第13話 危険な実技授業

(うわあ)


 俺は校庭に出てきたナナエたちの姿を見てドン引きしてしまっていた。

 格好は全員ジャージ。頭には帽子。まあそれはよくある学校の体育の授業なんだが、その手に持っているのがなんと自動小銃だ。全員それを持って並んでいる。

 女子中学生が銃を持って整列とかなんの冗談だ。ここは紛争地かなにかか? 少年兵ってやつかよ。いやちょっと待て、こいつらみんな女だから少年兵っておかしくないか? 少女兵か。

 そんなことをブツブツ考えている間にナナエもその中に混じって整列する。しかし、みんな持っている自動小銃の他に背中にかなりサイズの大きい長い銃を背負っていた。最初に俺がこの世界に来たときにナナエがぶっ放していたやつである。


「ではー、今日も実技を行いますので、くれぐれも銃の取り扱いに気をつけることー。安全装置の確認は常に何度も行うことー」


 生徒たちの前で教師(高等部)がメガフォンで話したあと、生徒たちは銃を持ったまま校庭のランニングを始めた。ナナエも混じって走る。しかし、最後尾のケツにくっついてゆっくり走っていた。


(おい、英女なら他の生徒より早く走れるんだろ?)

「英女だからですよ。身体能力は他の生徒と桁外れに違いますから、全速力で走ったりしてぶつかったりしたら危険なんです。なのでこうやって最後尾についていっています」


 なるほどな。よく考えているもんだ。俺は感心してしまう。

 何周か校庭を周った後、生徒たちは校庭脇に集まった。溝が掘られたり、凸凹の山や土嚢が積まれていてまるで戦場みたいなゾーンになっている。というかこの学校の校庭クソ広いな。

 その先には的がたくさん置かれていた。生徒たちは立ったまま、自動小銃で射撃を始める。


 パン!パン!パン!パン!


(わーうるせー!)

「うるさいのはおじさんの方ですよ」


 初めてナナエに取り憑いたときにすでに銃声を聞いていたが、改めて聞くとやっぱりうるさい。こんなのを何時間も聞いていたら耳が死ぬわ。冷蔵倉庫で仕事していたときも空調がうるさいと思っていたがその比にならん。

 ナナエはしばらくそれを見ていただけだったが、やがて教師に一礼すると一人別の場所に移動する。


(どこに行くんだよ)

「さっきも言ったとおり英女なので銃の威力も違います。他の生徒に被害が起きかねないので実技は基本的に一人でやります」

(銃の威力も変わるのかよ)

「……ちょうどいい機会のでそのあたりも説明しておいたほうが良さそうですね」

 

 ナナエはため息を付きながら歩いていたが、突然大きくジャンプした。


(うおあああああああああ!)

「ですから、うるさいです」


 俺は思わず叫んでしまう。なんせそのジャンプは大空高く――比喩とかじゃなくマジで高い。数十メートル――下手したら数百メートルは高く飛んでる。校庭の地面がどんどん遠ざかり、学校の校舎も視界に入ってきた。まるでネットの衛星写真で見ているかのようだ。遠くて頭がクラクラしてくる。

 一方のナナエは平然としているようだ。流石に戦い慣れているらしい。

 てか、なんでこいつ下を向いているんだ? 前を向いていればもうちょっと怖くなくていいはず……


(あ、お前わざと下を見て俺を動揺させてんな!?)

「なんのことです? 足場を確認しておくのは当然でしょう」


 すっとぼけるが、声の口調は正解だと言っている。なんて性格の悪いやつだ。

 ナナエはようやく前を見る。その先は学校の敷地外で寮の団地とは反対方向の場所だ。

 しかし、その場所に俺は唖然とした。あたり一面崩落したビルや家の残骸だらけ。そして、それらの中心にはまるで核爆弾でも炸裂したようなでかい穴がある。


(あれが大穴ってやつか)

「はい。あそこが破蓋が侵攻してくる場所です。55年前あそこから出てきた破蓋によって周辺の町は破壊されつくしました」


 ひでえ有様だ。確かに破蓋ってのを大穴の外に出してはならないってのがひしひしと感じ取れるぜ。

 やがてナナエは建物の残骸の中に降り立つ。


「訓練はここで行います。無人なので誰かを巻き込んだりすることはありません」


 ナナエは背中に背負っていたでかい銃を手に持つ。


(でけえ銃だな。威力も強そうだが)

「これは50口径の対物狙撃銃です。大きいので取り回しは難しいですが、その分威力は自動小銃とは比べ物になりません。それでさっきの威力についての話ですが……」


 そのまま立ったまま近くの崩落しかけた建物に向かって一発発砲する。

 ドゥンという腹が捩れそうな音とともに建物の壁に大穴が空いた。


(すげえ威力だな。これが英女の力ってやつか)

「今のはただ撃っただけです」

(え?)

