第79話 スマフォ破蓋1
「そんな!? さっきまであの破蓋はいませんでしたよ!? いったいどこから現れたんですか!?」
(俺に聞かれてもわからねーよ!)
混乱するナナエと困惑する俺。
確かに観測所からのデータでも浮上してきていたのはスマフォ破蓋だけだった。肉眼でその姿をはっきりと確認したときも他には何もいなかった。
しかし、現実として今スマフォ破蓋の前にはガラケー破蓋がいる。狙撃の直前になにもないところから現れたのだ。どうなってやがる。
『ナナちゃんナナちゃん! 何かあったの!? 私もそっちに行ったほうがいい!?』
俺たちの様子がおかしいことに気がついたのだろう、ヒアリが通信機で連絡を入れてくる。
しかし、あのスマフォ破蓋についての情報が足りなさすぎる状況でヒアリを呼ぶわけにも――
「お願いします。幸い即死するような攻撃はしてきてません。私も少し上に行きますので途中で合流しましょう」
『わかったよっ!』
躊躇なくナナエがヒアリを呼んでしまった。そして上へ登っていくナナエに俺は慌てて、
(おいこらちょっと待て。もっと情報を集めたほうがいいんじゃないのか? ヒアリを呼ぶのはそれからでも……)
「あの破蓋は相当厄介そうです。私だけで手に負えない予感がするんです。ヒアリさんの力が必要になるはずです」
(しかし……)
ここで一旦ナナエはスマフォ破蓋の方に視線を送る。相変わらずゆっくりと地上に向けて上昇を続け、その電源ボタンの部分にはあのガラケー破蓋がぴたりとくっついていた。まるで盾を装備しているみたいだ。
しかし、こちらに攻撃してくる素振りはない。それを見て確認してからナナエは少し困惑気味に、
「……おじさん何か変ですよ? 以前なら使えるものなら何でも使えみたいな感じじゃなかったですか。まるでヒアリさんを戦わせたくないみたいに見えるんですが、何かあったんですか?」
(それは……)
迷っている暇はないと答えようと思ったが、よく考えてなかったので考えがまとまってねえ。
(ヒアリにはなにか違和感があるんだ。その正体がつかめないんだが、安易に戦わせると危険な気がする。スマンが今はここまでしか考えがまとまってねえんだよ)
「それでは話が中途半端すぎます……とはいえ、おじさんのその手の話は割と信用できるので、ヒアリさんが来たら危険が少ないようにしておきます」
(サンキュー――いや感謝しとく)
「ナナちゃん大丈夫ー!」
ここでヒアリがナナエの前まで降りてきた。
「すいません、やっかいな破蓋の可能性がありましたので、予定外ですが早めにヒアリさんの力を借ります」
「いいよーいいよー! 私、がんばっちゃうもんね!」
鼻息を荒くして拳を握るヒアリ。
そして、二人でスマフォ破蓋の方を見る。
スマフォ破蓋は相変わらずのんびりと浮上中だ。突然現れたガラケー破蓋も一緒にくっついて浮上している。ただ、前に戦ったときみたいに電話が鳴り始めることは今のところない。あくまでも防御のためだけに存在しているように見える。
ナナエが再び大口径対物狙撃銃を構えると、
「もう二、三回牽制します。ヒアリさんもすぐに称えるように準備していて下さい」
「うん、任せて!」
ヒアリの返答と同時にナナエは対物狙撃銃の照準で目標を確認する。
今回はわざとスマフォ破蓋の電源ボタンの場所にある核ではなく、ディスプレイのど真ん中を狙い撃った。
激しい銃声とともにスマフォ破蓋のディスプレイに大穴が開くが、全く動じること無く直ぐに修復をしてしまった。
ナナエは昇順から目を離さないまま、
「やはり核を撃ち抜かないと倒せそうにありませんね」
(ガラケー野郎の方も動かなかったな)
今の一撃はガラケー破蓋がどう動くのか確認するためのものだ。やはり弱点である核を守るためだけにあそこにいる。
――その時スマフォ破蓋の画面の上の方で、『↓』のマークが下に向かって突き進んでいた。これってさっきガラケー破蓋が現れる前に見えてのと同じだよな。ってことは……
(おい、なんかまた出てくるかもしれねえぞ)
(どういうことですか?)
俺がスマフォ破蓋の画面上部の方にナナエの視線を誘導し、
(破蓋の上の方を見てみろ。俺らの世界もスマフォに新しい機能追加することができたが、そのときにあの↓みたいなのがが出てくるんだよ。お前の携帯は違うのか?)
(機能追加とかはほとんどしてなくて……電網と電子手紙と学校から渡される会話機能ぐらいしかつかってませんでした。そもそも学校側が接続制限を実施しているので勝手に機能を追加できませんでしたし……)
ナナエは困ったように言う。まるで老人がガラケーで十分だろと言っているようだ。いや、今はそんなことはどうでもいい。
(さっきあのガラケー野郎が出る前もあれが動いてた。なら今回もそうかもしれねえ――)
そこまで言ったときだった。突然スマフォ破蓋の前でなにかの物体が出現し、こちらに向かってすっ飛んできた。
「しまっ――」
「任せて!」
ナナエは反応できなかった。しかし、ヒアリは即座にナナエの前に立つとその物体を両手の鉈で受け止める。
それはハサミの形をした物体だった。ちょうど交差するところに赤い核がある。つまりこいつはハサミ破蓋だ。
俺はそれが破蓋だと認識したのと同時にぞっとして鳥肌が立ってしまう。ヒアリはハサミの刃を受け止めているが、万一少しでもずれていればヒアリ自身の身体が真っ二つにされていただろう。にもかかわらずヒアリはなんの躊躇もなく受け止めたのだ。
「ヒアリさん助かりました!」
ナナエは対物狙撃銃ではなく、腰から拳銃を引き抜いてハサミ破蓋の核を撃ち抜く。するとあっさりと崩壊していった。弱点は通常の破蓋と変わらないらしい。
ここでナナエもヒアリもようやくスマフォ破蓋の戦い方を理解したようだった。
ナナエは唖然としながら叫ぶ。
「まさか……破蓋を召喚する破蓋!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます