第83話 スマフォ破蓋5
「――ダメだよっ!」
ナナエとヒアリは第3層まで戻ってきていた。そこでガスコンロ破蓋を呼び出させてそいつを誘爆でずどーんする作戦をナナエがヒアリに伝えた。
しかし。
ヒアリは即座に拒絶した。その口調はいつもの明るく元気ものとは違い今までになく強いものだった。
予想外の反応にナナエは一瞬唖然としてしまうが、
「し、しかし、もはやこの方法しか……」
「でもでも! もしその爆発でナナちゃんが大穴の底に落ちちゃったら大変だよ! いくらナナちゃんが死なない能力を持っていたとしても底はものすごく熱いし、そのまま永久に燃えたままとかになっちゃうよっ!」
ヒアリの指摘。確かにこれは正しい。前回のガスコンロ破蓋を誘爆させたときに大穴の外にふっとばされたのははっきり言って偶然だ。そのまま底に落ちていた可能性も十分にあった。
「それに……ナナちゃんがそんな危険な目にあっているのなんて……私、見てられないよ……」
うつむき加減で本当に苦しげな言葉を吐くヒアリ。
ナナエはどうにか反論しようとするが言葉にならないらしく頭を抱えてしまう。
俺もしばし考えた後に、
(とりあえずこの案はやめとこうぜ。ヒアリが反対するんじゃ話がまとまらない)
(しかし、他に手立てもありませんし、もう時間もありません)
ナナエが携帯端末でスマフォ破蓋の位置を確認する。さっきまで第6層にとどまっていたのにちょっと前から浮上を始めたらしく今は第5層に到達していた。
(ヒアリがここに居座ったらこの作戦自体実行不可能だろ。あの調子だと絶対に譲る気はなさそうだしな)
ちらりとナナエがヒアリの方を見ると、真剣な眼差しでじっとこっちを見ていた。意思は固いらしい。
ナナエも観念して、
「わかりました。この作戦は破棄します」
「よかったっ」
ヒアリは喜びの声を上げるものの、ナナエはピシャリと、
「ですが、もう破蓋は迫ってきています! 時間がありません。このままではこちらが敗北するのは避けられないんです」
それに対してヒアリは自分の携帯端末を開き、観測所からの破蓋のデータを確認して、
「絶対になにかあるはずだよ。何か倒せる方法がきっと!」
ナナエも同じように情報を見ながら考え始める。破蓋の画像を沢山開いたり拡大したりとディスプレイをグリグリいじくり続ける。
しかし、いいスマフォ使ってんな。俺もガラケーからスマフォに乗り換えたが、すぐにメモリがいっぱいになったりCPUが貧弱て固まったりしたもんだ。仕方ないから安くて性能がいい中古のスマフォを買ったら、今度はちょっと操作しただけで本体がめっちゃ熱くなってやけどするかと――
(……ん?)
(どうかしたんですか、おじさん)
(いや……ちょっと待てなにか引っかかった)
ナナエの問いを一旦遮り集中する。何かが頭に引っかかった。スマフォ、性能が高い、熱い、さっきスマフォ破蓋に触れたら大やけど、ディスプレイの上の方に⚠のマーク……
全部の線がつながる。
(あのスマフォ破蓋の元になっているのは爆熱スマフォかよ……)
(どういうことですか)
ナナエの改めての問いに、
(お前の使っているのと同じ携帯は俺の世界でもあったが、機種がたくさんあってな。その中に性能のはいいけどすぐに本体が加熱してまともに持てなくなるってのがあったんだよ。俺が安いからって中古で買って使ってたのがそんなのだった。恐らくあの破蓋も俺が使っていたのと同じような評判の悪い機種だったから、あんなに発熱しているんだと思う)
俺がそう説明するが、ナナエは首を傾げて、
「ヒアリさん、携帯を使ってて熱くなったりしたことありますか? 私はありませんでしたが」
「ううん、なかったよ。いつも快適だったかな」
ヒアリもナナエに同調してしまった。俺は頭を抱えて、
(自慢かっ。とにかく俺が使ってた評判の悪いスマフォはすぐ発熱して本気でやけどしそうになるぐらいだったからな。それでさっき思い出したが、あの破蓋に⚠マーク――表示があったが、あれは本体が高温すぎると出るやつだ。さっき戦っている時点でもうまともに機能が使えない危険な状態だった)
(もしかして、召喚している破蓋が突然消えるのもそれと関係が?)
(恐らくな。少しでも発熱を抑えるためにアプリ――実行している機能を減らしているんだと思う)
ナナエは大体理解したらしく、ヒアリにもその話を伝える。ヒアリは目を輝かせて、
「ナナちゃん、すっごーい! そんなの全然知らなかったよー!」
「まっまあ、大したことではありませんよ」
まんざらでもなさ気なナナエだが、もうツッコミを入れる気も起きないしそんな時間もない。
ヒアリはうんと頷いて持っていた鉈のチェックをし、
「ならあの携帯電話の破蓋さんとずっと戦ってればいいってことだよね」
「はい。召喚されている破蓋はあくまでも本体である携帯電話の破蓋が操作していると思います。なので戦い続ければ、いずれ処理能力が高まりすぎ発熱が限界に達するはずです」
ナナエも背負っていた対物狙撃銃のチェックを始める。
二人の表情も少し明るくなっている。追い詰められていた状況に光が射してきた。これで勝てるかもしれない。
狙いはスマフォ破蓋の熱暴走による強制シャットダウンだ。
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