理想郷(からおけ)を探して

こんぶ煮たらこ

理想郷(からおけ)を探して

私はトキ。

仲間を探して旅をしている。

でも全然見つからない。

そんな時は気晴らしに歌を歌うの。どこかにいる私の仲間に届きますようにって。

深く息を吸い喉を震わせて歌う瞬間は本当に気持ち良いわ。




『~~~♪゛~~♪゛』



「うううううるさいのですうううううううぅぅぅぅ!!!!!!」

「何ですか今の騒音は!?!?」



私の歌声に気付いて早速やってきたのは仲間…じゃなくて博士達だった。



「いいですかトキ!お前の歌はご近所迷惑とかそういうレベルじゃないのです!最早公害!テロです!」

「…なっ」

「博士。トキは自分がこの世の終わりレベルの音痴である事を自覚していないようです」

「…」



私だって自分が「ちょっと」音痴だって事くらい分かってるわ。

しかもこの体になってからというもの中々自分の思うように歌えないし。




「でも私歌うのが生き甲斐みたいなものだし…博士達だって食べるのが生き甲斐みたいなものでしょ?」

「我々の崇高なるグルメ趣味をお前の歌なんかと一緒にしないで欲しいのです!」



博士達はかんかんに怒っている。

いつもそう。

私が歌うと皆怒ったり耳を塞いじゃう。

はぁ…どこかに人目を気にせず思いっきり歌える場所は無いかしら…。




「…良いでしょう。そんなに歌が好きならお前にとっておきの情報を教えてやるのです。ついてくるです」









「これを見るのです」


図書館に着くと博士は一枚の写真を取り出した。

そこには大きな建物が写っており、真ん中には同じように大きなマイクの形をした看板がピカピカと色とりどりのネオンで縁取られていた。




「これはかつてヒトが作ったとされる娯楽施設…その名もからおけ」

「からおけ?」






博士はその写真に写っているものをからおけと呼んだ。

何でもここならいくら歌っても声は外に漏れず歌い放題なのだとか。



「そんな素敵な場所が…教えて博士。このからおけっていうのはどこにあるの?」

「分からないのです。でもこのジャパリパークのどこかにあると言われています」

「分かったわ。私探す。そしてきっと辿り着いてみせるわ、その理想郷(からおけ)に…!」



そうと決まれば早速出発ね。

どこにあるのかも分からないものを一人で探すのは不安だけどいつもそうやってきたしきっと今回も大丈夫。







「待つのです。お前だけでは不安なので一人ガイドをつけてやるのです。おい、出てくるのです。」



博士の声に反応して奥の本棚がガタッと揺れた。

よく見るとそこからしっぽがぴょこぴょこ動いている。



「…ツ、ツチノコだ。よろしくな」

「ツチノコはこのジャパリパークの歴史に詳しいのです。分からない事があったら何でも聞くといいです。」

「分かったわ。よろしくね、ツチノコ。…何で隠れてるの?」

「…お、落ち着くんだよ」



恥ずかしがるツチノコを無理矢理引っ張りがっちり体に固定する。

今まで誰かを運んだ事は無かったけれど彼女くらい華奢な身体なら大丈夫そうね。


「じゃあ博士。行ってくるわ。」

「いってらっしゃいなのです。道中セルリアンに気を付けるのですよ」














「ふぅ…これでようやく厄介払いが出来たのです」

「いいのですか?あれではツチノコは完全に人柱では…」

「奴は私が考案した『トキと行くジャパリパーク前人未踏の遺跡探検!~素敵な歌声で空の旅~』ツアーに自ら名乗り出たのでいいのです」

「いつの間にそんな企画を…」

「それにもし仮にこのジャパリパークにからおけが存在したらその施設を我々のものとしゆくゆくは一般開放して一儲け…じゅるり」

「(相変わらず悪どい)」










それから私とツチノコのからおけを探す長い長い旅が始まった。

彼女は最初話を振ってもぶっきらぼうに返すだけであまり会話も弾まなかったのだけれど、お互い似たような境遇という事もあって話してみるとすぐにいい子なのが分かったわ。

それにとても頭がいいみたい。

