第62話 ジェネレーションギャップ
ナナエが携帯端末で観測所から送られてきた破蓋の画像データを開いて確認する。
破蓋サイズは小さい。前回の電動シェイバーと同じぐらいだろう。形状は長方形で厚みはそこそこといったところ。色は青色。よく見ると長方形の本体の真ん中に小窓のようなものがあり、頭?の片側に角――というか筒みたいなのがついている。一番特徴的に感じるのは長方形の本体の片方は口を閉じているみたいになっていた。ぱかっと縦に広げられるような感じがする。
ナナエはこれがなんなのか凝視していたが、しばらくして首を振り、
「私の把握している限り、過去にこのような形状の破蓋はいません。新型で間違いないでしょう」
(あまり大きくはないな。電動シェイバーみたいにくねくね動いているわけでもなく、ゆっくり上昇してきているだけだ。破蓋の元がわかって弱点を特定できれば、戦うのは難しくなさそうな感じだな)
「そうなんですが……しかし、私にはこれがなんなのか判別が……おじさんは見覚えがないですか?」
凝視してなんとか特定しようと試みるナナエだがやはりわからないらしい。俺も破蓋の画像を見ていたが、ふと長方形の本体にある小窓みたいなものでピンときた。
(これガラケーじゃね)
「がらけぇってなんですか」
(携帯電話だよ。俺もスマフォ――お前と同じタイプの携帯にする前は長く使ってたな)
説明しやすい敵でよかったと俺は安堵したが、それは間違いだった。ナナエは自分の携帯端末を見て、
「携帯電話とはこのように平べったくて画面がいっぱいに広がっているもののことでしょう?」
堂々とそんなことを言われてしまった。
異世界に来てまでジェネレーションギャップを食らうかよ……。俺はなんと説明すれば良いのか少し考えてから、
(お前の世界じゃどうか知らないが、俺の世界ではこんな破蓋みたいな形をした携帯電話があったんだよ。ぱかっと開くとその中に小さな画面と電話番号を打てるところが出てくる)
俺が説明するもナナエはいまいちわかりにく良いらしい。そこで、
「ヒアリさん、がらけぇって知ってますか? 新型の破蓋についての形状を調べているところなんですが、それが手がかりになりそうなんです」
そうナナエが耳に付けた無線機でヒアリに聞くと、
『がらけぇって聞いたことないよ! ごめんね!』
なぜか嬉しそうな口調とは裏腹にわからんと言われてしまった。頼られた事自体が嬉しかったんだろうか。
(てか、ガラケーって名前じゃ通じないだろ)
「そもそもがらけぇってどういう意味なんですか。おじさんが使う言葉はわからないものが多すぎます」
(ガラパゴス携帯の略称だよ。ガラパゴスっていうのはどこかの国だったか島の名前で周りから隔絶されて独自発展したとかそんな意味に使われていたと思った)
「なるほど、自国の文化を大切にしているということのようですね」
(……いや、いい意味じゃなくて悪い意味で使われてたな。世界の潮流から外れているとかなんとか……そんなことよりヒアリに形状で説明しとけ)
「は、はい。ヒアリさん。がらけぇというのは携帯電話のことのようです。それで形状は小さく長方形になってますが、片方から開くと縦に長い電話になるそうです」
ヒアリはうーんとしばらく考えていたが、ぽんと手をたたく音が聞こえ、
『知ってる知ってるよ! お父さんが前に使っていた携帯だと思う!』
どうやらこの世界にはガラケーはあるらしい。本当に言葉の一部が通じない以外は俺の世界と変わらないらしい。てか、
(この世界でもちゃんとあるじゃねーか。お前は知らなかったのかよ)
「し、仕方がないでしょう。私の両親は携帯電話を持ってなかったんです。私自身もこの学校に来てからしばらくして持つようになったので昔のものはよく知らないんですよ」
(お前んちってカミソリでヒゲを剃るわ、携帯持ってないわと少し変わってないか?)
「そうですか? そもそも他の家庭の事情をきっちり調べたりはしないので比較できません」
そうナナエに反論される。確かに他所の家の内情なんて知らないことが多いよな。こいつがここに来たのは10歳の頃らしいし。
「ありがとうございます、ヒアリさん。また必要があれば連絡します」
『何かあったらすぐに言ってね! すぐに駆けつけるから!』
そうナナエはヒアリとの連絡を終える。再度携帯でガラケー破蓋の外見を確認しつつ、
「しかし、旧式の携帯電話の破蓋とは……」
(今までは電話の破蓋とかいなかったのか?)
「いませんでしたね。言われてみればいてもおかしくありませんでしたが。そのためどういう能力を持っているのかちょっと予想ができません。おじさんは攻撃手段など推測できるような情報は持ってますか?」
そうナナエに尋ねられるが、俺はうーんと困ってしまう。電動シェイバーは髭剃りアタックとすぐに分かるが、携帯電話が襲ってくると言われても全くイメージできない。
俺はしばらく考えたが、
(さっぱり思いつかねぇ)
「なら恐らく攻撃は体当たりでしょう。明らかに戦闘に向いていない形状の破蓋が現れることがありましたが、そういう場合、長く柔らかいものがある形状であれば、それを鞭のように振るい、それもない場合は体当たりをしてくる事が多かったです」
ナナエの説明に俺は前回のガスコンロ破蓋がホースで殴りかかってきたのを思い出す。その前のヘアブラシも紐を使ってたな。しかし、ガラケー破蓋には本体以外内にもない。ストラップとかついていたらそれで攻撃してきそうだが、見た感じついてはなさそうだった。
そろそろ破蓋が見えてくる時間になったのでナナエは大口径対物狙撃銃をチェックしつつ、
「他にはなにか特徴とかありますか?」
(そうだな……スマフォ――お前が持っている形状の携帯電話よりは頑丈だった。折りたたんでいるから落としても表面が傷つくだけで壊れることは全く無い。お前のは画面がでかいから落としたらすぐ割れるし、動作不良も起きやすい)
「なるほど。そこは意識しておいたほうが良さそうですね」
俺もスマフォ買ったあとに、胸ポケットから落としたら再起動繰り返すようになったからな。多機能で便利だけど精密機械すぎる。
そんな話をしているときだった。大穴の底がかすかに動いた。
「どうやら見えてきたようですね。さて……」
ナナエは相棒である大口径対物狙撃銃を構えた。
「ここから先へは行かせません!」
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