第37話 また私だけ
(……おじさん! おじさん! 返事をしてください!)
頭の中でナナエの声が響く。どうやら気を失っていたらしい。
「なんだよ……あっつつ、あんまり叫ぶな、頭痛がひどいみたいだ……」
俺がそう答えるとナナエは涙声で、
(よかった……本当に……いえ、ちゃんと返事をしてください! 無駄に心配したじゃないですか!)
途中でいつもの怒り声に変わる。俺はしびれた感覚が残る手を降って、
「お前の身体は無事だろ。だったらお前の身体に住み着いている俺が消えるわけ無いだろ。出ていけるのならありがたいけどな。んで、ここはどこだ? どうなったんだ?」
俺は周りの状況を確認する。真上には青空が広がっている。周りには廃墟。その中心には大穴があり、そこから煙が立ち上っていた。
どうやらガスコンロ破蓋の誘爆に巻き込まれてそのまま大穴の外まで飛ばされたらしい。これはラッキーだな。爆発の衝撃で大穴の下に落ちていたら今頃どうなっていたかとか考えたくもない。サンキュー神様。
「破蓋はどうなったんだ?」
(わかりません。しかし、無事ならとっくに大穴の外に出てきているでしょう)
「確認しておくか」
俺は痛みの残る身体を引きずりながら大穴に向かって歩き出す。途中で気がついたが、大穴周辺の廃墟の形が一般していた。大爆発の衝撃で廃墟がさらに別の廃墟になってしまったようだ。この調子だと学校や寮になっている団地も結構被害が出ているかもしれない。
しばらく歩いて大穴の前に立つ。そこから下を覗き込むが、破外の姿はなかった。
どうやら撃破できたらしい。
「はあ~」
俺は大きくため息を付いてその場に座り込み、
「今日の仕事終了。返すぞ」
(はい)
ナナエに身体の主導権を戻した。
その後、ナナエはしばらくその場に座り込んでいたが、やがて黙ったまま立ち上がる。
ふと近くに愛銃の対物狙撃銃が落ちていたのでそれを拾った。
そして、学校に向かってゆっくりと歩き出した。
しかし、少し進んだところで立ち止まり、その場でうつむいてしまう。次第に視界が潤んで見えなくなってきた。
とめどなく流れる涙が地面に向かって落ちていく。
「……また私だけっ……」
破蓋を倒して気が緩んだところで、ミナミのことを思い出したのだろう。どう戦ったのかどうやって命をかけたのか。全く見ることも出来ず、最期にちゃんとした言葉もかわせなかった。
こうやってナナエは何度も仲間と死に別れるたびに泣いていたのだろう。
神様、俺を不死身だからいいだろとか言っていたときに戻してくれないだろうか。そんなバカな事を言っていた俺のケツをけとばしに行きたいから。
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