第65話 ガラケー破蓋3
ナナエは一気に第3層まで戻ると、そこにはヒアリが不安げな表情で大量の武器弾薬とともに立っていた。ヒアリはすぐさまナナエのもとに駆け寄り、
「ナナちゃん大丈夫!?」
「問題ありません」
「でも血が出ちゃってるよっ」
「大丈夫です。もう治ってますから。神々様から与えられた不死身の能力の賜物です」
ヒアリの指摘にナナエは戦闘服の腕で頬の血の跡を拭い取る。そして、すぐさま携帯端末を取り出し、
「ヒアリさん状況を説明します」
「う、うん」
ヒアリも緊張気味にナナエの携帯端末を覗き込む。
「まず破蓋は現在第5層に到達。浮上速度が遅いのでここの第3層に到達するまでは時間があります。この破蓋は私の対物狙撃銃でも全く損傷を与えることが出来ませんでした。かなり頑丈でまたどれだけの衝撃を与えてもその動きを止められていません」
「そうなると……核っていうのは?」
「調べましたが外側からは確認できません。しかし、がらけぇ――折りたたみ式の携帯電話が元になっている破蓋なので、開くとその中に核を確認できました」
ナナエの説明にヒアリはガラケー破蓋の形状と動きを見つつ、
「でもでも、見た感じ、こじ開けるの難しくない?」
「その通りです。私が先程無理やり開けようとしたしましたが、かなり困難でした。蹴飛ばして壁の近くに移動させれば階段を足場にして開く事はできると思いますが、対物狙撃銃の衝撃にも動じないので無理でしょう。しかし、動かすことが出来ないだけで折りたたみ状態を少しだけ開くことはできました」
そこまで聞いたヒアリはぽんと手を叩いて、
「あっ、だから第3層なんだね。ナナちゃんすっごーい」
そういろいろ察したようだが俺にはさっぱりわからん。
(おい、俺に説明しろよ)
(察しが悪い人ですね……第3層は近接戦闘を行うために大穴の壁をぐるっと広めに足場を確保しているでしょう。あのがらけぇ破蓋というのはやや壁側に位置して浮上を続けています。恐らく第3層では足場寸前を通るか突き破ると思われます)
その説明にだいたい理解した。ガラケー破蓋の上に乗っかって開くのは難しいが足場に乗って状態でガラケーを開くならできるかもしれないってことか。しかし、それも結構難しそうだし、それ以上に、
(誰が開くんだ?)
(私とおじさんでやるしかないでしょう。ヒアリさんでは危険すぎます)
(さっき危うく串刺しになりそうだったんだが……)
(その時はお願いしますね)
(うえー)
俺はげんなりとする。あんな⚡がぶっ刺さるとかいくら傷が治るといってもダメージだけでショック死しそうだ。
ふと思いつく。ヒアリがガラケー破蓋を開いて核を露出させ、そこをナナエが狙撃でぶち抜けばいいんじゃないか。
しかし、それを口にするのはやめた。そんな俺が思いつくようなことはナナエもとっくに思いついているだろう。
だが、俺でも思いつくってことは当然ヒアリも思いつく。
「そうだ! 私があの折りたたみ式破蓋をこじ開けるからナナちゃんが撃ち抜けばいいんじゃないかな?」
「駄目です」
問答無用に否定するナナエ。続けて、
「でもでも! 私もせっかく英女になって一緒に戦えるようになったんだし、ナナちゃんのために戦いたいよ!」
「それは情報が出揃って撃退法が確立していたときにやってもらいます。先程も言いましたが、今回は新型です。しかも、かなり厄介な相手です。初陣のヒアリさんでその役割をやってもらうのは危険が大きすぎます」
「でも!」
あくまでも食い下がるヒアリだったが、ナナエは笑みを浮かべて、
「大丈夫ですよ。焦る必要は全くありません。ヒアリさんにはこの先末永く私とともに戦ってもらいますからね。覚悟しておいて下さい」
「……うん」
納得できない感じのヒアリだったが、それ以上抵抗することはなくしゅんとした感じに頷く。
