第29話 シスタアズ マエヘン

「どうぞ」


「あ・・・、どうも」


ソファーに座る俺の前に、紅茶の入ったティーカップが置かれる


園崎に追い立てられた後、俺は園崎の叔母さんに促され一階の居間へと通された


「コホン。では、あらためて・・・初めまして、柚葉の叔母の葉子です」


俺の対面に座った園崎の叔母さんが、名を名乗ると共に頭を下げた


「あっ・・・、お、俺・・・じゃない、僕は・・・そ、園崎さんのクラスメイトで・・・義川経吾といいます。今日は園崎さんにお茶に誘われて・・・お邪魔してました」


俺は園崎の叔母さんがキッチンに行っている間に考えていたセリフを喋った


何も嘘はついてない


ただ、先ほどまで不謹慎な遊びをしてはいたが・・・


「え・・・?、けい、ご・・・さん?え!?」

「?」


だが何故か俺の自己紹介を聞いた園崎叔母は急に驚いた顔になった


「・・・嘘、本人?実在・・・してた?・・・あの子の妄想じゃなくて?

・・・えっと・・・ええ?」


「あの・・・?」


呟きを漏らしながら何か信じられない物を見るような視線を向けてくる園崎叔母


その態度に困惑して声を掛けるが、


「うわわわわわ、何でもないのよ。オホホホホ・・・、

ちょっとあの子の様子見てくるわね」


どこか挙動不審な態度になった園崎の叔母さんはそそくさと2階へと上がっていった


しかし、さっきは物凄く刺激的なことを聞いてしまったな・・・


・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。


いかんいかん、想像するな俺


気分を落ち着かせるため、出された紅茶をすする


美味い紅茶だった


でも、やっぱり俺は緑茶の方が好きだな・・・


◆    ◆    ◆


「どうしよう・・・あの子返事してくれない。これが原因でまた中学の時みたいに引きこもっちゃったらどうしよう・・・やっと高校は普通に行くようになってくれたのに・・・、このまま引きこもりになってニートとかになっちゃったら・・・兄さんに何て言えばいいのよお・・・」


青ざめた顔で戻ってきた園崎の叔母さんは見るからにうろたえてオロオロしていた

同情を禁じえないが俺にはどうすることも出来ない


壁の時計を見ると結構な時間になっていた


「すみません・・・、俺そろそろ帰ります」


俺がそう切り出すと園崎の叔母さんは疲れた表情で無理に笑った


「あ、そうね。もう、こんな時間・・・御免なさいね、なんかこんなことになっちゃって・・・」


「い、いえ・・・。お邪魔しました」


俺は頭を下げ、気まずい空気のリビングから逃げるように出た



階段を上って園崎の部屋の前まで来るとドアの脇の壁に俺のカバンが立て掛けててあった


部屋の前に立ち、ドアをノックする


だが、返事はない


「えーと園崎、俺」


微かに部屋の中で身じろぎする気配がした


「園崎、俺そろそろ帰るな」


そう声をかけるとドアの向こうで息を飲む気配がした


・・・しかしやっぱり返事は無い


園崎の叔母さんが心配してるように本当にこの事が原因で引きこもってしまったりするんだろうか


有り得無い話じゃないと思う


自分の恥ずかしい行為のことを他人に、それも異性に知られたんだ


死ぬほど恥ずかしいに違いない


普段は『前世は男だった』なんて言ってうそぶいてはいるが、なんだかんだ言って女の子だからな


男の俺に女の子的には最大級に恥ずかしい事を知られてしまったのだから、俺と顔を合わせるのが気まずくて学校に来なくなるというのは十分考えられる


だけど、俺にはどうすることも出来ない・・・


いいのか?それで・・・


「そ、園崎・・・、さっきのはあんまり気にするなよ?その・・・そういう事ってさ、言わないだけで誰でもやってる事だと思うし・・・」


まあ、正直女の子の場合がどうなのかは知らないが・・・


相変わらずドアの向こうからの返事は無い


だが、話を聞いている気配はある


だめだ、こんな当たり障りの無い言葉じゃ・・・


園崎は俺の大事な・・・友達だろ?


