第38話 報告書

 学校の薄暗い部屋にて。この学校で唯一の大人の女性であるコウサカ・リエは報告書を書いていた。


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 状況は逼迫しています。

 ここ一ヶ月間、破蓋の浮上頻度が極端に増えており、先日は一日に三体の破蓋が現れ、ハシラト・ミナミが戦死、ミチカワ・ナナエによる奮戦のため撃退できましたが、大穴内部の第三層以上の防御陣地は崩壊し、気体燃料式加熱器型破蓋を撃破した際に起きた大爆発により、大穴周辺にもかなりの被害が発生しました。


 さらにその爆発により一部生徒たちの間では英女候補としての資格を失うほどの適正値の下降が見られ、この学校から離れて帰宅する手続きが行われています。


 こちら側の被害は甚大でありますが、現在破蓋は現れていないため、大穴内部の修繕に力を入れて、徐々に再建が進んできています。 


 ですが、最近の破蓋の頻繁な浮上を考えると、恐らく大穴の【向こう側】で何か大きな変化があったと推察されます。


 さらに昨日神々様から神託が降りました。


 神々様は警告しています。もうすぐかつてない非常に脅威となる破蓋が大穴から浮上してくる。

 そのために秘匿していた英女候補生、カナデ・ヒアリをこの学校に転入させる必要があると判断しています。


 全てはこの世界を守る神々様への忠誠のために。



 追記。


 前回報告していたミチカワ・ナナエについてですが、不死身の力を持つがゆえに幾度となく仲間との死に別れを経験し、精神的に疲労が進み他者とかかわらない傾向が続いていて、ハシラト・ミナミの戦死で資格を失う可能性が危惧されていましたが、今回は精神的な疲弊は軽度に抑えられたようで適正値の下降は見られませんでした。

 逆にここ最近は適正値の上昇傾向が見られ、英女としての能力も高まっています。詳細な理由は不明ですが、本人の中でなんらかの変化が起きているのではと推測しています。


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 ここまで書き上げた後、外部にある破蓋対策本部へと電子化した書類を送信した。


 ふうとため息を付いた後に、近く置いてあった茶をすする。


 そういえば。ふと報告書の内容を思い返す。

 以前にミチカワ・ナナエが自分の中に男性がいると騒いでいたのはなんだったのだろう。それ以降、特にそういった問題を訴えることがないが……


 まあいい。私にできることはただここに座って指示を出して報告するだけなのだから。

 英女の資格を失い、戦うこともできなくなったのに、その罪悪感に耐えきれず強引にこの学校に居座っているだけの存在なのだから。

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