第15話 大穴
ナナエはミナミから――そういやハシラトとか電話で言ってたな。それがこいつの名字か――荷物を受け取る。
持ってきたのは戦争映画とかでよく見る戦闘服とヘルメット。あとはでかい箱に入っている弾薬と自動小銃と大型ナイフ。中学生ぐらいの連中が持っていると違和感が強いものばっかりだな。
ミナミはそこから戦闘服を取り出して、
「とりあえずここで着替えちゃお!」
その場で制服を脱ぎだそうとするが、
「ちょっちょっと待ってください! ここで着替えるのは駄目です!」
慌てて俺に見えないように目を隠すナナエ。
「え? なんで? いつも一緒に着替えているじゃん」
「とにかく駄目なんです! とりあえず……そのあたりの物陰で着替えて下さい! 私に見えないように! 私もそうしますから!」
「え、あ、うん、ナナがそういうならわかった」
ミナミは釈然としないような感じで自分の荷物を持って物陰に入っていく。ナナエはほっとしつつ視界を解放して自分も物陰に入っていく。
ナナエはそこでジャージを脱いで戦闘服に着替え始める。いつも恥ずかしがるのに躊躇ないなと思ったらジャージの下は短パンとシャツだったからのようだ。
戦闘服とヘルメット。あと耳にハンズフリーの通信機。そして自動小銃を手に持ち、対物狙撃銃を背中に背負うと、
「今回の破蓋は過去にも出現したものです。とりあえず、戦闘中にいろいろ聞かれると面倒なので今のうちに話しておきます」
…………
いろいろ説明を聞いた後、ナナエは着替え終わって待っていたミナミと合流する。
「では行きましょう」
「うん!」
二人は素早い足で大穴へと向かう。距離は数百メートルだが、英女の脚力で10秒足らずで入り口にたどり着いた。
直径200m。元の世界では見たことがない――いや外国に行けばあるのかもしれないが俺は見たことがない。
(うへえ)
初めてこの世界に来たときも見ていたが、改めて見るとその巨大で底知れない大穴のインパクトはすごい。正直足が竦む。
一方、大穴の内部のあちこちに照明が設置されているのでそんなに暗くはなかった。確かにこんな深い穴なんて少し下に行ったら真っ暗で戦うどころじゃないだろうしな。
二人は大穴の入り口に設置されている昇降機に乗って下に降り始めた。英女の能力なら飛び降りてもいいらしいが、大穴内部に物資を持ち込むために使うらしい。ただし第一層まででそこからは足で移動だ。
数百メートル下の第一層までたどり着き、二人は踊り場のような縦穴の壁に作られた陣地に出る。
「では一気に第4層まで降ります。いつものように第5層で撃破しますよ」
「りょーかい!」
(え、ちょっと待てここから飛び降りんの!?)
ナナエは俺の言葉を無視して、そのまま大穴の底に向かって飛び降りた。すぐにミナミも後に続く。
(うおおおおおおおおおおおおしぬうううううううううう!)
「静かにして下さい」
ジェットコースターより怖い自由落下で俺は絶叫を上げてしまうが、ナナエは冷静だ。流石に場馴れしている。
二人はところどころ壁に設置されている足場や階段を飛び移りつつ、下へ下へと降りていく。途中で大穴の壁をぐるっと廻るように設置されている足場のところを通過した。ここが前にナナエが言っていた第3層だろう。今回は使わないのでそのままさらに下に飛び降りていく。
そんなことを繰り返し、ついに第4層まで降り立った。ちょうど深度2000メートルぐらいの場所だ。ここから下はずっと螺旋階段が壁沿いに設置されていて陣地化されている第6層の深度3000メートルまで続いているらしい。しかし、階段といっても頑丈な鉄板を壁に突き刺してあるだけだ。足を踏み外したら底まで真っ逆さまである。
ちなみに、ここまで来たときには俺の精神力はもはやゼロである。怖いなんてもんじゃない命がけのジャンプを繰り返しまくったんだから当然だ。
(ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ)
「おじさんは身体がないんですから息切れする必要が無いでしょう」
(うるせーな。精神的ダメージってやつだ)
「ダメージってなんですか」
(損傷)
「それならわかるように言って下さい」
そんな話をしているとナナが追いついてきて、
「ナナー。なんか言った?」
「なんでもありません。ちょっと状況を整理して独り言を言っていただけです」
そう適当にあしらうと、
「さて……来ました」
真下を見下ろすと穴の底から何かの物体が浮上してきていた。
破蓋だ。
その形状は縦に長いが上半分は広くなり無数の出っ張りが存在し、下の方は握りやすい感じに細めになっている。
そうヘアブラシってやつだ。この世界では
ナナエとミナミは自動小銃の安全装置を解除する。そして、撃破予定の第五層上部向かって飛び降りた。
「行きます!」
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