その友達が知られたく無いような恥ずかしい事を知られて落ち込んでるんだぞ


覚悟を決めろ、俺


・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。




よし!腹は括った






「つーか、俺だって、してるし!オ●ニー!ち、ちなみに俺は週に3、4回はしてるぞ?だいたい二日に一回の割合だ。しょうがないだろ、溜まるんだから。そりゃ抜くわ。ドーテーだし。気持ちイイし。覚えたばっかりの頃なんて毎日してたぞ。つか、一日に数回したこともあるし。中学の時なんかしたまま寝ちまって朝起こしにきた母さんに発見された事もあるしな。スゲェ気まずくて死にたくなったけど今でもこうして生きてるし、それでも懲りずにやってるしな。だから大丈夫だ。しばらく気まずいかもしれないけど、すぐ慣れる。だから心配するな。

・・・・あー!俺はこんなことオマエに知られてスゲエ恥ずかしい!!出来ればしばらく顔を見られたくない。だがそれに耐えて明日はちゃんと学校に行く!だからお前もちゃんと来い!じゃ、じゃあな!つーことでまた明日」


そうドアの向こうに叫んだあと、階段を駆け降りた


ぐああああああああああああ!!!!!!!


勢いのままに恥ずかしい事を思い切りカミングアウトしてしまった


しかも、女の子相手に!


ホントなら思いっ切り軽蔑され蔑まれるような内容を!!


階段の下で園崎の叔母さんと出くわした


ぎゃあああ!!そういえばこの人居たんだ!


俺の顔を見ると曖昧な微笑みを浮かべたあと・・・目を逸らした


「お、お邪魔しましたあぁあぁ」


こ、心が・・・抉られるようだ


園崎邸を後にした俺は泣きながら、薄暗くなった道をひた走り家路につくのだった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


えっと・・・ここはどこだ?俺、いったい何を・・・


「どうしたにゃ?」


え?


美少女が俺の顔を覗き込んでいた


ネコミミをつけた物凄い可愛らしい少女だ


君は?


よく知ってる子のはずなのに思い出せない


・・・てゆーか俺、誰だっけ?・・・え?!俺、ハダカ?


自分の胸元に目をやると何もつけてない肌が露出していた


そんな俺の下腹部に跨がるように、メイド服のネコミミ少女が乗っている


ちょ、ちょっと!?この体勢はヤバいって!


慌てる俺にも動じずネコミミ少女は微笑み続ける


「なにがやばいのにゃ?」


可愛らしく小首を傾げ、狼狽する俺を不思議そうに見ている


だって・・・


彼女のスカートが覆い隠してて見えないが、下も履いてない可能性が・・・


って君、何持ってるの!?


「え?これかにゃ?」


そう言ってネコミミ少女は手にしていたそれを目の前に広げて見せた


それは薄緑色のボーダー柄の布地でできた・・・


ちょ・・・!?


それじゃ今、彼女のスカートに覆われた中では俺と彼女のそこはどんな状態になってるんだ!?


「こーなっちゃったセキニン、ちゃんととってにゃ」


せ、責任って・・・、この状態ってどう見ても君が・・・!?


「トチューケーカがどうであれ、サイシューテキなケッカにたいするセキニンをとるのはオトコのギムなのにゃ」


ネコミミ少女はそんなとんでもない事をこの世の真理みたいに言ってきた


それって卑怯じゃない!?


「ゴメンにゃ。おんにゃってゆーのはヒキョーなイキモノなのにゃ、しらなかったにゃ?」


そう言いながらネコミミ少女は妖艶ともいえる微笑を浮かべながら俺にその愛らしい唇を近づけてきた・・・


メ・・・メチャクチャだ・・・


「ん?ボクをメチャクチャにしてくれるのにゃ?うれしーにゃ」


そ、そういう意味じゃ・・・


俺は言葉では否定するものの、肉体は彼女のその危険な愛らしさに溺れていった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「う、んむ・・・・」


まどろみの中、俺はうっすらと瞼を開けた


また何か夢をみていた気がする・・・だがやはり、覚えてはいない


ただ、今日はいつもと違って妙な充足感と心地よい気怠さが残っていた


夢の内容はわからないが今日は最後まで見れたって事なのかな


そんな事を思いながら寝返りをうった時、その部分の違和感に気付いた


慌てて飛び起きた俺はそこを確認して愕然となった


◆    ◆    ◆   


「はあ・・・」


思わず溜息が漏れた


寝ている間に『暴発』してしまうなんて・・・俺は中坊のガキか?


