第63話 ガラケー破蓋1
「では、まず牽制して相手の出方を伺います!」
まだ500円玉程度の大きさにしか見えないガラケー破蓋に向けて、ナナエは大口径対物狙撃銃を発砲する。激しい衝撃音とともに発射された弾丸は見事に破蓋に直撃した。
が。
「弾かれた!?」
確かに命中したはずなのにガラケー破蓋は全くダメージを受けてないように上昇を続けてきた。しかも、当たるたびに弾き飛んでいた電動シェイバーのときとは違い、ピクリとも動かない。
「次っ!」
ナナエは再度発砲する。今度も直撃するが、やはり弾かれその体躯は揺らぐこともなく上昇を続けている。
一旦ナナエは照準から目を離し、
「……なるほど。おじさんの言っていた通り、かなり頑丈ということですね」
(いやいや、スマフォに比べれば頑丈って話であって、こんなでかい銃の弾がぶち当てられてもピクリともしないって意味じゃねえぞ)
いくらなんでも硬すぎる。吹っ飛びもしないってどんな構造してやがんだ。
ナナエは再度照準を定め、
「破蓋は得体の知れない力で活動しています。私の射撃がまともに通じないこともよくあったので不思議ではありません」
(しかし、これだと倒しようが……ん?)
ここで突然ピピピピ、ピピピピ、ピピピピという音が大穴の中に響き渡った。ナナエはまた照準から目を話しあたりを見回す。
「これは……」
ちょうどナナエがガラケー破蓋の方を見たときに俺はそいつの表面にある小さなディスプレイに何かが表示されていることに気がついた。そこで音の正体を理解する。
(着信音か)
「着信? あの破蓋が電話をしているってことですか?」
(多分な。しているってか電話がかかってきたって感じだと思う)
ずっと前のガラケーはあんな音だったのを思い出す。着メロとかあったけど面倒だったからデフォルトで使ってた。
しかし、着信したからって何が起きるのかわからんぞ。
ここでナナエは狙撃の構えを解いて立ち上がり、
「嫌な予感がします。一旦移動します」
そう言って上に向かって大穴の壁の階段を駆け上がる。
その時だった。破蓋の一部から何かが伸び上がる。
なんだありゃと思ったが、すぐにそれがアンテナだということに気がついた。そういや昔のガラケーはあんなふうに電波を拾いやすくするために伸ばす事ができたんだよな。しかし、この破蓋が電話しやすいためにアンテナを伸ばしたとは考えにくい。なら――
(なんか来るんじゃねえか? 一旦俺と代わるか? 走って階段を登るだけならできるが)
俺がそういうとナナエは一旦考えてから、
「念のためにそうしましょう。お願いします――」
その返事と同時だっただろう。突如破蓋から――なんと言って良いのかわからないが波のようなものが放出された。その次に今度は――
「――――っ!?」
考える暇もなかった。何かが俺めがけて多数飛来し、階段沿いの壁に次々と突き刺さる。轟音とともに大穴の壁が砕け散り、激しい衝撃と破片が俺の身体に降り注いだ。
「なんだこりゃ!」
俺の目の前には巨大な――巨大な――なんだこれは。表現し難いものが壁に突き刺さっている。形は⚡みたいなものだ。それが俺を取り囲むように複数壁に突き刺さっていた。
(おじさん!)
ナナエの叫び声と同時に俺は反射的にさっきとは逆に階段を駆け下りた――次の瞬間、またもは無数の⚡が壁に次々と突き刺さる。
運良く破蓋の方を見ていたので今度は何をされたのかだいたいわかった。あのガラケー破蓋が伸ばしているアンテナの先端から⚡が俺めがけて多数発射されたのだ。
さらに攻撃が続いて、俺を追いかけるように⚡が次々と壁に突き刺さる。
(これは一体何ですか!?)
「知らねえよ!」
ひたすら走って逃げることしか出来ない俺とナナエ。⚡のサイズはかなり大きく、速度も早い。万一直撃なんてしたら俺の身体が切り裂かれるのは想像に難くない。
このままじゃジリ貧だ、と思ったがここでガラケー破蓋が鳴らしっぱなしだった着信音が止まり、同時にアンテナも引っ込んでいく。表面の小さなディスプレイはまだ何かが表示されたままだったが、攻撃は止まったらしい。
しかし、破蓋の上昇は止まらずついに第6層の領域にまで入ってきた。
「戻すぞ」
(はい!)
今のうちに身体の主導権をナナエに返しておく。すぐさまナナエは耳につけた通信機でヒアリと連絡を取る。
『ナナちゃん大丈夫なの!? さっきからすごい音が聞こえっぱなしだよ!』
「ヒアリさん、今すぐ第3層まで退避して下さい」
『どうしたの!? 大変なら私も戦うよ!』
ヒアリはこちらに来たがっているが、それは悪手だ。⚡の威力を見る限り、もしヒアリに当たったら即死するだろう。
「この破蓋の攻撃は極めて強力でなおかつ素早いものです。私ならいくら当たっても問題ありませんが、ヒアリさんはそうはいきません。そのため一旦態勢を立て直すので、先に第3層まで戻って下さい。私も破蓋の情報を得た後に向かいます!」
『わ、わかったよ! 気をつけてね!』
ナナエは通話をやめてまた階段を走る。ガラケー破蓋はゆっくりと上昇しているが、今は攻撃する素振りを見せていない。
(俺達はまだ逃げないのか?)
「このまま上に逃げたところで状況はかわりません。もっと破蓋の情報を得なければ対抗策も考えられません。すいませんが、おじさんは協力してもらいますよ」
(できるだけ当たらないようにしてくれよ)
「善処します」
今回も手こずりそうだな、こりゃ。やれやれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます