第30話 予想外
「核が二つ……!? そんな!」
(おい、これは予想外のことなのか!?)
「私が知っている限り、破蓋に二つの核があったなんていう事例は聞いたことがありません! 記録上でもないはずです!」
ナナエがガチで焦っている。おいおい新型とは聞いていたが、史上初とは来てないぞ。勘弁してくれ。
状況を確認する。今頭の上には二体の破蓋がいる。片方は電動シェイバー本体で側面に核がむき出しになっている。もう一つは保護カバーなっている外刃でこちらは内部に核が存在している。
なんでだ。破蓋ってのは元の存在があってそれが怪物化しているはず。今回のは電動シェイバーなんだから一つのはず……
俺はここで倉庫で働いていた時の記憶が蘇る。電動シェイバーを棚から取り出して、次に手に取ったのが別売品の外刃だった。ああ、壊れたとき用にセットで注文したのかと思ったが……
俺は愕然とした。気がつけるかこんなもん!
「どうしたんです!? 何がわかったんですか!?」
(別売品だ!)
「どういうことですか!」
どういうわけだか本体と外刃で分離した破蓋は浮いたまま動かない。
(あの破蓋の外れた頭ってのは使い続けると壊れる場合があるんだよ。だからその頭――外刃っていうんだが、あれだけが別売で売っているんだ。恐らくあの破蓋は外刃が壊れて外れた状態のやつと、別売品で売っていた外刃だけの奴が合体していたんだよ! 多分だけどそれなら破蓋が二体いてもおかしくねえ!)
「二体の破蓋が合体して一体のように振る舞っていた? まさかそんな形状のものが存在しているなんて……!」
ナナエはだいたい事情を飲み込めたようだが、それでも史上初の破蓋なのは変わらないので困惑したままだ。
どうする? とりあえず破蓋が二体になっただけなら1つずつ撃破してしまえばいいだけだが――
そう考えていたときだった。突然、外刃の方だけが高速で大穴の出口めがけて飛んでいってしまった。一方の本体は高速でむき出しになった内刃を振動させこちらめがけて襲い掛かってくる。
「まずい!」
ナナエは即座に本体の破蓋めがけて発砲した。さっきまでと同じく吹っ飛んだのを確認してから、今度は上に向かって飛んでいった外刃の方を狙う。
しかし、すでにその姿は視認できなかった。かなりの速さだ。この本体の破蓋もそれなりの速さだったがそれ以上だ。
(どうする!?)
「とりあえず片方をまずここで食い止めます! その間にミナミさんに連絡しないといけません!」
ナナエは向かってくる本体の破蓋めがけて発砲、吹っ飛ばす、また発砲、吹っ飛ばすを繰り返す。
そうしている間に、耳につけた通信機でミナミにつなげた。
「ミナミさん、聞こえますか?」
『ナナ、大丈夫? かなり音が聞こえるけど』
「こちらは無事です。しかし、問題が起きました。現在破蓋がそちらに向かって急接近中です。私の失態です。申し訳ありません』
『ナナが悪いんじゃないよ! そもそも、こっちに向かってるってもしかしてナナを無視して――』
「いえそうではありません。破蓋は二体いました。それが合体して一体になっていたんです。そのうちの一体がそちらに向かっています」
『二体? そんな……そんなことって今までも……』
「ありません。しかし、起きたことは現実です。私たちは対処するしかありません。すいません、上に行った一体、ミナミさんにお願いできますか?」
『! もちろんだよ! こっちは任せて!』
ミナミは通信機越しでも見えるような笑顔の声で答える。
話をしている間もひたすら本体の破蓋をふっ飛ばし続けているものの、そろそろ弾が付きそうなのかナナエの顔に焦りが生じ始める。弾倉の入れ替えとなるとその間に破蓋に襲われてしまうので、ミナミへ情報を伝えるのが遅れるだろう。そうなれば最悪まだ逃げている最中の生徒たちに被害が出る可能性が高くなる。
「手短に破蓋の情報を伝えます。まずあの破蓋はでんどうしぇいばー、えっと――」
(電気式髭剃りとか電動髭剃りって言えば伝えやすいはずだぞ)
「で、電動髭剃りでした」
『あっ、知ってるよ。家でお父さんが使ってた! 電池を入れてブイーンって髭を剃るやつだよね』
おお、ミナミは知ってたか。これは話が早く済みそうだ。ナナエも助かったと安堵しつつ、
「その頭――外刃というものが外れてたときに、実は本体と頭が別々の破蓋だということが判明しました。そして、今はその外刃の方だけが上にめがけて高速で移動中です」
『外刃……あのかぶせてあるやつだよね。前に外して中にたまった髭を掃除したことあるよ。だいたいわかるから大丈夫!』
「核はその中にありました。しかし、一度も戦わずに上に向かってしまったのでどういう攻撃をしてくるのか情報がありません。ぶっつけ本番になります。気をつけて下さい」
『うん! こっちはどーんと任せてもらっていいよ! 倒してみんなを避難させたらすぐにそっちに向かうから頑張って!』
「はい。こちらも破蓋を破却したあとすぐにそちらに向かいます」
ここで通信を終える。さて。
(あと弾は何発ぐらいだ?)
「数発ってところでしょう」
もうすぐ弾込めの時間だ。前回は弾を交換している間に破蓋がナナエ二台あたりを噛ましてきた。
しかし、前回と違って今回は一つ大きな問題がある。
(外刃が外れたってことは内刃が丸出しなんだよな。前回はぶつけられてもくすぐったいぐらいだったが……)
「今の状態で直撃されたら身体が削り取られる感じですねっ」
ナナエは迫ってきた破蓋に対して発砲してふっとばす。少しだけ近づいてきただけで、ブイーンと振動音を鳴らしながら髭をゴリゴリ削る外刃の威圧感を非常に感じる。
(……あれに剃られるのは勘弁してほしいわ)
「私だってそうです」
電動シェイバーの本体破蓋はふっとばされつつも器用にこちらを向きながら体制を立て直し、再び向かってくる。
「すいませんが、また当たりそうになったらお願いしますから!」
(つれえ)
ナナエはすぐさま階段を駆け上がり始め、近寄ってきた破蓋を銃弾で弾き飛ばした。
――そして、次の引き金を引いたとき、弾は出なかった。弾切れだ。
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