実際、この事態は中一の時以来だと思う


昨日は色々と刺激的な事が多過ぎた


よく一度も鼻血を出さずに済んだものだと思っていたが、まさか寝てる間に別のモノを放出してしまうとは・・・


洗濯するのも躊躇われたので母さんに見つからないように厳重にカムフラージュしゴミとして処分する事にした


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「はあああぁ・・・・」


いつもの通学路


園崎との待ち合わせ場所である、公園の遊歩道途中のベンチ


その傍らで俺は憂鬱な気分で長い溜息をついていた


空はどんよりと曇っていて、いまにも雨が降り出しそうだ


実際、昨日の夜中から明け方まで降っていたらしく、道はまだ濡れている


ベンチも濡れて座れないから俺はその傍らに立って、園崎のことを待っていた


園崎・・・ちゃんと来るだろうか


早くその顔を見たいと思う気持ちと出来れば顔を合わせたくないという気持ちが混じり合ったおかしな気分だ


・・・どんな顔で挨拶すればいいんだ


何もあそこまでのことは言わなくてもよかったんじゃないだろうか・・・


いや、女の子である園崎は、俺の何倍も恥ずかしかったに違いない


その恥ずかしさを打ち消して、お互い様って気にさせるにはあれでも足りないくらいのはずだ


そう気力を奮い立たせた時、視界に園崎の姿が写った


間違いなく園崎である事が確認出来た瞬間、安堵の吐息が漏れた


なんとか学校に来る気にはなってくれたらしい


隣に後輩女子、サクマの姿もあった


よかった、あいつがいてくれれば二人だけより幾分気が紛れるはずだ


あの妙な高いテンションに気まずさも緩和されるだろう


「あ、おはようございます先輩。そこで園崎センパイに会いまして、ここまでご一緒させて貰いました」


あっけらかんと挨拶してくるサクマに多少気分が軽くなる


「おはよ、サクマ。・・・そ、園崎も、おはよう」


「う、・・・あ、あう・・・・・・おはよ、経吾」


そうたどたどしく挨拶してくるが、俺と目が合うと顔を真っ赤にして目を逸らしてしまう


いつもとまるで違うウブな少女のような反応に目を奪われる


所在なげに視線をさ迷わせ、瞳を揺らめかせたあと、怖ず怖ずと俺の顔を覗き込んでくる


上目遣いになったその瞳に頬が熱くなり思わず顔を逸らす


逸らしてから目だけで園崎を見ると、目が合った瞬間ますます顔を赤くさせ慌てて俯く


・・・なに、この可愛らしい生き物


持って帰っていいか?


「あのー、先輩方?」


「うわぅ!!」


突然、横から声をかけられ俺は心臓が止まりそうになった


「な、なんだ、サクマ居たのか。急に声をかけるなよ。びっくりするだろ!?」


「い、居たのかって・・・!?最初から居ましたよ!なんですか酷すぎません!?そーですか、そんなに私は邪魔者ですか?」


「す、すまん。べ、別に邪魔って事はないぞ」


そう言う俺にジト目を向けるサクマ


「でも、お二人ともどうかしたんですか?なんかいつもと様子が違うような・・・」


不満そうに唇を尖らせたあと、俺と園崎を交互に見て首を傾げる


「な、なんでもないなんでもない、な?園崎」


「う、うん。別にいつも通りだ。な、経吾」


俺たちは慌ててそう弁解する


「そうですか?」


眉を寄せ不審な物を見るような目になるサクマ


「あ、そ、そうだ経吾。こ、これ昨日ウチに忘れてっただろう?無いと困ると思って・・・持ってきた」


そう言いながら園崎がカバンから取り出した物は・・・



俺のベルトだった



昨日は急いで服を着たからベルトとか挿してるヒマがなかったのだ


制服のズボンは歩いてて落ちるほどウエストが緩くはない


とはいえ、やはり収まりが悪いため今日は私服用のを着けてきてたのだが・・・


「えっと・・・これってズボンのベルトですよね?・・・・えっ?えっ?・・・つまり昨日、園崎センパイの家で義川先輩がズボンのベルトを外すような行為を?・・・そ、それってつまり・・・セッ、セッ、セセセセセセセセセ・・・・・わわっ!!それでさっきからお二人とも変に気まずそうにしてたんですね」


「ちょ、待てサクマ!お前おかしな事考えてるだろ?ち、違うぞ」


「わ、判ってます。判ってますから。誰にも言いませんから・・・、ふ、ふはあ・・・こ、高校2年生ですもんね。し、してても不思議じゃないですよね。はあぁ・・・私と一つしか歳違わないのに、お二人ともオトナ過ぎますぅ・・・はっ!わ、私お邪魔ですよね?先に行きますね?し、失礼しまーす」


