第15話 原動力=レゾリューション

  二日目の放課後。


  司は一人帰路に着いていた。もし吉野奈緒がまだ学園から出ていないのだったら、ストーカー報告をされてでも問い詰めたい事が有ったのだが……今は致し方ない。


  先ほど篤史から聞いた二年前の事件の概要。


  そして篤史自身のそれに対する見解とこれから起こる事に関する二通りの展開。


  全てに信憑性があり、今回の事件の核心に触れていると司は判断していた。


  そして、今、状況的には自分たちは非常に不利であるという事も……


  司はこれからの行動方針を決定するために大槻佳奈が入院している理成弦学園が管理している病院へと足を運んだ。


 

  相変わらず、大槻佳奈はおばあちゃんにこれでもかと言うほど世話を焼かれていたが、今日の昼間に意識を取り戻したようで多少の混乱はあるもののその言動ははっきりとしていた。


  「大槻さん、はじめまして。新しく転校して来ました宮野司です」


  一応初対面なので挨拶と軽い自己紹介をしておく。


  「はじめまして、宮野くん。貴方のことはおばあちゃんから聞いているわ。大変だね、転校早々あの篤史先輩に捕まっちゃうなんて」


  「本当にね。あの先輩の言動だけは真似しちゃいけないって反面教師にはなってるんだけどね」


  大槻佳奈は割と気さくな少女のようだ。初対面の司との会話も滞るどころか少し盛り上がってくるほどだ。


  暫く談笑したところで、おばあちゃんが売店に買い出しに行ったのを確認してから司は本題に入り始める。


  「ところで大槻さん。君は襲われた当日の事を覚えているかい? 」


  その質問に明らかに顔を歪める大槻佳奈。


  事件に遭ってまだ数日だ。わざわざ嫌な事を思い出す事が不快でないわけがない。


  「なんで宮野くんはそんな事を聞きたがるんですか? 」


  「まだもう一人狙われるかもしれない人がいるんだ。篤史先輩も動いてくれているみたいだし、心配は要らないだろうけど……その事件に片足を突っ込んでしまった身としては放っておくわけにもいかないんだ」


  ありったけの熱意と誠意をもって語る。


  「でも、今の俺には情報が圧倒的に足りないんだ。篤史先輩は彼の持つ全ての情報を話してくれた。でもそれが全てだとは考えられないんだ。先輩は俺がこの件に足を突っ込む前に忠告してくれた。ああ見えて他人の事をそこそこ考えてるみたいだからこそ重要な情報を隠して俺が迂闊に動けない様にしてるんだと思う。だから、今君の知っている真実を俺に教えてはくれないだろうか」


  大槻佳奈は暫く口を閉じていたが呆れたように少し笑みをこぼすと、一つ大きな深呼吸をして事件のあった日の出来事について話しはじめた。



  「……あの日私は寝坊して、何時もより遅く家を出たの。何日か前から吉野さんが遅刻して先生がピリピリしてたから急がなきゃって思って、おばあちゃんにはダメって言われてたんだけど……路地裏とかを使って最短ルートで行こうとしたの」


  大槻佳奈が顔を伏せ始める。その両の手でベットの端をぎゅっと握りしめている。彼女のトラウマとなっているのはここからなのだろう。


  「そしたら学校の近くの路地裏から銃声が聞こえて、野次馬心に火がついてちょっとだけって言い聞かせて覗きに行ったら……そこでは吉野さんと三人の不良が能力を使って闘ってて」


  吉野さんは不良四人と闘っていた……となると篤史先輩の考えたこれからの展開は……


  そんな司の思考を知るわけもなく大槻佳奈は尚、自分に起きた惨事について述べ続ける。


  「どう見ても吉野さん圧されてたし、吉野さんが自分からあんな不良に関わるわけないから自分も加勢に入った方がいいのかなって考えてたら、先に向こうに見つかって……吉野さん、直ぐ助けに入ってくれたんだけど相手の方が多くて私は捕まって、気絶して。起きたら今日の昼間で足がこんな風になってて」


  司は大槻佳奈の痛々しく包帯の巻かれた両足を見遣る。


  そして、その心中を察しながらも必要な情報だけ聞き取ってゆく。


  「大槻さん。あまり思い出したくないのはわかるけど一つだけ教えて欲しい。その不良グループの服装は? 」


  「二人はあんまり特徴なくて……強いて言うなら理成弦以外の学校の制服を着崩していたことくらいかな。でも一人は明確に覚えてるよ。そいつだけシャツの上から緑色のパーカーを被ってて、髪の色は黒色だったから……東洋人だと思う」


  その情報を聞いて、司の中ではある一つの疑問が半分だけ解消された。


  そして、これ以上を思い出させるのは酷なことだと思ったのだろう。


  司は“ありがとう”とだけ言い残して病室を後にしようとする。


  ガラッと扉を開けるとこちらの雰囲気から何かを悟ったのだろうか、大槻佳奈が嘆願するかのように声をかけてきた。


  「宮野くん。今から君が何をするのかは分からない。でも、もしそれがこの事件に関することなら……多分、今でも一人で闘ってるから……吉野さんを……私の恩人を護ってあげてくれませんか? 」


  司は承知したとは言わなかった。


  だがしかし、大槻佳奈が見る彼の後ろ姿はその言葉をしかと受け止め、“任せろ”と言っているように思えた

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