第80話 スマフォ破蓋2

(また来るぞ!)


 スマフォ破蓋の画面上部にダウンロードとインストールの表示が現れる。ナナエは即座にそれを阻止しようとスマフォ破蓋のディスプレイに向けて発砲するが、即座に再生し、その表示は止まらない。

 今度はガラケー破蓋に向けて発砲するが、あっさり弾き返してしまった。前に戦ったとき同様ナナエのもっている大口径対物狙撃銃ではあいつを撃ち抜けない。


「これでは……!」

「ナナちゃんに手出しさせないよ!」


 手こずるナナエに構わず、ヒアリは一気にスマフォ破蓋に向かって飛びかかる。相変わらず無茶しやがる!


 ヒアリが大穴の中心部にいるスマフォ破蓋めがけて身体を器用に回転させ、一気に両手の鉈で斬りかかる。

 しかし、その寸前、また新たな破蓋が出現した。今度は電動シェイバーのやつだ。しかも外刃がついてない最初から内刃むき出し状態でヒアリに襲いかかってきた。


「!」


 だが、ヒアリは身体をそのまま回転させ一気に電動シェイバー破蓋の内刃に鉈を切りつけた。ナナエの大口径対物狙撃銃の弾丸――それも神々様の力で強化されているものですら撃ち抜けない硬さの内刃だから無駄だ……と思ったが、ヒアリもそれは承知していたらしい。振動する内刃に鉈を押し当てて、そのままくるっと破蓋の本体をひねった。

 どうなっているんだと思ったがすぐに理解した。電動シェイバーの内刃はひげを剃るために細い溝が大量に並んでいる作り――定期的に掃除していたので見たことがある――なので、その溝に鉈の刃を差し込んだのだろう。そして、上手くハマったらそのまま鉈をひねって破蓋の本体も回転させてやったわけだ。


 そして、ちょうどナナエの照準に電動シェイバー破蓋の核が向けられる。


「破却します!」


 ナナエの声と同時に対物狙撃銃が火を噴く。いつものように完璧な精度で核を撃ち抜き、たちまち電動シェイバー破蓋は崩落した。さすがに態勢が悪いので、ヒアリは崩落している破蓋の一部を踏み台にして、俺達から少し離れた大穴の壁の階段にまで移動する。


『上手くいったね!』

「はい、ヒアリさん見事でした」

『ナナちゃんのおかげだよ~』


 耳につけた通信機を使い笑顔で話す二人。

 すげえコンビネーションだ。前回手間取った電動シェイバー破蓋が現れたのは完全に予想外だったはずなのに二人とも完璧に対応して一瞬で撃退している。ヒアリの能力の高さが、ヒアリの正確無比な射撃をきっちりサポートしている。底辺じゃ考えられないコンビネーションだ。

 こいつらならこの先もやっている――そんなことを考えたが、


「まだ戦闘中です。あの携帯電話の破蓋を倒さない限り、私達に未来はありません」


 ナナエが気を引き締める。

 そういや、先生からかつてない脅威がやってくるとかいわれていたのを思い出し、


(あのスマフォ破蓋がかつてない脅威ってことでいいのか?)

「いえ……確かに破蓋を呼び出す破蓋は過去にも前例がありません。かなり強力な破蓋であるのは確かですが、それでも破蓋という存在の範疇にとどまっている感じがします。かつてない脅威と表現するほど、今までと異なっているようには感じません」


 ナナエの話に俺も納得する。確かに今回のスマフォ破蓋は厄介だが、単にスマフォの機能を使っているだけだし、今までの破蓋と基本的な戦い方は変わってない。

 だが、今はそんなことを考えている場合じゃないだろう。かつてない脅威だろうがなんだろうが、このスマフォ破蓋を倒さなければ人類は終わりだ。


 ヒアリは再度飛びかかろうとする。同時にナナエも射撃態勢を取る。

 だが、またスマフォ破蓋のアプリのダウンロードとインストールのマークが出た。お次はなんだ?

 とりあえずこいつの攻撃手段は別の破蓋を呼び出すことだけのようだ。スマフォのストラップがついているが、今の所ピクリとも動かず攻撃に使ってくる気配もない。


(なんの破蓋が出てくるまで待ったほうがいいぞ。不意打ちで変なものが出てきたら困るしな)

「くっ――やりにくいですね!」


 ナナエは照準から目を離さないまま、スマフォ破蓋の次の行動に備える。同時にヒアリも一旦飛びかかるのを中止し、新しい破蓋の出現に備えていた。


 程なくして現れたのはまた電動シェイバー破蓋だった。いやそれだけじゃない。同時に三体現れてナナエめがけて襲いかかってきた。


「このっ!」


 ナナエは対物狙撃銃を発砲した。放たれた神弾は電動シェイバー破蓋のうち一体の内刃に直撃するが、ふっとんだだけですぐにナナエの顔をめがけて襲いかかってくる。


「ナナちゃん!」


 ここでヒアリが電動シェイバー破蓋に斬りかかるが、今度は破蓋がヒアリの方にくるっと向いてしまう。相手の顔に向かって飛んでくる性質の破蓋であり、恐らく近い英女の方に向かうのだろう。


 ……ちょっと待てよ?


(おい、ヒアリの方に向かったら側面についている核が丸見えだぞ!)

「わかってますっ!」

 

 すでに理解していたナナエがすぐさま発砲しようとする。二人の連携ならこの電動シェイバー破蓋にはさほど苦労しないかもしれない。

 が、ここで電動シェイバー破蓋3体が予想外の動きをした。突然ヒアリに向かって襲いかかるのをやめて、スマフォ破蓋の周りをぐるぐる回りだした。


(こっちの連携の高さがバレて防御に徹したのか? 前戦ったときと微妙に動きが違うぞ)

「わかりません……!」


 ナナエも困惑気味だ。しかし、そんな事を考えているうちに新しい破蓋が出現した。あの俺が最初にこの世界に来たときに初めて戦ったヘアブラシ破蓋だった。

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