第28話 新型戦1

「まずは牽制します!」


 破蓋がグネグネと身体をくねらせながら第6層の螺旋階段に立っているナナエめがけて突っ込んでくる。一方ナナエは冷静に対物狙撃銃を構えて狙いを定めていた。


 ――ナナエは発砲する。激しい衝撃音とともに弾丸が発射され、瞬く間に破蓋の頭に直撃し、明後日の方向にすっ飛ばされた。

 やったか?と思ったが、すぐに破蓋はまたこちらに向かって突撃してくる。どうやら弾き飛んだが損傷はしていないらしい。


「次!」


 ナナエは再度発砲した。また破蓋の頭に直撃して、吹っ飛ぶ――が、またすぐに体制を立て直してこちらに向かってきた。

 撃ってはふっ飛ばしまた向かってくる。それを何度も繰り返す。こいつしつけえな。

 しかし、ナナエの技量は大したものである。破蓋はだんだん近づいて来ているとはいえまだ500円玉ぐらいの大きさにしか見えないぐらいには離れている。それを一発も外さずに全弾命中しているんだから素直に感心する。


 ナナエはいったん狙撃銃の照準から目を離した。どうやら弾が尽きたらしい。すぐさま新しい弾倉に入れ替える。この対物狙撃銃は威力は半端ないがすぐ弾が尽きるのが欠点だ。

 すぐさまナナエはまた照準をあわせて、


「……正面はかなり硬くできているようですね。この銃の神弾でも撃ち抜けません。ですが……」

「さっきからあいつの核は丸見えだな」

 

 吹っ飛ばすたびに側面についている赤く光る玉が見えた。電動シェイバーでいうところのちょうどスイッチのある部分だ。正面は硬いが側面のあれを一発撃ち抜けば今日の仕事は完了になる。

 今回は痛い目を合わずに済みそうか? 俺はそんな楽観的な考えにとらわれていたが、ナナエはあくまでも緊張感を解かずに、


「牽制しつつ引き寄せ、隙を見て側面から撃ち抜きます。もし危険な場面があったらすいませんがお願いします」

(おう、ないことを祈りたいけどな)


 そうやりとりした後、ナナエは再度発砲する。


「ここで!」


 今度は破蓋を吹っ飛ばして態勢が崩れた直後にすぐさま2発目を発砲した。相手が側面をこちらに見せた瞬間に核を狙い撃ったのだろう。

 しかし、破蓋はナナエの神弾が届く前に態勢を立て直し、また頭の部分に直撃してしまった。うーん、うまくいかないか。


 そんなことをやっているうちに破蓋が目前まで迫ってきた。このままではナナエにぶつかる――と思った瞬間、反対側の壁に向かって大きくジャンプした。

 破蓋は方向転換が間に合わずそのまま壁にぶつかった。激しい振動音とともに壁が崩れて土煙が上がる。

 ナナエは空中で飛んだ状態で身体を捻らせて破蓋の姿を確認した。側面が丸見えで今なら核を撃ち抜ける――すぐさま手にしていた対物狙撃銃を構え、空中で飛んだ不安定な状態で発砲した。

 

 激しい発砲による衝撃でナナエの身体がふらつく。足場がない空中で撃ったのだから当然だろう。しかし、それでも正確に核めがけて弾が放たれていた。大したやつだ。

 しかし、破蓋はまたしても発砲と同時にくるっとこちら側を向いたため、また頭に直撃して吹っ飛ぶ。


(……めんどくせえな、こいつ)


 俺がそう愚痴る一方、反対側の壁の階段にたどり着いたナナエは、今度は階段を駆け上がり始める。その途中で何発も発砲しては破蓋をふっ飛ばす。


 やがてまた破蓋がナナエに迫ってきたので、再度反対側の壁めがけて大きくジャンプした。今度は紙一重で交わし、ちょうど真上から破蓋の土手っ腹が見える状態で発砲する。

 が、やはり核を撃ち抜くよりナナエの方に振り返り頭に直撃して吹っ飛んでいった。

 ナナエは反対側の階段に降り立ち対物狙撃銃を構えつつ、


「駄目ですね。この破蓋、どんな状況でもすぐに私の方に頭を向けてきます」


 頭の悪い俺でも流石に理解できた。弾が当たって吹っ飛んでいる最中でも銃で狙うとすぐにこっちの方を向いてきやがる。なんでそんな動きをするんだ……と考えて思いつく。


(もしかして、自分の弱点を理解しているのか?)

「恐らくそうでしょう。他の形状の破蓋も自分の核を守る行動を取ることは何度もありましたので珍しいことではありません」


 なるほどな。まあ破蓋も簡単にはやられたくないってのは普通のことだろう。

 そんな攻防を続けていたが、間の悪いタイミングで弾が尽きてしまった。


 ナナエはすぐさまポケットに手を突っ込んで新しい弾倉を手に取るが、破蓋が一気に襲い掛かってきた。急いで空の弾倉を取り外して新しいものに入れ替えるが、もうその時には破蓋は目前にいた。

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