第69話 翌日
「ひいっ!」
――突然ナナエの悲鳴が聞こえてきて俺も目が覚めてしまう。
(なんだようるせーな)
俺が朦朧とした意識の中、視界に入ってきたのは携帯のディスプレイだった。真っ暗闇の中ナナエが肩を震わせてそれを見ている。そこに表示されている時刻は午後2時31分。なんだもう昼間じゃないか。
「遅刻ですっ! ――どへ!」
ナナエは騒ぎながら飛び起きたが真っ暗闇なので足を滑らせてひっくり返ってしまう。相変わらず落ち着きのないやつだな。
その後ごそごそと手探り窓開ける。
「ああ……」
一瞬目がくらんだ後に、見えてきたのは霧状の雲が広がった空。きれいな午後の空である。まだ明るいが微妙に日が傾いている感じだ。
というか、
(お前その格好)
「えっ。あ、そういえば……」
ナナエの格好は戦闘服のままだった。俺もうっすらと昨日のことを思い出す。学校に武器弾薬を置いてから家に戻っていたが、途中でナナエがうつらうつらし始めて、ヒアリに抱えられて部屋まで戻ってきたんだった。俺も途中で眠気が移ったのかやたら眠くなったのでそのまま寝てしまった。
「ど、どうしましょう……」
オロオロするナナエ。遅刻どころかもう学校が終わる時間である。今更学校に行っても仕方ない状態だ。
(とりあえず連絡だけ入れておいて、今日はもう家でゴロゴロしてようぜ。やっちまったもんはしょうがない。今日は疲労回復に努める。そして、今日の反省を明日に反省を活かそう)
「おじさんの言い方では反省する気が全く感じられません」
(ドジやらかしたら適当な言い訳を考えておいて、自分の中で折り合いを付けておくんだよ。そうすりゃ楽ちんだからな)
「全くこのおじさんは本当に……とりあえず学校に連絡を……あ」
ふとナナエは携帯にメッセージが入っていることに気がつく。ヒアリからだった。
<7:50 ナナちゃんおはよー>
<8:30 まだ起きてないかな? 学校行くね>
<8:55 先生に今日はナナちゃん休むかもって伝えておいたよ! 疲れちゃったのかもしれないからそっとしておいてって言われたよ!>
<11:35 一睡もせずに学校に来たから私も眠いー(=o=;)>
<11:55 眠たそうにしていたらみんなに心配されちゃって保健室に連れて行かれちゃったっ!>
<11:59 おやすみ~>
ちょくちょくヒアリからメッセージが届いていた。どうやらヒアリが休むことはすでに確定として学校側につたえられているようだ。
ふとここでブオンブオン、パラリラパラリラというでかい音が聞こえてきた。ほどなくして、ナナエの部屋の棟の前に自動車が止まる。しかし、普通の車ではない。周りがまるで装甲車みたいな鉄板で覆われて頭には砲塔みたいなのがついている。世紀末ワールドで荒くれ者が乗り回していそうな感じのものだ。
その物騒な自動車の窓から顔を出したのはハイリだった。隣にはミミミとマルも座っている。
「おー、学校休んだって聞いたからちょっと見に来てみたんだよ。今起きた感じだけど重役出勤ってやつか?」
「そんなものではありません。ただの遅刻です」
「……ウィ」
「それは堂々ということなのか、と言ってます」
半目のミミミの言葉をマルが通訳した。ナナエは二人からのストレートなツッコミに少し視線を外して、
「私は過ちをきちんと認めることにしているんです!」
(嘘だ、絶対に嘘だ)
しょっちゅう言い訳ばっかりしているのは俺がよく知ってるぞ。
今度はナナエは半目で工作部の自動車を見て、
「それは一体何なんですか?」
「これか? 手作り装甲車だ! 銃弾も跳ね返せるほど強力な装甲を外側に追加してある。ここ2週間ぐらい頑張って作ったんだぞ」
「ウィ!」
「久々の大作だそうです」
工作部たちの話にナナエは頭を抱えて、
「一体何に使う気ですか……」
「決まっている。破蓋と戦うためだ!」
びしっと指を挙げて宣言するハイリ。だが、ナナエはやれやれと首を振って、
