第23話 真っ暗
ピピピピピピピピピピピ。
なんだようるせーな……って目覚まし時計の音かこれ。
俺は起き上がって音を消そうとするが真っ暗闇のままで身体が動かない。そりゃそうだ。今は身体の主導権はナナエが持っているんだから。
「スー……スー……」
ナナエの寝息が聞こえてくる。どうやらまだぐっすりらしい。
ピピピピピピピピピピピ。
延々となり続ける音が鬱陶しい。精神だけしかないのに眠れるのは不思議だったが、目覚まし時計に叩き起こされるのは更に奇妙な感じだ。しかし、ナナエが目を開けないと真っ暗のままでどうにもならん。
「うーん……」
ナナエが何か唸って身体をひねった。そして、がしっと何かを叩く音とともに目覚まし時計が鳴り止む。
ようやく起きたか、と思ったが視界は真っ暗のまま。おまけに、
「スー……スー……」
寝息が再開してる。
おいこら、時間だぞ。早く起きろ。底辺労働者は少し眠かったり寝坊したりすると面倒臭がってそのまま休む奴が結構いたが、学校はそうもいかないだろ。
(おーきーろー!)
「……なんですかうるさいですよ……」
俺がそう呼びかけると、ようやく反応するが相変わらず目を開けようとせずまた寝息を立て始める。
(時間だろ、起きないとまずいだろ、俺は別にどうでもいいが強制的に遅刻で一緒に怒られるなんてゴメンだぞ)
「時間……遅刻? ――時間!?」
ようやく気がついたナナエは飛び起きた――が、方向性を見失い足を絡ませて床に転んでしまった。
(なにやってんだよ)
「う、うるさいですね……といいますか、真っ暗で何も……」
ナナエが痛みにこらえて唸っている。てか、まだ視界は真っ暗だがこいつ目を開けているのか? なんで真っ暗なんだ……
(あ、そういや窓を塞いだんだよな。てことは真っ暗なのは当然か)
「真っ暗すぎて何も見えませんよ!? 今私自身がどっちを振り向いているのかすらわかりません!?」
寝起きで方向を見失ってしまったナナエはパニクってしまっている。確かにさっぱりわからん。ここはどこだ状態だ。
「これでは時計もわかりませんし時間もわかりません……あいた!」
ナナエはふらふらと歩き回っていたが何かに激突したらしい。
「これは……机みたいですね。てっきり窓の方に歩いていたのかと思っていたんですが。ということは……」
またナナエは歩きだす。程なくしてザラザラと音を立て始めた。
「机の隣は窓です。これは新聞紙と厚紙の感触ですね。フフフフ……どうやらだんだんわかってきましたよ」
(なんでそんなに得意げなの)
「暗闇に打ち勝ったからですよ」
(意味わかんねー。そんなのいいからその紙を破って明るくしろよ)
「嫌ですよ、せっかく塞いだのに苦労が台無しです。それにもうはっきりと状況はつかめました。とう!」
ナナエは突然勝ち誇り、大きく跳躍した。するとバチンという音とともに部屋が明るくなった。どうやら灯りの紐をひっぱったらしい。
パンパンと何故か手を叩きつつ、
「どうです、英女たる私ならばこの程度の困難を克服するなど造作もありません」
(結構混乱してたくせに)
「う、うるさいですね。不意打ちを食らったんですから多少は驚きもします」
(そんなことより時間は大丈夫なのか?)
俺の指摘にナナエが壁掛け時計を見ると、
「あー!」
そう叫び声を上げた。どうやら遅刻寸前らしい。
しかし、さらなる問題が起きる。ここで突然ナナエの頭の上に電灯が直撃したのだ。どうやら強く引っ張りすぎて根本から抜けたらしい。
当然明かりも消えるのでまた真っ暗です。
「どうしてこうなるんですかー!」
(もーやだこいつ)
絶叫するナナエに俺はもう頭痛がしてきてしまった。
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