第51話 学校の変人たち

「すいませーん」


 ナナエは管理事務所の入り口から入る。中では二人の少女が事務作業っぽいことをしていたが、呼ばれて一人が受付にやってきた。


 見た感じ、ここも教師とかと同じく高等部の生徒がやってるっぽいな。入り口に16~19時までと書かれているから放課後だけ事務所が開かれているようだし。


「ミチカワさん、こんにちわ。ここに来るのは珍しいわね。そっちは初顔だけど」


 視線を向けられたのはヒアリだった。すぐに手を挙げて、


「はいっ、今日からこの学校に転校してきたカナデ・ヒアリです! よろしくおねがいします、くるりんぱ♪」


 ヒアリは教室での挨拶と同じようにくるっと周って顔の前でダブルピースをするポーズをする。


「……そのくるりんぱってなんなんです?」

「前に放送でやっていて可愛いと思ったから、自己紹介とかするときにこうしているんだよっ」


 意味がわからないと困惑するナナエに、ひたすら笑顔のヒアリ。あー、やっぱり可愛いなぁ。

 事務の人もふふっと、


「新しい英女ね。転入生がいきなり英女なんて大変な役目だろうけどがんばって」

「がんばりますっ!」


 大きく頭を下げるヒアリ。あまりのオーバーリアクションで事務の人もくすくす苦笑いしてしまっている。

 すぐにナナエは話しを戻して、


「それでヒアリさんの部屋についてご相談があるんですが」

「一昨日転入の手続きしてすでに荷物もみんなそこにおいてあるはずよ。何か問題があった?」


 事務の言葉にナナエは首を振り、


「いいえ、問題はないんですが、ヒアリさんと英女として連携を深めるために近くに住めればという話になりまして」

「あれ、ミチカワさんはしばらく一人部屋だったけど二人部屋に変えたいの?」


 話が飛んでしまい、ナナエは慌てて、


「いっいえ、それは諸般の事情により出来ないので私の部屋の正面の部屋の人とヒアリさんを入れ替えてもらうという方法が取れないかと思いまして」

「あー、なるほど部屋の入れ替えね」


 事務の人はすぐに納得するが、ここでヒアリが首を突っ込んできて、


「あのあのっ、でもでもっ、今いる人が嫌だっていうなら仕方ないので……」


 そう手を前に出してストップのポーズをとる。しかし、顔は残念そうなのでやっぱりヒアリと同居か隣の部屋にはなりたいらしい。一方でも無理強いはしたくないという意思もありそうだ。


 事務の人はすぐに机の棚から分厚いファイルを取り出してきて、


「ミチカワさんの部屋どこだっけ?」

「第35棟の501です」

「じゃあ反対側の502だから……あー」


 そこで事務の手が止まって、腕を組んで唸ってしまう。

 問題発生の気配にもうひとりの事務がこちらにやってくるが、簡単に説明されると同じように唸ってしまった。


(もしかしたら幽霊がいるのかもしれないぞ)

「嫌なこと言うのやめてください」


 小声で渋い顔をするナナエ。なんだよ、破蓋なんて化物と戦っているのに幽霊は怖いのかよ。

 ここでヒアリが寄ってきて、


「どうしたの?」

「なにか問題があるようです」

「……やっぱりダメなのかなー」

「いえそういう話ではなさそうですが」


 早合点して残念そうにするヒアリに、ナナエはまだですと言っている。

 ここで事務の人が戻ってきて、


「とりあえず住んでいる人はわかっているから連絡してみるわね――」

「あ、いらないいらない」


 電話をかけようとしていた事務の人に、もうひとりの事務が止めた。そして、耳を澄ますポーズを見せている。


 ガガガガガガガガ。どこからともなく何かが動く音が聞こえてきた。


「…………?」

「なんだろ?」


 異様な騒音にナナエとヒアリも不安顔になる。

 その音は外からだった。ほどなくして、管理事務所の前に大きな機械――異形の自動車みたいなのが止まった。


「まーた変なもの作って」

 

 事務の人と俺達が外に出てみれば三人の少女がモップやらハケやら周りにいっぱいつけた自動車が停められていた。挨拶した一人はその前に立っているが、二人はなにやら清掃車だかなんだかの内部をいじってる。


「おや、知らない顔がいるな! ミミミ! マル! 新顔さんに紹介するぞ!」


 最初に立っていたのはリーダーなんだろうか、そいつの呼びかけで三人共が集まってきた。

 そして、リーダーが大きな声で叫び始める。


「まず、ミミミ! 私たち工作部の精密技術の結晶体! どんな狭い場所・小さな隙間の中の作業でもどんとこい!」

「ウィ」


 まず黒髪ロングストレートで更に前髪が長すぎて片目が隠れている少女が前に出てよくわからない言葉の挨拶をしてきた。しかし、その背丈はとにかく小さい。140cmはないんじゃないか?


「次、マル! 私たちの工作部の思考回路! 開発計画から調整、支援まできちっとやりきる!」

「どうも、マルです~。よろしくおねがいします~」


 こっちはナナエよりも背丈が高い。茶色がかったふんわりとした長い髪が背中まで垂れ下がっている。ついでに胸もでかい。中学生離れしているような容姿で大人にすら見える。


「最後に、この私ハイリ! 工作部の部長だ! 有言実行、初志貫徹、やろうと決めたらどんなことをしてでも貫徹する!」


 最後のは部長らしい。こっちはヒアリと同じぐらいの体格でショートカットのボーイッシュなタイプだ。


 って、なんで俺は、どこの誰かもわからん連中のいちいち容姿チェックなんてしているんだ。


「わー、なんかすごーい!」


 そうヒアリは盛大に拍手を送っていたが、ナナエはこの変なノリの前に困惑のジト目で工作部を名乗った連中を見ることしか出来なかった。

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