第10話 渡邊篤史≠先輩
1日の授業も終わり司は学園の外にある寮へと帰ろうとしていたのだが……
「うわー同年代の女の子に負けちゃうなんてかっこわるーい」
体育の授業での負けた上での清々しさを全てかき消すかのように篤史は司を茶化しにかかっていた。
「いや、仕方ないじゃないですか。第一、吉野さんと戦えって言ったのは篤史先輩ですよね? 」
司は何故か寮への帰路についてくる篤史へ不信感を抱きながら返す。
「因みになんで篤史先輩は彼女を僕の初めての戦闘訓練の相手に選んだんですか? 」
「それはね……」
篤史が不敵な笑みを浮かべる。
「それは……? 」
「彼女の戦闘時のコスチュームがなんとも堪らないと言うか、君くらいの実力者なら彼女を激しく動かすこともできるんじゃないかなぁって期待していたからで……」
「はぁ⁈ そんな理由で俺をいきなり戦闘訓練なんかに突っ込んだんですか⁈ 」
「え? そうだけど。ダメだったかな? 」
「ダメとかどうとか以前に篤史先輩……そのうち捕まりますよ? 」
「え? 税金で衣食住が賄われる
「……分かりましたよ、もういいですよ」
"この先輩には話しても無駄だ"と悟ったかのように篤史は時間の割にはまだ明るい街を歩いていく。
寮までは徒歩二十分くらいで生徒手帳曰く「学生の早寝早起きと適度な運動を習慣づけるため」らしい。本気なのだろうか?
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そんな他愛もない会話をしながら、もうあと数分で学生寮に着くという所にある大きな十字路の交差点を、自分の身体の二倍はある荷物を持って横切ろうとしている齢七十歳くらいのおばあちゃんがいるではないか。
「司くん司くん」
「何ですか篤史先輩? 」
「今ここで君の『千里眼』を起動させてみなよ」
「それってどういうことなんですか? 」
「いいからいいから。あ、起動した後に見るのはあのおばあちゃんだからね」
唐突な先輩からの要求だ……が、おそらく何か意味があるのだと信じて制服の内ポケットに入れていた端末を開き『千里眼』を起動させる。
すると……
「さあ、おばあちゃんがから何が見て取れたかな? 」
「ええと……この交差点を渡り切るのにあと三分かかるって事は分かりましたが……」
「うん、それだけ分かれば充分だよ。つまり僕が言いたいのはね、いくら『千里眼』って言ったって伝説上の千里眼みたいに遠くを見通せるわけではないという事だよ」
何故か篤史先輩は唐突に説明モードに入ることがある。(まぁ今日会ったばっかりだけど)
「あくまで君の能力は能力開発機構の定めた基準により『千里眼』の名を冠する能力に分類されただけであって名目通りの能力である保証はないという事だよ」
「でもそれってわざわざ分類する意味ってあるんですかね? 」
「能力の内容を明確に知られたら戦闘時に著しく不利になってしまうからね。大まかな分類をすることでそこら辺の追求を避けるようにしてるんだろう」
「なるほど。という事は僕の千里眼は『動く物の目的への到達時間を測る』千里眼って事でいいんですか? 」
「まあ大まかにはそんなとこだろうね。他にも知り合いには『心を読む』千里眼や『他人の死亡日時がわかる』千里眼がいるよ」
「うわぁ……絶対に会いたくないんですが……ってかここの交差点の信号って三分もありましたっけ⁈ 」
「え? 逆に三分もある信号って聞いたことあるの? 私ならその間に寝ちゃうよ? 」
「ちょっ、はぁぁぁぁぁぁ⁈ ヤバイじゃないですか! 早く助けないと」
「何で助ける必要があるのさ? 私は早く帰って君の部屋でごろごろしたいんだけど」
"ああ、やっぱこの先輩はダメだ"そう痛感した司は「カタツムリにも負けるんじゃないか」と思えるほどの速度で歩いているおばあちゃんの荷物を持ち……と言うかおばあちゃんって言う荷物ごと持ち上げてすぐに交差点を渡った。
「ありがとうねぇ、学生さん。この老体にはこの量の荷物は厳しくてねぇ」
「い、いえ。荷物は無理のない量にして下さいね」
「そうねぇ。でも孫が昨日から入院していてねぇ。着替えとか雑誌とかを家から持って行ってやろうとしたらこんなに量が増えちゃってねぇ」
「……そうでしたか。何なら僕が病院までその荷物をお持ちしましょうか? 」
「良いのかい? 悪いねぇ」
「ええー司くん、初めて会ったおばあちゃんには優しくして親切にしてもらっている先輩のお願いは聞いてくれないんだぁ」
司の後ろをゆっくりと渡ってきた篤史が呆れたように不満をぶちまける。
正直……最低だ。
「篤史先輩とも今日会ったばっかりじゃないですか。さあおばあちゃん、病院まで案内してもらえますか? 」
司がおばあちゃんの手を引くと
「あの青年とは違って君は実に人格者だねぇ。さぁこっちなんだ」
一歩ずつ踏みしめて歩いていくおばあちゃんとそれを支えるようにして並走する司を見ながら篤史は渋々その後を尚更ゆっくりついていくのだった。
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