第54話 学校の変人たち4

「おっまたせー」

「ウーィ」

「遅くなった、だそうです」


 そう言いながら工作部が軽トラックでナナエの部屋につながる階段の前に乗り付ける。てか、中学生ぐらいなのに自動車運転なんてしていいのか? ここが私有地ならできるとかかもしれないが、俺の世界と法律が違ってこの歳でも免許が取れる可能性もあるか。というかそもそもこの学校や寮は誰が権利を持っている土地なんだ。まあそんなことはどうでもいい。

 なおその軽トラックの中にはヒアリの荷物が入ったダンボールが積まれていた。すでにヒアリの部屋を空っぽにし、ハイリの部屋が空き次第ヒアリの荷物を持ち込む予定だ。


 工作部の連中は息を切らせて5階までの階段を昇っては、ガラクタを持って階段を下り、軽トラックの荷台に乗せるとまた5階まで昇っていく。はー。こりゃ辛い作業だ。引っ越しのバイトをちょっとやったときもこんな感じだったな。


「よいしょっ」

「わー、すっごーい!」


 工作部がトラックに荷物を積んでいる間にヒアリの私物の入ったダンボールを5階の部屋まで持っていこうと、ナナエが数個まとめて持つとヒアリが感嘆の声を上げる。しかし、ナナエは呆れ顔で、


「ヒアリさんももう英女なんですから簡単に持てますよ」

「えへへ、そうだったね」


 ヒアリも残りの数個のダンボールを持って階段を登り始めた。

 

 ……………


 だいぶ日も傾いたころにようやく引越し作業が終わった。


「はい、これ鍵」

「じゃあ私の交換だね」


 ハイリとヒアリはお互いの部屋の鍵を交換する。すでにハイリたち工作部は軽トラックに乗っているので、そのまま立ち去ろうとするが、


「あー、ミチカワさん。ちょっといい?」

「なんですか?」


 ナナエに声をかけてきた。ハイリは続けて、


「工作部はいろんなものを開発しているんで技術はあると自負しているんだ。だから、なんか必要になったものがあったら何でも作るから言ってくれよ。すぐに作って持っていくから。手伝えることがあればすぐに手伝うぞ」

「いえ、装備なら現状で間に合っているので……」

「なんでもいいんだよ。少しでも手助けになるのならさ」

「しかし、安易に英女以外の人を戦闘行為に巻き込むわけには――」


 ハイリの申し出にナナエはあくまでもノーと言いたげだったので、


(おい、せっかくの申し出だしとりあえず受けとけよ。必要なものがなければ頼まなければいいだけだし)

「しかし……」

(俺の世界には猫の手も借りたいっていう言い回しがある。英女じゃなくても、飯作ってくれとか戦闘後の片付けの手伝いをしてくれとかいろいろやれることはあるだろ? いつでも動かせる人手があれば損にはならないぞ。断る理由もないだろう。巻き込みたくないっていう気持ちはわかるが)


 俺の言葉にナナエはしばらく考えていたが、やがてペコリとお辞儀し、


「わかりました。何かあれはお願いします」

「私もいいよー! 手伝いとかじゃなくてお話とか一緒に遊んだりとかもしようよっ」


 ヒアリも両手を振って歓迎のポーズを見せている。

 ハイリも笑顔で答えていたが、少し表情を落ち着かせた後、


「あたしらさー、この学校に来てからいきなり適正値が低いから英女になれる可能性はないとか言われたんだよ」

「……それは私も言われてました。あくまでもこの学校にいることができる適正値の範囲内で英女として選ばれるのには程遠いと」


 ナナエもそう頷く。ハイリも頷いて、


「あたしらがここに呼ばれたのは結局学校の雑用とか教員役とかやるためだってね。だから、ミチカワさんが英女に選ばれたときは同学年で適正値の低かったあたしらみたいなのから結構騒がれたんだよね」

「……それも認識してます」


 ナナエは少しうつむき加減になる。昔のことを思い出しているんだろう。例外が起きたんだからいろいろ思い出したくないこともあるはずだろうな。


「それでさ、あたしも希望あるじゃんと思ってたけど、その後はなにもなし。それで仕方ないから大穴の修繕とかやってたけど、やっぱり物足りないんだよね。せっかくこんなところに来たのに何もせずに終われるかー!って。それで工作部を始めて、なんか破蓋と戦えるようになれないかって始めたんだ。その後にミミミとマルも加わって、無人機作ったりとか自動車改造とかぐらいできるようになってる」


 ここでハイリはぐっとミミミを抱き寄せて、


「とくにミミミは本当にすごいから! こいつ英女になれずにただ消えていくとかありえないから!」

「ウィ?」


 頭を撫でられて首をかしげるミミミ。マルも頷いて、


「工作部の開発案とか設計とかみんなミミミさんがやってますからね。ハイリさんは応援しかしてませんし」

「ちょっと待て。部品の買い出しとかやっているのはあたしだぞ!?」

「それは私でもできますから」


 頬をふくらませるハイリとフフフと意味深な笑みを浮かべるだけのマル。


「だから、あたしらも破蓋退治に協力したいわけよ。どんな細かいことでもいいからなんか言ってくれ。本当はもっと早く言いたかったんだけど……ほら、なんか大変そうだったし声かけづらくてさ」

「はあ……」


 なんと返していいのかわからないのかナナエは生返事だけ。

 ここでヒアリが目を輝かせて、


「すごいよ! 私も今度作ったの見に行っていいかな!?」

「おう、いいぞ。部室とか学校の校庭とかにこっそり保管しているからいつでもみせてやろう」


 そんな話をしたのちに、


「なんか創作意欲がまた沸いてきた! 帰ってなんか作ろうぜ! またな!」

「ウィ」

「失礼します」


 そう言って工作部が乗った軽トラックが去っていく。


 全く嵐でも通り過ぎたようだったな。

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