第35話 決断
俺はナナエに作戦の内容を伝える。破蓋が近づいてきているのでできるだけ手短に説明したので、上手く伝わるか不安だったが、
「……なるほど。確かにおじさんの言っていることの理屈はわかります。それならば、恐らくあの破蓋を倒すことも可能でしょう」
案外あっさりと通じて助かった。
しかし、これをやる前にはまずやっておかなければならないことがある。
ナナエはスマフォで連絡を取り、
「先生。お話があります。もし大穴の近辺に生徒が残っているのなら早急に離れるように指示して下さい」
『わかりました。他にはありますか?』
「学校や寮にいる場合はできるだけ窓の近くには寄らないようにして下さい。恐らく窓は全て割れるので、破片で怪我をしてしまう可能性が高いです。あと机の下などに隠れて身の安全を確保してください」
『では、それも伝えます。気をつけて下さい。あなたがこの学校の生徒たちだけではなく世界の人々全ての最後の希望です』
「はい、英女としての使命、確実に果たしてみせます」
そう通話を終えた。てっきり作戦内容とかいろいろ突っ込んでくるのかと思ったが何も言わずにこっちの要望を聞いただけだったな。この先生の反応は相変わらず淡々としていて怒りとかより不気味さを感じるようになってきてる。まあ今はそんなことはいい。
スマフォを見ると破蓋はナナエと作戦会議をしている間にもうすぐ第1層に到達しつつあった。
さて……そろそろ覚悟を決めないとな。
ここでナナエが対物狙撃銃の弾と動作をチェックしつつ、
「確認しておきます。私はどれだけ負傷してもすぐに身体が修復される不死身の能力を持っています。しかし、はっきり言っておきますが、これから起こるであろう大規模爆発に巻き込まれた経験はありません。もしかしたら、自分の能力の限界を超えて死んでしまう可能性も否定はできないんです。そうなればおじさんもどうなるかわかりません」
ナナエは一拍間をおいてから、
「それでも本当にやりますか?」
そう強く念を押されてきた。ナナエも適正値が低めとはいえ、英女として選ばれている人間だ。自分のことに他人を巻き込むようなことは嫌うだろう。
しかし、俺はあっけらかんと、
(今までどんな攻撃を受けてもお前は絶対に死ぬことはなかったんだろ? なら今回も大丈夫だろ)
「しかし、今回の敵はかつてない規模の攻撃を行いますから……」
(大丈夫だって。こういうときは『いつもやっていること』の方を信じることにしているんだ。下手にいつもやってないことに手を出して失敗するからな。だから今回も俺がお前の身体の主導権を借りて痛いのを我慢する。これだけだ)
「まったく……おじさんのある意味脳天気な考え方には呆れを越して畏怖しますよ」
(それに俺だけじゃなくてお前だって同じことになるんだ。一心同体――じゃなくて二心同体なんだから一蓮托生、旅は道連れ、十把一絡げだよ)
「最後のはなにか違いませんか?」
(そうだっけ?)
「そうですよ」
ここで対物狙撃銃の点検を終えたナナエは立ち上がる。
「そうですね、おじさんには大変な負担をかけてしまうので、あの破蓋を破却できたのなら、一度だけ私の身体を貸します。好きなことをしてもいいですよ」
(マジで!?)
「言っておきますが、常識の範疇内のことだけですからね!」
ナナエに釘を差されてしまった。わかってるって。こいつが見ているところでだいそれたことはできるわけがねえ。しかし、折角のチャンスだ。そうだな、やりたいことといえば……
(うまいものが食いたい。肉――牛肉が食いたい。ステーキ――平べったい鍋で厚切りででかい肉を焼いて、熱々でこってりとした味付けで油がギトギトのやつ)
「またそれは……翌日の私のお腹がおかしくなりそうなことを……」
ナナエは少しためらっていたが、やがてきっと顔を上げ、
「いいでしょう! それで構いません! 代わりにしっかりと仕事をこなしてもらいますからね!」
(任せろ。いつもの痛いのに我慢するだけの簡単なお仕事だ)
やがて破蓋が第1層近くまで浮上してきた。
さあ決戦の始まりだ。
「では……行きます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます