ここのタイトルもテンプレ通りになるわけがない
ちびまるフォイ
テンプレスイッチはここにある
髪を洗っている時だった。
後頭部にボタンのような感触があり鏡で見てみると、
ボタンが本当に頭についていた。
『テンプレ』
と、ボタンの上に書かれている。
いったいなんだこれ。
ボタンを押しつつ風呂から上がると、裸の女が立っていた。
「えっ……」
「きゃーー! えっち!!」
脱衣所から風呂場に蹴り戻された。
俺の頭は理解が追い付かない状況を整理しようとぐるぐる回った。
「というか、あいつ誰だよ!!」
やっぱりわからなかった。
翌日、頭のボタンを触りながら学校へ向かっている。
「テンプレってなにがテンプレなんだろ……」
ボタンをカチカチいじっていると、見通しの悪い曲がり角に差し掛かったとき。
「きゃっ!」
どんっ。
食パンくわえた女子高生にぶつかった。
あるのかこんな歴史的な体験。
「ご、ごめんなさい! 私急いでいて!」
少女はそのままどこかへいった。
その向かっている先が俺の学校と同じ方向なのでまさかとは思った。
「ということで、今日の転校生だ」
「みなさん、はじめまして。……あ! 今朝の!」
さっそく朝のホームルームで転校生は俺を指さした。
「お? 二人はもう知り合いなのか? ちょうどよかった。
席はあいつの隣だからな。仲良くしろよ」
教室はどっとほほえましい笑いに包まれた。
なんだこのテンプレ展開。俺得すぎる。
「わかったぞ! この頭のスイッチは押している間はテンプレ展開になるのか!」
こんなにいいことはない。
毎日毎日、予想もつかない鬱展開ばかりの灰色人生。
その先が見えるテンプレ人生になれば楽しいに決まっている。
俺はテープでボタンを常に押している状態に固定した。
これで常にテンプレ展開になるはずだ。
「なぁ、オレらと一緒に遊びに行こうぜ?」
テンプレ展開にしたとたん、校舎裏で転校生が絡まれている。
軽く腕をひねる。
「痛たたたた! す、すまねぇ!! 許してくれ!」
「ふふふ、やっぱりだ。なにもかもテンプレ展開。
俺の悪いようには絶対展開しないんだ!」
「あの……強いんですね……」
転校生は完全に恋をしている顔になった。テンプレ展開。
その後はテンプレらしく、普通にデートを重ねて、ときに離れたりして、
お互いの悩みを打ち明け合って乗り越えたりしていくんだろう。
数日後、俺はすっかりテンプレに飽きてしまった。
「はぁ……これはこれで面白くないなぁ……」
毎日変わり映えがないわけではない。
ただ、すべての展開の先が予想できてしまうことが
こんなにも毎日を退屈にさせるなんて思いもしなかった。
「やたら人とぶつかってラッキースケベ展開になるし、
必要もないのに変な部を創設したり……はぁ」
まるで小説の中みたいだ。
主人公になったのはいいが、先が読めてしまう人生なんて価値があるのか。
しかれたレールの上を完璧に走らされている気分。
「よし、もうテンプレ展開なんてやめよう!」
俺は頭のテープをはがした。
これでボタンの固定は終わって普通の日常が……。
「あ、あれ!? 戻ってない!?」
テープをはがしてもボタンは凹んだまま。
常に押したままの状態になっている。
「うそ!? うそだろ!? これじゃずっとテンプレ人生かよ!?」
ボタンを戻そうと爪でひっかけてもますますボタンを押し込んでしまう。
完全に埋まってしまった。もう戻すことはできない。
「あぁ……そんな……この先、なにかもテンプレかよ……」
敷かれたレールからの脱線は許されない。
先の見えすぎる未来に絶望した。
気が付けば、とあるビルの屋上に立っていた。
足元には歩く人が豆粒のように小さく見える。
「どうせ先の見える人生なんて……」
そして、テンプレ展開なら――。
「待ちたまえ! 早まるんじゃない!!」
説教役の人がやってきた。
テンプレらしい展開だ。俺はこの後説得される。
「君が死んだらご両親はどう思うかな? きっと悲しむだろう」
内容もテンプレ通り。
「悩みがあるなら力になるよ。さぁ戻って」
「わかりました」
俺は説得された。
それがテンプレ通りであるから。
だが。
あえて、ジャンプして屋上から体を投げ出した。
「ええ!? 説得されたんじゃなかったのぉ!?」
説教役の人は目を丸くしていた。
どんどん急降下する体と迫ってくる地面。でも恐怖はない。
やっとすべてのテンプレから解放された。
そして、最後にテンプレを壊すことができた。
それだけで俺は大満足だ……。
目を覚ますと、一人の神々しい女が待っていた。
嫌な予感に冷汗が流れる。
「あなたは死にました。
でもかわいそうだからパワーアップして転生を――」
「ここでもテンプレかよおぉぉぉ!!!!」
テンプレールはどこまでも続く。
ここのタイトルもテンプレ通りになるわけがない ちびまるフォイ @firestorage
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