ただ歌のアドバイスを貰おうと思ったら「それは無理」と一蹴されてしまったけれど。



「何だかこうして誰かと楽しくお話しするのって随分久しぶりで…楽しいわね」

「そうなのか?」

「…私歌が大好きで今まで色んな所で歌ってきたのだけれどその度博士達の様な反応ばかりでこうやって誰かとゆっくりお話する機会なんて無かったもの」

「…」

「…無言で察するのやめてくれないからしら」



バツが悪そうにしているツチノコを尻目に私は続けた。


私が色々な所を旅してるのは仲間を探す為でもあるけど長く留まるとそうやって周りにも迷惑をかけてしまうので仕方なく転々としている事


本当は仲間と安心して暮らせる場所が欲しいだけという事


もしからおけが見つかったらそこを住処にしたいという事。





「…心配するな。俺の知識とお前の行動力があればきっと見つかる。いや見つけてみせる」

「ツチノコは優しいのね」

「ま、まぁ…俺もずっと一人だったから気持ちも分かるっていうか何と言うか…。と、とにかく!見つかるといいな、仲間」

「そうね。でも私、あなたの事も大切な仲間だと思ってるわ」

「ふ、ふん…俺は別にお前なんか…ん?」



その時私達の目にどこかで見たことのある建物が写った。

そう、あれは…







「すごいぞおおおおおぉぉぉ!!!!ついに!!ついに見つけたんだああああぁぁぁはっははー!!!!」

「ここがからおけ…?」



まるで子どもみたいにはしゃぐツチノコをよそに、私はまだ実感が湧かなくて博士から貰った写真と目の前にある建物を見比べてたりしていた。

そこにはかつての様な輝きは無く、写真にあった大きなマイクの看板も頭が取れてよく分からない置物と化していた。

これが本当に私の探していた理想郷…?

これじゃ理想郷ユートピアどころかディストピアだわ…。



「何してる!!早く中に入るぞぉ!!」



戸惑う私の手を引っ張るツチノコ。

中も予想以上に荒廃が進んでおり、正直ここで暮らすのは命の危険すら感じる。

私の好きな時に歌いたいだけ歌うという夢は脆くも崩れ去ってしまったかのように思えた。



「ど〜れ電源は…っとここか?」




ポチッ












ブォーン…



「うおおおおおおおおぉぉ!!!!凄い!!まだ使えるぞこれ!!」

「…え?」



電源が…点いた?

それってつまり



「やったぞ!!!!ついに俺達やったんだ!!」

「本当に…!?」



私は思わずツチノコに抱きついてしまった。

見つけた…ついに辿り着いたのね…念願の理想郷に…!!



「え〜っと多分これがマイクの音量調節か…ん?」

「では早速この感動を歌に込めて…」

「お、おい待て!今歌ったら…」



『♪゛~~~♪゛~~~~♪゛~~』



「ぎゃあああああああああぁぁぁあぁあぁぁあああああああぁぁ!!!!!!!!」





ガラガラガッシャーン!!!!












「あぁ…あぁ…せっかくの貴重なおーぱーつが…遺跡が…」

「わ、私の理想郷が…」



唖然とするツチノコと私。

目の前に広がるのは瓦礫の山。

私達が旅をし探し求めていた理想郷は私の一声で今度こそ本当に崩れ去ってしまった。



「お、お前ぇぇぇぇ!!自分で壊してどうするんだ!!」

「…ごめんなさい。でもいいの…理想郷は無くなってしまったけれど私には大切な新しい仲間を見つけられたもの。それはツチ

「お前なんか絶交だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

















後日

「博士。ツチノコから先日のツアーについての賠償命令が来ています」

「全く…あのツアーは出発したら最後あとは全てお客様の自己責任なのです。なので我々は一切無関係なのです」

「(どこまでも悪どい)」

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理想郷(からおけ)を探して こんぶ煮たらこ @konbu_ni_tarako

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