「そんなもの作っても破蓋には通じませんよ。英女が神々様の力を反映させたものでなければ、直撃させようとしても素通りするだけです」
「だから英女に使ってもらうために開発しているんだよ! というわけで今日は日々の健闘を祈ってこの手作り装甲車を贈ろうと――」
「いりません! 置き場所もありません!」
「えー」
ナナエにお断りされてハイリはしょぼーんとしてしまう。これにナナエはちょっと悪いことをしたという感じになったようで、うーんと唸ってしまった。
とはいえだ。お人好しになりすぎても仕方ないので、
(おい、あんなのもらってもしょうがないだろ)
(わかってますよ。しかし、いろいろ方向性が間違っているとはいえ、私のために作ってくれたのですから……)
(そんなこと言っていちいちモノを溜め込んでいたらきりがなくなるだけだ。こういうときはお互い納得できる形でお断りしようぜ)
(そう簡単に言われましても……)
ナナエが考えている間、俺は工作部の作ってきた手作り装甲車を見てみる――すぐに答えがわかってしまった。
俺はナナエにそのことを伝えると、ナナエも頷いて、
「そもそもその手作り装甲車ですが、大穴におろせませんよ。入り口から第1層までの昇降機にはとてもその大きさのものは入りません。まさか大穴に直接落とすわけにも行かないでしょう。そのため、今のままでは使いものにならないでしょう」
それに対してハイリはむむむと唸っていたが、ふとナナエの言葉の意味に気が付き、
「今のままでは?」
「そうです。もし大穴へ運べる方法が見つかれば使うことを検討してみます。実物を見るまではなんとも言えませんが」
ナナエの言葉にハイリたちはぱっと目を輝かせ、
「よし、もっと改造するぞ。次のステップはこの車を大穴で走らせることだ!」「ウーイゥウィ」
「つまり飛べばいいということだなと言ってます」
「おー! 自動車が飛んでしまうのか! それなら大穴の中も自由自在だな! よーしすぐに帰って作業開始だー!」
そう言ってまたでかい音を鳴らしながら発進しようとするが、すぐに立ち止まり、
「そういや昨日破蓋が来たんだろ? 問題なかったのか?」
「問題あったら今頃人類滅亡ですよ」
(そういう意味で聞いているんじゃないと思うぞ。多分ヒアリが付けていたやつのことじゃね?)
ナナエが身も蓋もない返事をしていたので突っ込んでしまう。ナナエはふむと頷いて、
「ああそういえば……ヒアリさんがもらっていた着脱式の襟巻きには問題ありませんでしたよ。戦闘中特に支障をきたしている様子もありません」
「マジで? あれもミミミが作ったんだぞー。ヒアリから欲しいって言われて30分でちょちょいとな。我が部の頭脳はすごいだろう!」
「こらー!」
唐突に寮(団地)内にメガホン越しの声が響き渡る。声の方を見てみれば、学校の制服を来た生徒数人が自転車でこちらに向かってきていた。チリンチリンとベルを鳴らして完全にお怒りモードに見える。大方学校をサボって寮の敷地内を暴走していた工作部3人を摘発にしに来たのだろう。
「やべえ風紀委員の連中だ! ミミミ逃げるぞ!」
「ウィー!」
「盗んだ自動車で走り出すそうです」
「盗んでない! 大穴近くに転がっていたのをちょっと拝借しただけだ!」
また三人は爆音を鳴らしながら猛スピードで走り去っていった。その後を風紀員たちが追いかけていく。
俺たちはそれをぼけーと見守っていたが、
「ふわ~」
ナナエはまた大きくあくびしてから、
「何かまた眠くなってきていろいろどうでも良くなってきました。先生に連絡だけ入れてまた寝ます」
(後のことは起きてから考えようぜ)
「たまにはおじさんのいうことを聞いておきますよ」
そう言いながらまた窓を閉めた。
どこの世界でも休めるときに休んでおくのが一番だ。
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