第12話 記録=レコードシフト
病院に行くおばあちゃんの手伝いがてら大槻佳奈のお見舞いをして早1時間。
篤史は何時になく(まあ、まだ会ってから半日ほどなんだが……)深妙な顔をしながらそそくさと病室を出て行ってしまった。
俺もつい先程病院から引き上げてなんとなくそこらに立ててある案内板を見ながら未だ見ぬ理成弦学園の寮へと足を運んだ。
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それから1時間。もう完全に陽も落ち辺りは夜の闇に蝕まれていた。
周りを植え込みで囲まれた黒い外壁の特徴的な三階建ての小さな高級マンションの様な風貌をしたそれの入り口を入り管理人さんに自己紹介をして自室の鍵をもらって部屋に入る許可が出るまではそう長くはかからなかった。
外から見たのとは真逆で中は白を基調としたそれでいて落ち着きのあるイメージだ。
金の装飾が施された自室である二階の角部屋の鍵を開けドアを押し開ける。
取り敢えず靴でもn……
靴を脱ぐ場所がない……まぁ日本だけの管轄ではないから当然と言えば当然なのだが、本土から来た身としてはどうしても靴を脱ぐ行為は当たり前になってしまっていた。
脱ぎかけていた靴を何事もなかったかの様に履き直す。
トイレや浴槽がある所謂「バスルーム」に続くドアをスルーし短い廊下の先にあるもう一つのドアのノブに手を掛ける。
木で作られたそれは、なんとなく和を感じさせつい先日まで住んでいた木造日本家屋である実家を思い出させた。
ガチャリとドアの開く音がする。その奥には10畳はある一人には広すぎるほどのリビング。
入って左手には何故かダブルサイズのベットが一つ。正面には、これもまた木でできた勉強机と座り心地の良さそうな椅子が備え付けられていた。
「本当に何もないんだな」
司の部屋に対する感想はそれ以上でもそれ以下でもなかった。
ふと、部屋の隅を見ると自宅からこちらに送った私物が段ボールに詰められて置いてあった。
その中から自分の愛用しているノートパソコンを取り出し、取り敢えずこの島……オウスラクトについて調べることにした。なにせ当の案内役が迷惑以外の何者でもないことが分かっているからだ。
ブラウザを開き検索項目に「オウスラクト」と打ち込む。
といっても出てくるのは外面のための概要だけでありやはり詳しい事は出てこない。
「やっぱりそう簡単に情報が出てるわけないよな……もう少し絞り込むか」
検索項目に言葉を継ぎ足す。できるだけ具体的に。固有名詞を意識する。
「渡邊篤史……はダメだよな。学園長は……名前の方なんだっけ? じゃあ……」
結局、司が打ち込んだ検索項目は
「オウスラクト 理成弦学園」
となった。
勿論これが今自分がこの島で知る一番大きな法人名だったから以外の理由は無い。
すると、一番上に理成弦学園のホームページがヒットした。
クリックするとノートパソコンのカメラが勝手に起動し始めた。
画面には「学生証の提示をお願いします」と表示されている。この文字が赤いところが「お願いします」どころか「脅迫」に思えてならない。
「学生証って貰ったっけ? 」
司は途方に暮れているとこで昼間、学園まで案内して貰っている時の篤史の言葉を思い出す。
「
全世界の最高レベルの叡智が集まったこの人工島の最新システムにはまだまだ遅れている本土から来たばかりの司には慣れないものだった。
ポケットから照明で鈍く光る自分の端末を取り出しカメラに翳す。
ノートパソコンの画面には承認の白い文字が表示されて理成弦学園のトップページまで飛んだ。
学園をバックに風船が飛んでいるという何とも奇妙なトップページだったが、それは溜息で受け流しバナーを見る。
「えーっと、ニュース、行事、学校情報、戦歴……戦歴だな」
「戦歴」と書かれたバナーをクリックすると今日の昼間の吉野奈緒との戦闘動画が載っていた。
「一体どこから撮ってたんだ⁈ 」
自分たちの真上から撮られた動画を奇妙に思いつつも取り敢えず下にスクロールしていく。
『対戦相手:吉野奈緒』
『相手の
『対戦成績:0勝1敗』
『通算成績:0勝1敗』
『スコア:100pt』
「今回の戦闘と通算の勝ち数。それに相手の使った能力の名前が分かるのか……これで対策を練れるのか……」
雷鉄に重量。恐らく剣で弾いた時のあの妙な衝撃は後者の能力であろう。
だが雷鉄とは?
「多分、あの弾丸に雷を纏わせる能力の事だろうけど……雷鉄って聞いた事ない単語だな」
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その後雷鉄に関しては色々と調べてみたが特に何がヒットする訳でもなく空振りに終わった。
試しに久我や大槻佳奈の能力も気になったので調べてみたが一度対戦した相手の能力しか分からないらしい。
夜も深まってきた。そろそろ寝るか……とパソコンを閉じる前にニュースのバナーをクリックする。
勿論夕方の大槻佳奈の事件について調査するためだ。
すると、多数の新世代に関する事件や事故の情報が羅列される中、一つだけ気になる文字列を目に捉えた。
「新世代の連続傷害事件。目的は人の生足……分かり易っ!! これしかないだろ」
だがそこには一つの疑問が生じた。
「篤史先輩はこの事件を知らなかったのだろうか? たった二年前の事件なのに」
その疑問が後の学校生活にどんな影響を及ぼすのか司には知れた事ではなかった。
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