第53話 学校の変人たち3
「で、まず紹介するわね。そちらがミチカワ・ナナエさん、もうひとりが今日転校してきたカナデ・ヒアリさんよ」
「ど、どうも……」
「ヒアリだよー。くるりんぱ♪」
事務所で工作部三名と対面する俺たち。
ナナエは面識のない相手のせいかやや硬めだが、ヒアリはいつものように可愛く挨拶する。
ハイリは腕を組んでふんぞり返ったまま、
「で、要件とは? 我々は忙しいんだが」
「どうせ得体の知れないものをつくっているだけでしょ……こちらのミチカワさんとカナデさんが英女として組むことになったので、連携強化のためにハイリさんの部屋をカナデさんと入れ替えてもらえないかって相談があったのよ。ミチカワさんの正面の部屋でしょ?」
「それは困る」
事務の人の話をあっさりと拒絶されてしまった。それにナナエはうーんと困り、ヒアリはしょぼーんとしている。
が、次にハイリが言い出したことで状況は一変した。
「あそこは開発部品の倉庫になっているからな。いろんなものが一杯で移動するのが面倒くさい」
「って、住んでないの!?」
事務の人が仰天するが、ハイリはまたふんぞり返って、
「最近は別棟のミミミの部屋にマルといっしょに住んでいるぞ。元々団地の部屋を改造しているから広さ的には問題ない」
「仲いいんだー」
笑顔でヒアリがそう言うとハイリは、
「我々は一心同体も同然だからな。常に開発計画と思想と理想を共有しあい思いついたら即座に実行だ。授業とかいちいち出ている暇がないほど忙しい」
「生徒会が頭抱えていたから出なさいよ……。それに寮を勝手に倉庫にするのは問題よ」
事務の人は頭を抱えてしまう。しかし、ハイリはあくまでも強気に、
「はっはっは。寮の規約には人の迷惑になるようなことは禁止とは書いてあったが倉庫にしちゃいけない、なんて書いてなかったぞ」
「常識で考えなさい」
「お断りします」
全く話を受け付けようとしない。善人でお人よしだらけのこの学校にとんでもない奴がいたもんだ。
「ウィウィ」
ここでミミミがハイリの制服を引っ張る。同時にマルが通訳し始めて、
「ハイリさんの部屋は部品じゃなくて置き場所に困った失敗作の倉庫だったはずと言っています」
「あれ、そうだったっけ?」
「確か無人機を作ったものの空を飛ばしていたら墜落して怒られて即刻破棄しろと言われたもののもったいないからと確かハイリさんの部屋に押し込んでおいたのもあったかと……」
「ああ、そんなのあったなー」
「あれ捨ててなかったの!?」
マルとハイリの話に仰天する事務の人。ナナエは横から首を突っ込み、
「何かあったんですか?」
「この人達が無人で飛ぶ飛行機を作って寮の敷地を飛ばしまくった末に事務室に体当りして窓が割れたのよ。平日昼間だったから生徒はみんな学校にいなくてけが人とか出なかったのが幸い」
「当然だろう。誰も居ない時間帯で飛ばしていたんだからな。我々の計画性を甘く見てもらっては困る。ついでに行っておくと飛行機だが固定翼機じゃなくて回転翼機だからな!」
ハイリの余計な解説に事務の人はもう疲れ切ったように頭を抱えてしまっている。しかし、一方のヒアリは目を輝かせて、
「無人の飛行機なんて作れるんだ! すっごーい!」
「はっはっは。我々の技術は本物だぞ。何か英女で必要になりそうなものがあったらどんどん言ってくれて構わない。ガンガン開発する」
「いえ、わけのわからないものを神聖な大穴の中に持っていくのはちょっと……」
ハイリの申し出にナナエが頭の硬いことを言っているが、俺は悪くない話だと思った。胡散臭い連中だが、スキルは確かにありそうだし、破蓋との戦いに有効になりそうなものの作ってくれるかもしれない。例えば防具とか作ってれれば俺が痛い目に合わずにすむ。
ミミミが更にハイリの袖を引っ張り、
「……ウィ」
「それをヒアリさんの部屋に移動して入れ替えればいいと言っています。私たちの活動で英女の邪魔をするのは不本意だと」
「む。ミミミがそういうのならまあ仕方ない」
あっさりと主張を翻してしまうハイリ。ミミミってやつの意見は割りと素直に受け入れるのか。
ここでヒアリが身を乗り出して、
「えっいいの!?」
「はっはっは。我々の活動目的から考えれば英女に協力するのは当たり前だからな」
「わーいありがとー!」
「うひゃあ!」
そう言ってハイリに抱きつくヒアリ。こういうスキンシップに慣れていないのかハイリの方は情けない声を上げてしまった。というかヒアリは本当にすぐに友だちになろうとするんだな。
一方すっかりかやの外だったナナエは小声で、
「なにか先が思いやられる感じになってきました」
そう嘆息していた。
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