第78話 見慣れてるアレ
装備を整えたナナエとヒアリは大穴に向かい、一気に第6層まで降り立つ。
最深観測所で撮影された画像で新型の破蓋の姿をナナエの携帯端末で確認する。大きさはガラケー破蓋よりも二回りぐらい大きく、平べったい長方形、その前面はディスプレイみたいになっていて――ってすぐにこの破蓋の元がなんなのかわかった。
(ああ、これは――)
(携帯電話でしょう。いつも見慣れているからわかります)
(だな。俺の世界ではスマートフォンって言われていたタイプのだが)
声に出さないヒソヒソ会話でナナエもすぐに理解した。ガラケー破蓋が現れたんだから、そりゃスマフォ破蓋も出てきてもおかしくはないだろう。
隣で一緒に見ていたヒアリも自分の携帯端末を見て、
「同じだねっ」
「はい。間違いないでしょう」
そう二人で笑顔になる。すっかり仲が良くなったことで。
しかし、スマフォ破蓋だとわかったところで問題もある。
ヒアリはすぐにうーんと腕を組んで、
「携帯電話がどうやって攻撃してくるんだろー?」
「見たところ、携帯電話本体と紐がついています。おそらくこの紐で攻撃してくるでしょう」
「こうやって叩いてくるのかなー? あうっ結構痛いかもー」
ナナエの話を聞いたヒアリは自分の携帯端末についたストラップをペシペシ額に当てている。
スマフォが攻撃してくるなんてあまり想像できないし、前に戦ったヘアブラシ破蓋のときもついていた紐で殴りかかってきたことを考えれば、あのストラップを鞭のように振るってくるぐらいしか思いつかない。しかし、それはなにか違和感がある。せっかく高価なスマフォなのに全く意味がないというか……
(おじさんはこの破蓋の攻撃方法を思いつきますか?)
俺が唸っていることに気がついたナナエが聞いてくるが、
(ガラケーはシンプルに電話とメール――電子手紙とか送るぐらいだったが、スマフォ――お前の持っている携帯電話といえば、多機能が売りなわけだろ? ほら、アプリをプレイストアからダウンロードしてインストールする的な)
(あぷりをぷれいすとあからだうんろーどしていんすとーるするってなんですか)
ナナエが首を傾げるが、俺はどう言えばいいのかわからず、
(携帯電話にネット――電網だっけ?から、新しい機能を手に入れて端末に機能追加する感じ)
(ああ……大体わかりましたが、それが攻撃方法に使えるとは思えません)
(そうなんだよなぁ)
アプリインストールしても別に攻撃できるわけじゃないからな。
結局攻撃方法が思いつかないので、
「念の為、ヒアリさんは少し上方にいて下さい。いつものように私が牽制して破蓋の行動や反応を確認した後に、ヒアリさんに戻ってきてもらいます」
「りょーかいりょーかい!」
ヒアリは笑顔で少し上に飛び上がっていく。とはいってもここから目視で見えるぐらいの距離だ。
俺はやや不安を覚えて、
(なあ、もっとヒアリを離しておいたほうがいいんじゃねえか? 新型だからどんな攻撃をしてくるのかわからないんだし)
「ヒアリさんの力を使えば楽ができると言ったのはおじさんでしょう。なんですか急に」
ヒアリがいなくなったので普通に口に出して文句を言ってくるナナエ。上の方を見るとヒアリが手を振っていたので、ナナエも手を振り返し、
「それにヒアリさんが嫌がりますし、牽制した後に破蓋に危険な兆候を感じればすぐに逃げてもらいますから大丈夫ですよ」
(まあいいや。さっさと終わらせりゃいいしな)
「全くそのとおりです。幸いなことに、この破蓋の核は丸見えですから」
ナナエは大口径対物狙撃銃のチェックを始める。観測所から送られてきたスマフォ破蓋ではスマフォの側面の電源ボタンがちょうど核になっていた。ガラケー破蓋とは違って核が丸出しなので、遠距離からナナエの狙撃が決まれば楽勝のはずである。
ほどなくして、大穴の底からゆっくりとスマフォ破蓋が姿を表した。浮上速度はガラケー破蓋と大差なく、動きもただ浮上し続けているだけだ。これなら核をすぐに狙い撃てる。
ナナエは大口径対物狙撃銃を構える。
「では、牽制――いえ、一発で決めさせてもらいます!」
そう叫び、核に照準を合わせる。
一発で仕留めるためにもうちょっと近づくのを待っていたため、はっきりとスマフォ破蓋の姿を細部まで目視で捕らえられた。
すでに起動しているのかディスプレイには時刻と壁紙が表示され、アイコンが複数表示されていた。本当にスマフォそのまんまだな。
ナナエはスマフォ破蓋の側面についている電源ボタン――核に照準を定めた。しかし、俺はそこで気がつく。
スマフォ破蓋のディスプレイの上の方に『↓』みたいなマークが浮かんでいる。それは下に移動するように見えるアニメーションで動いていた。あれって、確かアプリをダウンロードとかインストールしているときの表示だったよな……
俺がそんな事を考えている間に、ナナエは対物狙撃銃を発砲した。いつもの激しい発砲音が俺の脳内を揺るがす。これが当たれば今日の仕事は終わりだ――
しかし。
「!?」
(は?)
ナナエは驚愕し、俺は間の抜けた声を上げてしまった。スマフォ破蓋の核めがけて飛んでいった弾丸が突然弾き返されたからだ。
一体何が起きたのかと思ったが、スマフォ破蓋の核の前に何かがいることに気がつく。一回り小さく前面に小さなディスプレイ、頭の部分に筒のようなもの、折り畳まれているような構造。
ガラケー破蓋だった。突然出現してスマフォ破蓋を守ったのだ。
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