第6話 銀色≒吉野奈緒

「少しでも怪しい真似をしたら殺す……」


そんな物騒な宣言を学園長である佳奈から受け転校初日から胃のキュッと締まるような思いをしつつ、渡邊兄弟とは学園長室別れ、そこから案内を引き継いだ自分のクラスの真面目そうな眼鏡をかけた女性教師の後をついて教室に向かう。


中央の階段をニ階分ほど降り、二階の踊り場を右に折れる。教師が入ってから二つめの扉の前で回れ右をしてそれをスライドし中へと入る。司も後に続く。


教師は教壇に立ち、小脇に抱えていた出席簿を教卓に置く。


「今日からこのクラスに転入生が入ることになりました。自己紹介を」


「宮野司と言います。本土の公立高校から転入してきました」


取り敢えず無難に挨拶をしておく。


席に着いている生徒からの反応は……無い。


「席はあそこに」


と、教師は窓際の陽当たりの良さそうな席を指す。隣は……空席だ。


教壇から降り寡黙な教室の中を一直線に自分の席へと向かう。司が座ると教師は一言も発する事なく、手元に置いてあった教科書を開き、授業を開始する。専科は数学のようだ。だが進度的には公立とほとんど変わらないようだ。


司はここに来る前に貰った教科書を開きつつも眠くなるような授業を聞き流していた。もう寝ても良いんじゃないかと思い始めたくらいの時に事件は起こった。


「遅れてすみません……」


溶けた純銀を流したかのような白銀の髪をそれとは正反対の黒いバレッタでハーフアップに纏めた小柄な少女が俯き加減で教室に途中入室してきたではないか。


「吉野さん今月で八回目ですよ。一体いつになったら真面に授業を受ける気になるんですか? そんな風な怠けた生活を送っているから成績も下がるし……」


なんだこの教師は饒舌じゃあないか、と司は思った。それと同時にクラスの生徒たちがため息をつき始める。


「ねえ、なんで今まで黙り込んでいたの? 」


と、前の席に座っている男子生徒に聞いてみる。


「ああ、悪かったな。別に俺たちも無視しようとか思ってたわけじゃあないんだが。あの先生は怒ると話が長くて有名なのさ。特に最近はあの吉野の遅刻が続いていて不機嫌そのものだったからなあ」


「それで少しでも気を逆なでないようにしていたと」


「そう言うこった。話が早くて助かるわ。俺は久我駿也くがしゅんやだ、よろしくな宮野」


「こちらこそ、よろしく頼むよ」


そんなこんなで十分程したら吉野と呼ばれていた少女も解放され、残りの空席……即ち司の隣にチョコンと座った。


数少ない一マス圏内の生徒だ。司は意を決して吉野に話しかけた。


「ええっと……俺は宮野司。今日からこのクラスにお世話になることになったんだ。よろしく」

と、話しかけるも吉野からの返答はない。目の前で展開される授業を淡々と聞いている。


__________________________________________________


終了のチャイムがなり、休み時間……食堂に走る生徒もいるようだから正確には昼休みのようだ。


司はその生徒たちの波に乗ってなんとか食堂にたどり着き、食券を買いに券売機の列に並ぶ。


5分ほどで食券を買い、反対方向にある受け渡し場に行こうとする。ふと、券売機の列の最後尾の更に後ろでこちらも先程とはうって変わってオロオロしている。


「どうかしたの? 新入りだけど、もし何か手伝える事があれば言ってくれないかい? 」


吉野は相変わらず何も答えない。その代わりに手元にある小さな布袋をチラつかせる。


なるほどな。


「もし足りないのならお金貸してあげようか? 」


と、数百円を差し出すと、少し間を置いてからお金ではなくそれを差し出した司の右手の裾を掴み先程よりも長くなった列へと銀色吉野は並ぶのだった。

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