第26話 新型
「3日連続なんて……!?」
ミナミが困惑顔で驚いていた。俺はこっそりと、
(めずらしいのか?)
「……恐らく破蓋との戦いが始まってから初めてのことです。確かに最近出現の頻度は上がっていましたが……」
ナナエも困惑顔だった。続けてスマフォに、
「わかりました。今すぐ生徒たちの避難を開始します。それで破蓋の形状はわかりますか?」
『照合してみましたが過去に該当する形状のものはありませんでした。新型と予想されます』
「…………!」
新型と聞いた途端にナナエの顔が更に厳しくなった。ミナミは不安げな表情になっている。新型ってどういうことだ?
『第6層到達予想は45分後です。幸い浮上速度は早くありません。生徒たちのできるだけ早い非難をお願いします。生徒たちへの即時退避警報は生徒たちの携帯端末へすでに送信済みです』
「わかりました。早急に」
そこで通話が途切れる。なんかこの先生っていう奴は不気味なほど淡々としているな。いやまあ、慌てて話されても困るからこのぐらい冷静な方が正しいんだろうが。
「ナナ……新型って……」
「破蓋の浮上頻度は増えていましたが、ミナミさんが英女になってからは一度も現れていませんでしたね。幸運だと思っていましたが……」
ミナミはそういうもののナナエはしばらく考えた後に、
「ミナミさんは生徒たちの誘導をお願いします。もし避難が遅い人がいれば、抱えて大穴の外まで連れて行って下さい」
「ナナ! 新型なんでしょ!? 私もここで戦って時間を稼いで置いたほうがいいんじゃ……確かに私は新型と戦ったことは一度もないけど……足は引っ張らないよ!」
そう反論するミナミにナナエはすっと手を伸ばしてやめさせ、
「生徒たちを巻き込むわけには行きません。それに避難が遅れれば私達の戦いにも著しく制限がついてしまいます。安心して下さい。ミナミさんが役に立たないとかそういう理由ではありません。そのほうが効率がいいということのだけです」
そう言ってからナナエはミナミの肩に手を当てて、
「極めて重要な任務です。よろしくお願いします」
「……わかったよ! すぐに戻ってくるからそれまでがんばってね!」
ミナミはすぐさま飛び上がって生徒たちをつれて上へと向かい始めた。
ナナエはその後姿を見ながら、
「私は死なないから大丈夫ですよ」
ポツリという。
俺はミナミの姿が見えなくなった頃合いで、
(で、新型ってなんだよ)
「破蓋には元になるものがあると伝えてますよね。同じ形状のものが何度も現れることも多いです。しかし、まれに今まで一度も出現したことがない形状の破蓋が現れることがあります。それが新型と読んでいるものです」
(……つまり、全く情報がない敵ってことか)
「はい。そのためどういった攻撃をしてきたり、核がどこにあるのかなど情報は一切ありません。そのため極めて難易度が高い戦いになり、毎回苦戦を強いられます」
ナナエは苦々しくそう答える。
(……その調子だと新型ってのには相当苦しめられたようだな)
「私が二人目の仲間と組んで数カ月後に新型が現れました。そのときにまず牽制で破蓋の様子を伺おうと軽く攻撃しましたが、接触した途端に高圧電流より戦死しました。即死だったそうです」
……マジかよ。ヤバイことを聞いちまったか。
ナナエは淡々としているように見えつつやや声を震わせて、
「あとで確認できましたが、その破蓋の元は自動車などに設置されている蓄電装置だったそうです。そのため攻撃方法が高圧電流によるものであり、英女でも喰らえば命に関わるほどでした。新型というのはそういう危険な代物です」
蓄電装置――バッテリーか。確かに電気を溜めて使う装置だな。
(それは倒せたのか?)
「私は死にませんし、破蓋も私が生きている限り殺そうとし続けます。おかげで高圧電流を何度も受けて倒れながらも、身体が動くようになった瞬間を狙い破却できました。幸いなことに核がすぐに見つかる場所だったので数秒身体が動けば倒せる形状だったので、その後何度か現れましたが、楽に撃退できています」
一度戦ってその破蓋のタイプがわかれば楽だが、初回ではそれがわからないので下手すりゃ死ぬってことか。ゲームで言うところの初見殺しってやつだな。
(逆に言えば、お前の不死身の力は新型っていうのに唯一対抗できるとも言えるのか)
「まあ……そうですね。どんな攻撃を受けても死ぬことはないので、破蓋の力を観察・解析することができます。ただ……」
ナナエはじっと上を見上げる。姿はすでに見えなくなったが、今頃生徒たちはミナミに連れられて大急ぎで逃げていることだろう。
(……身体が動かなくなったスキに他の生徒達を襲われては意味がない、か)
「はい。すいませんが、おじさんの力をかなり借りるかもしれません。可能な限りここで食い止めて今回の新型の力を見極める必要がありますので」
(おう、任しとけ。でも、痛いのは嫌だからほどほどにな)
「……努力しておきますよ」
そうナナエは言いながら背中にかかえていた対物狙撃銃のチェックを始めた。
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