サクマは一人身悶え、誤解に基づく理解を得ると慌てて頭を下げそそくさと去っていった


ああ、またあいつの中で俺たちのイメージが現実とかけ離れていく・・・


「・・・行くか?」

「・・・・う、うん」


気を取り直し、そう園崎に声を掛け歩き出した


よかった


多少たどたどしいがいつもの園崎だ


歩きながら受け取ったベルトを鞄にしまいながら、ふと別の物を思い出した


「なあ、園崎。俺、Tシャツも忘れてたと思うんだけど」


あの時、急いで服を着たから素肌に直接ワイシャツを着てネクタイを締めたのだ


俺のセリフに園崎の歩みが止まる


「園崎?」

「あ、ああ、Tシャツね。Tシャツ。うん、あったよ」


そう言いながら園崎の瞳が激しくブレ始める


「えっと、それは?」

「あ、ああ、まだウチにある。ちゃ、ちゃんとあるから安心して?」


何故か急に反応がたどたどしくなる園崎


「そっか、じゃあ後で持って来てくれるか?」

「わ、わかった。ちゃんと、洗って、返すね」


「?、いや、別にわざわざ洗ってくれなくても・・・、そのまま持って来てくれていいぜ?」


「え?そのまま・・・・、ダ、ダメッ!!ちゃ、ちゃんと洗って返すから!!ちゃんとキレイにしてお返し致します!!!!」


「そ、そうか?まあ、なら・・・・お願いします」


俺は園崎の剣幕にそう答えるしかなかった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


一日の授業が終わり、俺は帰宅するべく昇降口へと歩を進めていた


今日は園崎との間には微妙な空気が流れていた


とはいえ、たどたどしいだけで悪い雰囲気ではなかった


俺がそれとなく園崎の方に視線を向けると俺を見ていた園崎と目が合い、二人で慌てて目を逸らす


そしてまた、こっそりと盗み見ると目が合う、みたいなのの繰り返しだった


・・・なんだ?この恋する二人みたいな状況は・・・


変な気分になってくるぞ


ともあれ明日からテスト明けの三連休だ


休みの間クールダウンすれば休み明けには元通りの関係に戻れるはずだ


とりあえず今日は放課後の屋上でのアレは無しと考えていいだろう


放課後になって、ふと気付くと園崎の姿は鞄と共に消えていたし、屋上も昨日からの雨で水溜まりでいっぱいのはずだ


そんな事を考えながら一階まで降りたとき、ゴミ箱を抱えて歩いてくるサクマとばったり会った


よし、今朝の誤解、解いておくか


「よ、サクマ」

「あ、せ、先輩」


俺が声をかけるとサクマは気まずそうに頬を赤らめ目を泳がす


「あー、今朝のことだけどな・・・。お前なんか変な勘違いしてるっぽいけど、

俺達なにもなかったからな?」


「え?何もなかった?」


俺の言葉にきょとんとした表情を作るサクマ


「ああ、お前が想像してるような事は一切していないから」


「していない・・・・そうなんです・・・か?」


「ああ、そうだ。してないから。勘違いするなよ?」


「そ、そうですか・・・それは、なんと言えばいいか・・・。ま、まあ初めては緊張して上手くいかない事もあるって雑誌とかにも書いてありましたし・・・だ、大丈夫ですよ先輩!またチャンスありますって!だから気を落とさないでください!」


「頼む、おかしな誤解に基づいた変な励ましはやめてくれ」


誤解を解こうとしたつもりが単にネジ曲がっただけだった


しかも俺にとって不名誉な方向に


もういいや・・・これ以上なにか言っても、さらにねじ曲がるだけな気がする・・・


「まあ、話はそれだけだ・・・。悪かったな、呼び止めて。・・・それ焼却炉までだろ?持ってってやろうか?」


抱えたゴミ箱に目を落としながらそう言うとサクマは苦笑混じりの笑顔になった


「それは嬉しい申し出ですが丁重にお断りしておきますよ・・・ってゆーか、私なんかより園崎センパイにちゃんとフォローはしたんですか?肝心な時に先輩のがフニャってしまったのは自分の魅力が足りないからかもって思い悩んでるかもしれないですよ?」


おい、俺の不名誉が具体的になったぞ


「だいたい先輩はカノジョがいる身でナチュラルに他の子に優し過ぎませんか?」


園崎はカノジョじゃないんだがな


「いいですか?先輩達は秘密でお付き合いしてるんですから、他の子からみたら先輩はフリーって事なんですよ?優しくした誰かが先輩に惚れて告白とかしてきたらどうするんです?修羅場りたいんですか?」


