第29話 新型戦2
「――お願いします!」
(しゃあねえな!)
瞬間、ナナエと俺は身体の主導権を交代した。
すぐ目前に迫る破蓋。俺はとっさに持っていた対物狙撃銃でそいつを受け止めようとした。しかし、間に合わなずに俺の身体に電動シェイバーの破蓋の頭が直撃する。
すぐに凄まじい痛みが来るだろうと覚悟したが――
「…………? なんだこれ――うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
(なんで笑い出すんです!? 頭でもおかしくなりましたか!?)
脳内で喚いているナナエだったが、俺の笑いは止められない。なんせくすぐったくて仕方がないのだ
破蓋は俺に向かってジリジリ押し込んできていて大穴の壁に押し付けられつつある。しかし、その頭は小刻みかつ高速に振動しているだけで別に痛くもなんともない。
「こいつの攻撃くすぐったいだけだぞ、うひゃひゃひゃひゃ!」
(…………)
ナナエは沈黙して呆れた感じになっていた。
「よく考えてみたら電動シェイバーを身体に押し付けても別に痛いはずがねえんだよ、くくっ……髭を剃るたびに身体に傷がついたらそりゃただの欠陥商品だわ。こんな破蓋っているのか、うひゃひゃ!」
(下品な笑い方はやめて下さい! 確かに破蓋はその形状から明らかに攻撃をするための武装を持っておらず、こちらに対してほぼ無力というものはいましたが……)
どうやら新型と言ってもそういう弱っちいのらしいな。これならさっさと投げ飛ばしてナナエに戻して―
(って、おじさんよく見て下さい!)
「ん? なんだよ……う、あ、いたたたたた!」
ここでくすぐったいところに痛みが加わり始めた。破蓋は今まで通り振動しているだけ。しかし、そのまま強引に押し込んできたせいでいつの間にか俺は壁に挟まれて思いっきり圧迫されている状態になっていた。
いかん。流石に油断しすぎた。俺は思いっきり右足を振り上げて、
「電動シェーバーはそういう使い方じゃねえだろ!」
底辺流の台車とかを押し込むときに使うケリを噛ましてやる。冷凍用の台車とか邪魔だと蹴飛ばしまくっていたので慣れっこだったのであっさり破蓋をすっとばせた。
が。
「いってええええええええええ!」
破蓋の攻撃の数百倍の痛みが右足に走った。ガチで痛い。右足首と股関節が破壊されたような激痛だ。
おれは階段の上でひっくり返り右足を抱えて痛みに悶え苦しんでしまう。
(一体何をやっているんですっ!?)
「う、うるせー……お前の身体、力が強すぎて使いにくいってんだよ……」
ナナエが怒っているが、それどころじゃない。どうやら力の制御とか全くわからないまま思い切り蹴飛ばしたので右足が耐えられずにひどいダメージを受けてしまったようだ。破蓋の攻撃じゃなくて自分の攻撃で苦しむとかどんな皮肉だ。
(また来ますよっ!)
「ええい、鬱陶しい!」
俺は足を抱えながら片足で階段を降りる。すぐに再び襲ってきた破蓋が壁に激突した。ぶつかっても痛みはないがさすがに片足が死んでいる状態で壁に押し付けられたらどうなるかわからねえから逃げた方がいい。
俺は片足で走りながら背後を見る。破蓋は壁にぶつかったのち、俺の背中を追いかけてくるのではなく、ぐるっと正面に回り込網としてくる。
さっきまでこっちに一直線で突っ込んできていたののに、今はのんびりしてやがんな。こっちがダメージ食らっているのを見て余裕かましてんのか?
「ナナエ、今から言うとおりに動けるか? 痛みは多少残っているが、さっきに比べるとだいぶ治ってる」
(やってみせます)
「了解。んじゃあ――」
破蓋が俺の正面に回り込んだ後、そのまま突っ込んできた。俺も逃げずにそのまま突っ込んでいく。
そして、紙一重のところで仰向けに倒れた。すぐに顔の上を破蓋が通り過ぎていく。
すぐさまその破蓋の身体を上に向けって押し上げるように叩いた。流石に学習したので今度軽くだ。
その一撃で、破蓋は空高く飛ばされた。さすがに紙一重で避けたのでこっちに頭を向ける暇がなかったので簡単にあたった。
そして、破蓋は空中でバランスを崩したまま側面についている核をこちらに向けていた。
「変われ!」
(はい!)
即座にナナエと入れ替わった。その瞬間、ナナエは俺の意図を汲み取り手に持っていた対物狙撃銃を破蓋めがけて構えて発砲する。その動作にかかったのは1秒もなかっただろう。
これならさすがに反応できまい――と思ったが、それでも破蓋はこちらに頭を向けようと体を捻った。
その為当たったのは頭の側面、ちょうど内刃を保護するカバーである外刃と本体の接続部分だった。
「すいません外しました!」
(ちっ、そう簡単には行かないみたいだな)
ナナエは謝罪していたが、あの破蓋の執念じみた防御に感心するべきだろう。さすがに安易に考えすぎたか。
しかし、ここで予想外の事が起きる。電動シェイバーの破蓋の外刃が本体から外れてしまったのだ。確かに乱暴に使い続けたらあそこが外れたとかあった気もしたが……
「そんな!?」
ここでナナエが驚愕の声を上げる。電動シェイバーの外刃が外れるぐらいでそんなに……と思ったが違った。
外れた外刃はそのまま空中を浮遊している。そして、その内部には赤い玉が輝いていた。電動シェイバー本体にも破蓋の核は残っている。
そう、この破蓋にはなぜか核が二つあったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます