第47話 カナデ・ヒアリ

「今日からこの学校に転校してきたカナデ・ヒアリさん。すでに新たな英女として神々様として選ばれ、これから世界を守るために戦う皆さんの仲間です」


 パチパチパチパチ。教室内の生徒たちがみんな笑顔で歓迎の拍手をしている。

 ここは中等部の教室でナナエから1学年下だ。とはいってもこの学校は英女候補の女子だけなので生徒数が少なく、1学年1教室しかないのでナナエの教室の隣に位置している。

 

 今日は新しい英女のカナデ・ヒアリが転校してくる日。朝イチで担任が転校生の紹介を始めている。


 んで、俺らはその教室後ろの出入り口から顔だけ覗いていた。


(なあ、なんでこんなところから覗き見してんだ?)

「ちゃんと私の教室の担任には許可をもらったでしょう」

(確かに新しい英女を確認したいとは言って許可もらったけど、こういう意味ではないと思うんだが)

「う、うるさいですね。知らない教室に堂々と入るのは緊張感というかやりにくいんです」


 英女としていろいろあったのはわかるが、こいつ根本的にコミュ障なんじゃないか? しかし、口に出すとこの場で怒り出しそうだから黙っておく。


 担任が一通りカナデ・ヒアリについての説明を済ませると、


「では、カナデさん。自己紹介を」

「はい! 今日からこちらの学校でお世話になるカナデ・ヒアリです。好きなものは可愛いもので、服を可愛くいじったりしています。明るく元気で前向きなことが取り柄です、あとヒアリって呼んでください。よろしくおねがいします――」


 そこまで言ってから急に言葉を止めてうーんと少し考えた後、


「はーい! みんなー、ヒアリだよー! くるりんぱ♪」


 突然くるっと一回転し顔のところで斜めにダブルピースして笑顔を見せた。

 突然のヒアリの行動に、最初は教室の生徒達は固まったが、すぐにぱっと笑顔になって大きな拍手を送った。

 そんなカナデ・ヒアリを見て俺は思わず本音がこぼれ出る。


(かわいい)

「は?」

(いやなんでもない聞き逃がせ)


 俺が慌てて煙に巻こうとするが、ナナエは目くじらを釣り上げ、


「聞き逃がせませんよ。カナデさんに下衆な感情を向けるとか許しませんからね!」

(仕方ないだろ、かわいいもんはかわいいんだから)

「今の反応で決めました。カナデさんとは同室の希望は出しません。やはりおじさんが危険すぎます」

(同感だ。あんなのと一緒にいたらどんな衝動に駆られるかわかったもんじゃねえ)

「否定しないんですか!?」

「あの、ミチカワさんさっきからそこで何を?」


 教室後ろの出入り口から覗いていたナナエに担任(高等部)が怪訝な表情を向けてくる。ナナエは慌てて、


「気にせず続けてください」

「はあ」


 釈然としないまま担任がカナデ・ヒアリの紹介に戻ろうとするが、


「あー!」


 突然カナデ・ヒアリが大きな声を上げて小走りでナナエのもとに駆け寄ってきた。そして、突然手を握ってきたのでナナエは困惑してしまう。


「えっえっ」

「ミチカワ・ナナエちゃんだよね! 写真で見たよ! 私、カナデ・ヒアリ! ヒアリって呼んでもらって構わないから! よろしく!」

「いやそのあの……」


 怒涛の勢いで話しかけてくるカナデ・ヒアリ――ヒアリでいいか――にナナエはどう答えていいのかわからずオロオロするばかり。

 そんなナナエを見てヒアリは慌てて手を話し、


「ご、ごめんね! 驚かせちゃったみたい。つい、話に聞いていた英女さんと会って嬉しくなっちゃった。私、会って5秒で友達が信条だからつい」

「5秒!?」

 

 えへへと後頭部をかくヒアリにナナエは仰天するしかない。

 俺はヒアリの姿を見る。写真と同じく茶色の入った少し長めの髪を二つのおさげにしている。目はパッチリしていて大きく、表情も明るく可愛らしいタイプだ。スタイルも別に色っぽいとかそんなのではないが健康的な体つきをしている。

 俺は一通り見てまた本音が溢れる。


(かわいい)

「破却しますよ」


 ナナエが凶悪な視線で物騒なことをいい出したが、当然今正面を向いているのはヒアリなので、


「え? どういうこと?」


 意味がわからず首を傾げてしまった。そんな仕草もかわいい。

 すぐにナナエは手を振って、


「い、いえ、なんでもありません。今はちょっと顔を見に来ただけですので――多分放課後にコウサカ先生のところに来るように言われていると思いますので、またそのときにお話をしましょう。もう授業が始まりますので……」

「うん、わかったよ! また放課後おしゃべりしようね!」


 そういうとヒアリはパタパタと教壇の方に戻ろうとするが、担任が止めて、


「カナデさん、席は最後尾真ん中ですのでそちらに」

「あ、はい!」


 そうUターンして空いている席に座る。そして、すぐに周りの生徒達と挨拶を交わし始めた。


 そんなヒアリを尻目に教室から離れ、自分の教室に戻ろうとするが、大きくため息を付いて、


「なんか苦労する気がしてきたました」

(俺もだよ。色んな意味で)


 そう同意しておいた。俺の場合、変な感情を抑制するのが大変そうだって意味だが。

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