「では、次は神々様の力を使って撃ってみます」


 ナナエは再度構えて発砲する。再び腹に響く音が周囲にこだまするが、今度は建物の残骸がバラバラに吹っ飛んだ。


(…………)

 

 さっきとは桁違いの威力に俺は声も出ない。ナナエはややいつものように自慢げに、


「これが神々様から授かった力を使って発砲したときの威力です。見ての通り歴然の差になります。危なくて他の生徒のいるところでは使えません。間違って生徒を撃ったりするようなことはありませんが、破壊した建物の破片が飛び散って生徒に当たれば大惨事です」

(これぐらいじゃないと破蓋は倒せないってことか)

「威力もありますが、通常の兵器では破蓋に当たりません。素通りしてしまうんです。なので神々様の力を弾丸に集めて発砲します。これを神弾と呼んでいます」

(へー……)


 俺は漠然と理解する。つまり英女じゃなけりゃ破蓋は倒せないってことか。ここでナナエの手にしている対物狙撃銃が目に止まり、


(しかし、フィクション――俺の世界の創作物だとこういうのは神様の作った武器とかを使うとかだったんだけどな)

「確かに昔は神々様が残したと言われる神聖な武器などが使われていたそうですが、検討や改良を続けた結果、通常兵器を神弾化して運用したほうが効率がいいということになったらしいです」

(夢がない話だなぁ)

「そんなもので破蓋と戦ってられませんよ」


 口を尖らせるナナエ。まあ現実志向で突き詰めたらそうなるか。刀とか槍とか昔の武器とか使いにくいしな。あれ、でも、


(前に接近戦をやることもあるって言ってなかったっけ?)

「ありますよ。軍用で使われている鉈とか短剣ですね。神々様の力を込めて神剣化して破蓋を攻撃します。私は正直なところ接近戦は得意ではないのであまり使いませんが、ミナミさんは得意なので助かってます」


 現代の武器をオカルトパワーで強くして武器にする。まあ確かに合理的な使い方だ。

 俺はふむと、


(まとめると英女になるとすごい弾とかが撃てたり、すごいジャンプ――跳躍ができたりするってことか)

「あと英女ごとに固有の能力を持ったりもします。ミナミさんは動体視力を一瞬極めて高めることができます。時間を止めているような感じだと言っていました。連続では使えないらしいですが」

(お前は?)


 俺がそう尋ねるもののナナエはしばらく黙っていたが、やがてポツリと、


「死なないことです」

(え)


 いきなりとんでもないことを言われて面食らってしまった。死なないってどういうことだ? 不死身ってこと?


「私の能力はどんなに傷を負っても即座に回復するものです。なので破蓋の攻撃をいくら食らっても死ぬことはありません」


 俺は感嘆し、


(なにそれすげえじゃん。まさに無敵ってことか)

「そんなんじゃありません!」


 ナナエは突然声を張り上げてきた。俺はまた面くらい、


(なんで怒るんだよ。死なないなら最高だろ。あんな化物と戦っているんだから命が保証されているなら完璧じゃないか)

「そ……っ」


 またナナエは感情的に何かを言いそうになるが、途中でやめる。そして、まるで感情を押し殺すように息を呑んで、


「……いえ、すみません。その通りです」


 俺は地雷を踏んでしまったかと思い、


(いや……なんかすまん。余計なことを言っちまったみたいだ)

「気にしないでください。この能力のお陰で私は破蓋の撃退の役目を続けられていますし、現に多数の破蓋を破却しました。おじさんの言っていることに間違いはありません」


 謝罪にもナナエは自ら俺のほうが正しいと肯定してきた。

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