第14話 確認事項=チェックリスト

「吉野さん、おはよう」


 司は学園へ先行していた吉野奈緒に早足で追いつく。


 が、その彼女から挨拶が返されることはなく、まるで司をいない者として扱うかのように淡々と昇降口へと向かう。


 司はどうせ無視されるのならと、今自分が最も気になる事を吉野に聞いてみることにした。


 もちろん、“何故自分だけ無視されるのか”もあるが今はそこではなく


「ねえ、吉野さん。何でタイツに赤いシミが付いているの? それって血なんじゃ……」


 そこまで司が喋ると吉野は“それ以上は聞きたくない”とでも言わんかのように走り去ってしまった。傷ついた足をぎこちなく動かしながら。


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 この日の昼食は事前に呼び出していた篤史と取る運びとなった。


 無論、朝食を抜いているのでガッツリいくつもりだ。


 司が券売機の前でどれにしようか悩んでいると、ふと昨日吉野が食べていたジャンボカツカレーを思い出す。


「あれ……どれくらい量があるんだろうな……」


 ふと発した独り言は司の脳にかなりの発言権を持っていたようで自然と指がジャンボカツカレーのボタンにのび、気がついたらそれを持ってカレーを受け取る列に並んでいた。




 二人ぶんの席を確保してからゆっくりとジャンボカツカレーを食べているとふらりと待ち人が現れた。


「やあやあ司くん。待たせたね」


 篤史はなかなか頼む者はいないちゃんぽん麺を運んで来ていた。


 もしかすると、実家は九州の方なのだろうか?


「で? 今日ここに私を呼び出したってことは何か聞きたい事があるのだろう? 」


 ちゃんぽんの太麺を勢いよくすすりながら、ぶしつけに司に率直な問いを投げかける。


 無論、司もその事について話すために呼んでいたのだから是非もない話だ。


「篤史先輩、二年前に起きた『新世代連続傷害事件』について知っていますよね? 」


 司の問いに篤史は勢いよく上下していた箸を止め、いつになく真剣な眼差しで語り始める。


「そうか、司くんもその事件にたどり着いたんだね。私が昨日病院から佳奈ちゃんのお見舞いもそこそこに引き上げたのはその事件に関しての資料を調べるためだ」


 やはり、篤史は事件について詳しいところを知っているようだ。


 司は話を煽れるような次の言葉を探す。


「で、何が見つかったんですか? 」


「そうだね。もしこれ以上を知りたければ君は今から吉野奈緒と一蓮托生の道を辿る事となる。それでもいいかい? 」


 篤史の言葉にはいつものヘラヘラした遊びはなく、物事の核心に触れるかのごとく鋭さが感じられる。ただ事ではないのだろう。


 司はゴクリと生唾を飲む。この孤島に来てまだ二日目。自分には自分の目的……親父を殺した犯人と姉を探すという目標がある。


 ここで余計な事に足を突っ込めば確実にその目標は遠退く。


 しかし、あの異常なまでに転校生である自分を嫌う態度、新世代である自分たちが道でこけたくらいでは有り得ない出血。そして自分がこの島に来る前から暫く続く彼女らしくないという遅刻。


 明らかに彼女の身に何かが起こっている事は明白だ。


 普通ならばここで手を引くのが懸命な判断というものだろう。


 自分が手を引いたからといっても篤史先輩は引き続きこの事件について掘り下げて調べるだろう。この新世代が募る学園の生徒会長を任されている彼のことだ、恐らく全てを円満解決する事が出来るのだろう。


 だが、あくまで篤史は部外者であり、自分はもしかしたら吉野の身に起こっている事と何か関係しているかもしれないのだ。


 このまま無視を決め込むのも何かと後味が悪い。


 そこまで思考を働かせると、司は静かに頷いた。


 篤史はこちらの反応に満足げに笑みをこぼし、事件についての情報を喋り出す。


「いい覚悟だ。では僕が持てる限りの情報を話そう」



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 篤史が司に情報を伝え終わる頃には昼休みか終わりかけていた。


 篤史はのびきったちゃんぽんを食堂に返し、去り際に司に一言だけ告げて帰った。


「そうだ、どうしても君に会いたいってるかわい子ちゃんが明日の昼休みにここに来ることになっている。空けといてくれたまえ」


 と。


 一瞬、美形だった姉のことを思い出す。が、こんなに簡単にしかも向こうから出向いてくれるわけもない。



 結局、ジャンボカツカレーは食べきれぬまま空きっ腹で午後の授業を受ける事となった司。


 その午後の授業に吉野奈緒の姿はなかった。

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