第二章 おっさん、苦難と戦う

第39話 英霊となった人たち

「一昨日、一人の英女が破蓋という侵略者と戦い命を落としました」


 英女が集まる学校。その敷地の隅には大きな慰霊施設があった。そこは歴代の戦死した英女が祀られている。大きな壇と広い床と見た感じ体育館みたいな作りだがるが床の中心は円形で砂地が作られていて、そこには無数の墓石が立てられていた。

 それを囲むように生徒たちが沈痛な面持ちで壇上の生徒――ナナエに聞いたところ生徒会長らしい――の弔事を聞いている。

 壇の下には死化粧できれいな身なりになったミナミの遺体が棺桶の中に安置されている。


「私達は今まで何度も仲間である英女を失ってきました。その犠牲はとても尊く重たいものです。しかし、彼女たちの犠牲があったからこそ私達の世界は存在し、今もこうやって生きていることができるです」

「…………」


 あちこちから涙声がこぼれ聞こえてくる中、ナナエはきっと威厳のある視線でじっと正面を向いている。ミナミの亡骸から決して目をそらさずに直立不動のままだ。


 しばらく生徒会長の話が続き、


「私達はシラト・ミナミさんの死を乗り越えなければなりません。そして、この学校のすべての生徒が団結し協同し前に進む必要があります。涙をながすことは構いません。しかし、その歩みを止めてはならないのです。泣くのならば歩きながら泣けばいい。そうして、前進するのです。全ては神々様の収めるこの世界を守るために!」


 生徒会長の言葉とともに生徒たちが一斉に右手で左肩を掴んだ。その中のひとりであるナナエもだ。


(なんのポーズ――どういう意味だ?)

「困っている人がいれば積極的にその肩を差し出し、その身をもって助けるという意味です」


 そう小声でナナエが答える。積極的に自分の身を捧げて犠牲になれって意味か。俺の趣味には合わない感じだ。

 とは言ってもこいつらが破蓋と戦わないと人類が滅亡って話だし、本人たちも納得してやっているみたいだから口を挟むべきことでもないんだろうが……ええいすっきりしねえな。


 やがて生徒会長の話が終わると、ナナエと一部の生徒たちがミナミのもとに集まる。そして、全員で棺桶を持ち上げると、ゆっくりと歩きだし、中央の墓石の並んでいるところに移動した。


 そこの一部にはすでに予め穴が掘られている。全員でそこに棺桶を置く。


「……共に戦ってくれて、ありがとうございました。数え切れないほど助けてもらいました。あとはゆっくりと休んでください」


 ナナエはそう告げると棺桶の蓋を閉じる。

 そして、近くに置かれていたスコップを手にもられていた砂で棺桶を埋め始める。


 ただ黙ってひたすら砂を掛け続けていたが、やがて手が止まった。うつむいて砂にスコップを突き刺したまま身動き一つしない。


 周りの生徒たちがそんなナナエの気持ちを察して息を呑んでいるのがわかった。


(……大丈夫か?)


 俺はたまらず声をかけてしまう。ナナエはしばらく黙っていたが、


「大丈夫です」


 そう言ってまた砂を掛け始めた。

 

 残酷すぎる。

 俺は素直にそう思う。ナナエは俺なんかより遥かに覚悟を決めている奴とはいえ、こんなのハートが折れてもおかしくないだろ。大人がケアとかしてやるべきなのに、この学校にいるのは一人を除いて、みんな未成年の子供ばかりだ。

 というか唯一の大人である先生は何をやっているんだ? こんな時まで生徒に全部任せっきりかよ。


 ナナエがただひたすら苦しむ状況に俺はふつふつと苛立った。

 

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