俺はふと思う。ナナエはずっと新型だからという理由でヒアリを戦闘から遠ざけようとしている。しかし、新型だからこそ今はあらゆる手段を持って倒さなければならない状況なんじゃないだろうか。にもかかわらずこれだけ強硬にヒアリを戦わせないのは変な違和感を覚えてしまう。
ナナエは少し考えてから、
「作戦はこうです。ヒアリさんは上の方で様子を見ていて下さい。私が一人で破蓋をこじ開け、内部の核を直接破却します」
シンプルな作戦だが俺は問題を感じ、
(でも、あの破蓋の攻撃はどうするんだ? あのガラケー野郎がそれを黙って見ているとは思えないぞ)
「せめて敵の攻撃がどういうときに来るのかがわかればやりやすいんですが……」
「あの⚡みたいなのはなんなのかな?」
ヒアリの問いにナナエはわからないと首を振って、
「携帯電話なので恐らく電波の記号化なにかでしょう。着信音がした後に発射され一定期間したら止まります」
「なんでとまるんだろうね。すっごい攻撃ならずっと使ってきそうなのに」
うーんと唸るヒアリ。確かにそのとおりだ。あれだけ威力が大きいんだから撃ちまくっていれば、ナナエを圧倒していただろう。なぜ毎回途中でやめる?
俺は自分がガラケーを使っていた時を思い出してみる。確かに着信した後になりっぱなしってことはなかったな。しばらくしたら必ず――あ。
(留守番電話サービスじゃないか?)
(るすばんでんわさーびすってなんですか……ああ、電話を取れなかったときに通話を記録しておく機能のことですね……あ!)
ナナエも理解したらしい。首を傾げているヒアリに、意気揚々と、
「そうです、留守番電話です! 電話がずっと鳴りっぱなしってことはありません。しばらくしたらかならず止まって留守番電話機能につながります」
「あ! そっか! ナナちゃんすっごーい!」
ヒアリも感心してナナエを褒め称える。ナナエはフフンと得意げな顔をしているが、ちょっと待て気がついたのは俺だぞ。
俺の文句に気が付かないナナエはガラケー破蓋のことを思い出しつつ、
「あの破蓋が留守番電話に移行するまでの着信音の回数がわかればいいんですが……」
「私数えてたよ! あの破蓋の着信音は10回なったら止まってた!」
どうやら上で待っているときに数えていたらしい。ナナエと俺は飛んだり跳ねたりでそれどころじゃなかったからこれはありがたい情報だ。
「留守番電話機能への移行は設定で決まっているのでいつも同じと考えるべきでしょう。ならあとは簡単です。ヒアリさん、助かりました」
「えへへ~」
褒められて嬉しいようでヒアリは屈託のない笑顔を浮かべる。
「ヒアリさんは上方で待機していて下さい。そして、私が万一失敗して動けなくなった場合は破蓋の攻撃が停止した後に救助を。結構難易度が高くて重要な役割なのでお願いします」
「わ、わかったよっ!」
鼻息を荒くするヒアリ。そして、少し上の方へ大きくジャンプして昇っていく。
ナナエは対物狙撃銃を脇において、腰につけている拳銃のチェックをする。今回の作戦ではこっちだけで十分だから置いておくんだろう。
そんなナナエを見ながら俺はもやもやした感じになり、
(なあ)
(なんですか)
ナナエの声はいつもどおりに聞こえた。
(いやなんでもない)
(そうですか)
でも結構長い付き合いになってきたから何となくナナエの様子がおかしいのが分かる。
恐らくナナエはヒアリを失うことをかなり恐れている。もうナナエは5人も英女の仲間を失っているんだから慎重になるのは当然だ。ただ、あまりに恐れすぎてないか? これは破蓋を倒すのに支障をきたしかねない。
だが、それを口にする度胸は俺にはなかった。ナナエを下手に傷つけかねないからだ。
それに……なぜかそれだけの理由でもない気がした。
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