第81話 スマフォ破蓋3

 スマフォ破蓋の前に雄大に立つヘアブラシ破蓋。ナナエとミナミがピンチになりながらも俺が最後に核をぶん殴って倒したやつだ。


(今度はこいつかよ……こんなペースで破蓋を呼び出されたらキリがねえぞ)

「考えている余裕はなさそうですね……! 全て破却するのみです!」


 ヘアブラシ破蓋の髪をとかすトゲトゲの一つがぐらつき始めた。しばらくするとあれがナナエやヒアリに向けて発射される。なのでナナエは即座に発砲――と思ったが対物狙撃銃を手にかけて、腰につけている拳銃を取り出してトゲにめがけて発砲する。

 小さな拳銃では命中させるのは難しそうだと思ったが、ナナエの射撃は確実にヘアブラシ破蓋のトゲを破壊した。


「弾を無駄にしたくありません。この距離であればこれ十分です」


 そう言いながら再度トゲを破壊する。しかし、トゲはすぐに再生するので、破壊し続けたところでキリがないだけだ。


「ヒアリさん! ひげそり型の破却をお願いします!」

「まっかせてー!」


 ナナエの指示を聞いたヒアリは一気に電動シェイバー破蓋に切り抱える。大きくジャンプしたと同時に身体を捻ってまるで竜巻のように全身で回転し、その勢いそのままで電動シェイバーの破蓋の1体に斬りかかる。

 しかし、電動シェイバー破蓋は3体。こいつらも連携してヒアリの攻撃が当たる前に体当たりを仕掛けてきた。

 虚を突かれたヒアリだったが、しかしその回転で体当たりを噛ましてきたほうへ鉈を大きく振るう。

 するとヒアリの鉈が内刃に当たって弾き返される――と思いきや、一気にヒアリは破蓋に顔を近づけた。それもむき出しの内刃――おまけに稼働中であらゆるものを剃ってやろうというやる気満々の状態にだ。


 無茶苦茶だ。もし破蓋が数センチ近寄っただけでヒアリの可愛い顔がずたずたにされてしまう――そう俺は叫びそうになったが、次のヒアリの行動で驚いてしまった。


 電動シェイバー破蓋の核(電源ボタン)はサイドについている。ヒアリは顔を破蓋の内刃に晒したまま、出だけ器用に伸ばして、ナイフよりずっと長い鉈でギリギリ届いた核を一突きした。その途端、電動シェイバー破蓋の一つがバラバラと大穴の底に崩れ落ちていく。あっさり倒してしまった。


 さっきもだったが、ヒアリも過去の破蓋の戦闘データなどを見て、電動シェイバー破蓋の特徴として人間の顔めがけて飛んでいることを知っていたのだろう。だからあえてあの内刃でヒアリを削ろうとしているところに顔を向けたままにし、近くの核を鉈で破壊した。

 桁外れの精神力にさらに運の強さも兼ね備えている。ヒアリの強さにはもう呆れるレベルだ。

 しかし、電動シェイバー破蓋はまだ2体いる。一気にヒアリを両サイドから挟み撃ちしようと突っ込んできた。


「ちょっときついかも!」


 これにはさすがのヒアリもまずいと思ったのか、片方の破蓋を上手く蹴飛ばしてその反動で大穴壁沿いの階段まで戻り、距離を取る。

 

 俺はヒアリの戦闘の様子を見ていたかったが、ナナエはヘアブラシ破蓋との戦いいのために移動したので見えなくなってしまった。こいつの核は一番下の取っ手の部分にあるので見える位置まで移動しようと階段を降りている。

 その間もヘアブラシのトゲトゲがいくつもナナエに向けて飛ばされようとしたが、全て発射前に破壊していた。俺が確認している限り一発も外していない。ヒアリの力の強さに一時期嫉妬してしまっていたナナエだが、やはりこいつもとんでもない強さを誇っている。


「――見えました!」


 ほどなくしてヘアブラシ破蓋の核が見える位置まで降りた。そこでナナエは拳銃を仕舞い、背中に抱えていた大口径対物狙撃銃を持って構える。

 が、俺はちょうど目の前にいたスマフォ破蓋のディスプレイの上部にはまた何かがインストールされている表示が出ていることに気がつく。


(またなんか出てくるぞ!)

「その前に破却します!」


 ナナエが間髪入れずに発砲した。神々様の力が乗った弾丸が一直線にヘアブラシ破蓋の核を撃ち抜き、すぐさま崩壊し始めた。


 ナイスと俺は言おうとしたが、ナナエはすぐさま大きく飛び上がった。

 なんだと思う暇もなく、さっきまでいたところに何かが体当たりを仕掛けてきて、大穴の壁に直撃する。それはこないだ戦った急須破蓋だった。さっきの新しいアプリインストールでこいつを呼び出したらしい。

 

 さらにスマフォ破蓋はまたインストールを始め、また電動シェイバー破蓋が2体出現した。くそったれめ、これじゃキリがない。

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