第76話 近づく脅威
「今日の破蓋の討伐の報告は以上です」
「ありがとうございました」
ナナエの戦闘報告を聞いていた先生はいつもの優しげな笑みのままだった。
ここでヒアリがびしっと手を上げると、
「私も結構がんばれていますでしょうか!」
なんかよくわからない話し方のヒアリにも先生は笑みを崩さず、
「はい。史上最大の適正値を生かしてとてもよく英女の使命を果たしてくれています。学校――いえ、すべての人を代表してありがとうと言いますね」
「おー……やったー!」
褒められてよっぽど嬉しかったのかヒアリは両手を上げてキャッキャと可愛い声を出しながらその場をくるくる回り始める。かわいい、かわいすぎる。
ナナエとヒアリのわだかまりが完全に消え、その後一ヶ月が過ぎた。すっかり仲良くなったナナエとヒアリはお互い訓練と破蓋討伐を続け、その連携を更に強めていっている。特にヒアリの強大な力により、破蓋が浮上してきても即座に撃退することが可能になっていた。おかげで俺も痛い思いをしなくて済んでいるんで、もうヒアリ様様状態である。
ただその間に浮上してきた破蓋はすべて既存の形状のものだった。トンカチとかボールペンとかペットボトルとか縄跳びの縄とかフライパンとかそんなものばかり。
ナナエ曰く、破蓋の中でも浮上回数が多いものでそんなに苦労せずに倒せるタイプのものばかりだとのこと。しかし、新型が連発していた最近がおかしすぎただけで、ちょっと前まではこんな感じだったらしい。異常な方が終わったところか。
先生もその状況について話し始める。
「浮上してくる破蓋が最近強力なものが多かったのですが、最近は落ち着いて脅威度の低いものになっています。しかし、神々様は今後『かつてない驚異』が襲ってくるとの神託を私達に与えており、それはそう遠くない未来に訪れると予想しています」
「つまり……今の状態は嵐の前の静けさといったところかもしれないということでしょうか?」
ナナエの質問に先生は頷き、
「断定はできませんが、警戒する必要のある状況だと考えています。かと言っても私にできるのはあなた達を信じて送り出すことだけ。本当にごめんなさいね」
「いっいえ、先生には外から送られてくる物資などを受け取って頂いたりしていますし、とても感謝しています」
椅子に座ったまま深々と頭を下げる先生に、ナナエはあたふたと答えた。
ここでヒアリははーいと手を挙げて、
「かつてない脅威ってなんだろう? すっごい破蓋さんとかが来るのかな」
「ざっくりとした答え過ぎですよ、ヒアリさん」
呆れ顔のナナエにヒアリはてへっと可愛らしく謝る。
頭を上げた先生は、
「脅威がなんなのかはわかりません。そもそもその脅威が破蓋という確証もありません。神々様からの御神託は一方的でわかりにくいものなので、はっきりとした内容についてまでは把握するのは現段階では不可能です」
「ただ現実論として大穴にいる神々様は破蓋と敵対し、私達英女に力を授けてくれています。そう考えればやはり破蓋――恐らく新型の破蓋ではないかと思いますが……」
そうナナエの指摘に先生も頷いて、
「ええ、恐らくは破蓋についてでしょう。それも脅威と表現している以上、新型と考えるのが普通です」
かつてない脅威=新型の破蓋。
冷静に考えればこの答えで間違いはない。しかし、問題は神々様とやらが警告を発するレベルの破蓋ってことだ。これはガスコンロ破蓋の比にならないものが現れる可能性が高いと見たほうがいい。
ってことは俺がひどい目に遭いまくるってことだ。やれやれ勘弁してくれ。
「もう疲れたでしょうし、すでに放課後なので今日は解散し、家でしっかりと休養をとってくださいね」
「ありがとうございました」
「ありがとーございましたーっ!」
ナナエとヒアリはそれぞれ挨拶をしてから、先生のいる部屋から出る。
そして、昇降口に向かって廊下を歩く二人だったが、
「よーしがんばっちゃうよー!」
そうヒアリがぐっと拳を握って気合を入れる。
ここでナナエは足を止めて、
「ヒアリさん、見てもらいたいところがあります」
そう言って昇降口ではない方に向かって歩き出した。
そっちの方向は慰霊施設――ミナミや先代の英女たちが眠っている場所だった。
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