「しゅ、修羅場るって・・・、だいいち俺なんかにちょっと優しくされたくらいで惚れるような子いないだろ?俺、別にイケメンでもなんでもないし体力頭脳共に平均値のモブキャラだぞ」


俺はそんな自意識過剰じゃない


「イケメンじゃなくても男子に優しくされたら女の子は嬉しいもんなんですよ。ましてや恋に恋する夢見がちな年頃の女の子ならなおさらです」


「そういうもんなの?」


「そーゆーもんなんですー、だから先輩もそのへん気を配ってくださいね」


「難しいな・・・」


「ま、要するに園崎センパイだけ見てればいいって事ですよ・・・いいですか先輩、恋する女の子はいつも不安で一杯なのですよ?相手の心が自分から離れてしまうんじゃないかってね。いくら先輩達がラブラブでも園崎センパイは常にその不安を抱えているんです。だから先輩は園崎センパイに不安を与えるような行動は慎むべきなんです」


お説教されてしまった


「まあ、浮気とかして刺されないように気をつけて下さいね」


「おい、物騒なこと言わないでくれよ・・・」


「好き過ぎてそのくらい思い詰めちゃう女の子もいるってことですよ

・・・じゃあ先輩、わたしはもう行きますね。

[残酷な描写あり]って警告がつかないように気をつけて下さいねー」


サクマはそんなメタっぽいセリフと共にゴミ箱を抱えて去って行った


昇降口で靴に履き替え校舎の外へ出る


校門をくぐり、駅の方へと歩を進めた


なんか最近ずっと傍らに園崎がいたから、一人で帰り道を歩くのに違和感を感じる


まあいい、今日はせっかくだからゆったり、まったり、ゆっくり帰ろう


・・・別に園崎が追いついてくるかも、なんて考えたわけじゃないぜ


って、誰に言い訳してんだ俺


しばらく歩いて駅前の公園に着いた


遊歩道を歩きながらぼんやりと池の水面を眺める


風情があって実にいい


静かだし


大体、最近は騒がし過ぎた


本来俺は・・・平穏で、平凡で、平和な日々を望んでいたんだ


園崎の突拍子もない行動に振り回されたりするのは俺にとって最も苦手とする状況だったはずなのに・・・


最近はそれが楽しく感じられたりして・・・


もしかして俺、本当に園崎の事が・・・



自販機のところに着いた


ちょっと喉が渇いた、気がする


一休みして行こう


コインを投入していつもの練乳コーヒーを買う


ベンチは湿っていて座れないから、その隣に佇み缶を傾ける



・・・来ないな


いや、別に園崎を待ってるわけじゃないけどな


今日はじっくり時間をかけてコーヒーを味わいたい気分なだけだ


・・・10分ほど時間をかけて味わったあと、空になった缶をごみ箱へと放る




・・・帰るか




溜息と共に歩き出そうとしたとき、ケータイが鳴った


液晶の表示を見ると姉さんからだった


『もしもし、けーくん?もう学校おわった?』


「うん、今帰ってるとこだけど。どうしたの?」


『けーくん、お願いがあるんだけど。今から買い物に付き合ってくれないかな?』


「んー、まあ、いいけど」


ま、帰っても特にやること無いしな


『ありがとー、・・・今、駅の近くだからすぐ迎えにいくね』


「あ、俺いま駅前の公園に居る」


『ホント?じゃ、すぐ行くね。駅側の遊歩道出口で待ってて』


公園を出るとすでに姉さんは路肩にクルマを停めて待っていた


俺の姿を見つけると、わざわざクルマから出て歩いてくる


「へへへぇ、久しぶりだねえ」

「そーだっけ?」


「もお、つれないなあ・・・」


そう言って頬を膨らます姉さんに俺は苦笑で返した


「とりあえず乗って」


俺は姉さんに促され助手席のドアを開けた


「?・・・どおかした?」


ドアを開けたまま動かない俺に姉さんが声を掛けてくる


「いや、なんでもない」


助手席のシートへと腰を落としながらそう答える


今、公園の出口の所に園崎の姿が一瞬見えた気がしたんだが・・・・


・・・いないよな?


気のせいだったみたいだ


「それじゃいくからねぇ」


姉さんがシフトノブを操作し、クルマは車道を走り出した


(つづく)

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プロミステイク ~俺と彼女の中二モード恋愛ゲーム~ 阿津沼一成 @atunuma

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