もはっきりと覚えているわけじゃないんだ)


 俺が即座に謝罪すると、ナナエはなぜか面食らった感じになり、


(何か調子が狂いますね……いつもならいろいろ屁理屈や言い訳をしていたはずですが……それにおじさんの様子も……)


 そんなふうにブツブツとヒアリに聞こえないように言っていたが、すぐに頭を振って、


(そんなことはあとにしておきます。おじさん良く思い出してください。あの人型機動兵器の破蓋は他に武装を持ってましたか?)

(いや……俺も完全に知ってるわけじゃないが、レールガンとヒートサーベルだけだ)

(ヒートサーベルってなんですか)

(ロボット野郎が使ってた近接戦闘用の武器だよ。あれはものすごく熱くなって高熱で敵を切ったりしていたと思った)

(了解です。うかつに接近戦はしないほうがいいようですね。とはいえ……)


 ナナエはロボット破蓋を凝視する。ヒートサーベルをしまって今は再生しきったレールガンに持ち直していた。またあれで攻撃してくるだろう。


 しかし、ナナエはなぜか余裕そうだった。新型の場合、毎回かなり緊張して戦っているのにこのロボット破蓋には何か余裕を感じる。


「では行きましょう!」

「うん!」


 ナナエは新しい弾倉と交換した対物狙撃銃を構え、ヒアリは一気にロボット破蓋へ飛びかかる。

 再びレールガンを連射し始めたロボット破蓋だったが、ヒアリが数発牽制したのちレールガンをまた破壊する。

 その隙にヒアリが一気に両手の鉈で斬りかかろうとするが、ロボット破蓋はまた背中からヒートサーベルを持ち出してヒアリに切りかかった。これじゃさっきと同じだ――


「もう――大丈夫っ!」


 だが、そんなことはヒアリも理解していたのだろう。ここで予めワイヤーを発射して壁に突き刺してあったので、一気に巻き戻して急速に軌道を変える。ロボット破蓋のヒートサーベルはあっさり空を切った。

 一旦大穴の壁に張り付いたヒアリは今度は壁を蹴ってまたロボット破蓋に飛びかかる。ロボット破蓋はまたヒートサーベルで切りかかってくるが、ヒアリは紙一重でかわしてそのまま懐に飛び込んだ。その時、肩から生えている歩行用補助器具がくねくね動いているのに気がつく。どうやらあれで空気の流れに上手く乗って、空中で身体を動かしているらしい。さらに強烈な体当たりをお見舞いし、ロボット破蓋はその衝撃で飛ばされ、大穴の壁にぶつかった。

 まるで死ぬ前にこんな戦い方を漫画で見たな。人食い巨人と戦っていたやつ。


 ロボット破蓋は衝撃で身動きができないのか壁に張り付いたまま。腹のところにある核は丸見えだ。


「決めます!」


 ナナエが叫び、大口径対物狙撃銃を発砲した。それは見事に赤く輝く核を貫通する。

 やがてロボット破蓋は力を失ったように壁から真下の階段に落ちた。


「やったぁ! ナナちゃんすっごーい!」

「くっつかないでください!」

「あー!」


 戻ってきたヒアリがナナエに抱きついてきたので、ぐいっと押し返す。

 その後二人で勝利の喜びに満ちた笑顔になった。


「ずいぶん簡単だったねー」

「人型だったので楽勝でした」


 そんな二人の会話を見て俺は理解できず、


(なんで楽勝だったんだ? 一応新型だったんだろ? いやまああっさり倒せたから楽勝ってのはわかるが)

(鈍い人ですね……)


 ナナエはやれやれと、


(新型の破蓋の最大の問題はそれがどういった能力を持ち、どういう攻撃防御手段をもっているのかわからないところです。しかし、今回のは人の形をしていて、動きも人のやることを踏襲していました。そのおかげでどういう動きをするのか読みやすかったんです)

(あー、なるほどなるほど……)

(ちゃんと理解できてますか?)


 俺は一瞬考えをまとめてから、


(できてるできてる。わけのわからんものじゃなくて人間相手に戦っていた感じだったからやりやすいってことだろ。確かに急須とかどんな戦い方するんだって警戒して攻撃もためらったりするもんな)

(少々適当なところもありますが、まあいいでしょう)


 先生みたいなことをいうナナエ。そして、大口径対物狙撃銃を背負うと、上に向かって歩きだし、


「今日の使命も果たしましたし、かえって先生に報告しましょう」

「はーい」


 ヒアリもそれについていく。


(……ん?)


 俺は身体の主導権を持ってないので基本的にヒアリの見たものしか見れない。ヒアリがくるっと振り返ったときに一瞬偶然それが見えただけだ。


(は?)


 見えたものが何なのか気がつく。ロボット破蓋だった。レールガンを構えスラスターを使ってこちらに向かってきている。


 どういうことだ? さっきあいつは倒したばっかりだ。なんでまだ動いている……


「――ナナちゃん!」


 ヒアリがそれに気がついて、ナナエの前に立った。

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