第3話 新世代=フェボル

「さてさて、自己紹介も済んだ事だしそろそろ学園に戻らないとね。道すがらこの島の概要でも説明しようと思うのだけれども」


「よろしくお願いします。実は僕、つい最近この島のことを知ったばかりでして……」


そんな司の言葉を遮る様に篤史は優しく言い放った。


「司くん、他人行儀も良いんだけど、僕には気安く接してくれると助かるかな。あと、実は私あまり苗字が好きじゃないんだよねぇ……なんと言うか……堅苦しいと言うのかな? 」


くしゃっとした笑顔で背後にしっかりとついて来ている後輩に向けて、篤史は自分の意向を伝える。その笑顔には少々の照れも含まれている様だ。


ーーこの人は人との付き合いに慣れてるんだか、そうじゃないのかーー


先輩の謎の進言に、つい十分前に会ったばかりのほぼ見知らぬ人の前で友達口調で、しかもまだうろ覚えだった先輩の名の方で呼ばなければならないなんて……


ーーしんどいいいいいっ、なんかこの人と喋るとものすごくエネルギーを吸われている気がするううううぅぅーー


「まぁ無理にとは言わないなさ。気が向いた時から徐々にそうしていってくれ」


篤史は坦々と脚を島の中心部の方向にある街へと動かしながら、マフラーを暖かく吹く春風になびかせ、着崩したボタンの止まっていないブレザーのポケットに手を押入れながら続けた。


「じゃあ早速だけど、始めにこの島を語る時には知っておかなければならない我々【新世代フェボル】について詳しく話しておこうか」


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新世代フェボル】……二十年前に突如発生し、日本本土の南半分を丸ごと被災地とした超巨大地震、通称「レメゲトン大破災」後に産まれた子供たちを指す言葉だ。その子たちは姿形は今までの人類と変わらないものの、その身体能力は桁違いだった。


原因は「レメゲトン大破災」の時に日本が浮かぶ四つのプレートがズレた隙間から地上に溢れ出した人類未確認の元素……通称「パズル」だ。「パズル」は空気とほぼ同じ質量を持つ事から陸海空に満遍なく広がり、今やその「どの元素にも自在に変化する」という特異な性質から様々なエネルギー源となっている。


当初は人体に悪影響を及ぼすのではないかと物議を醸したが、暫くして空気中にある物を吸い込んだくらいでは人体に害はないと判明した。


しかし母体がそれを吸い込んだ場合、確率的に胎児の遺伝子に「パズル」が組み込まれ身体能力が格段に上がった我々、【新世代フェボル】が誕生するのだ。


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司は自分が知り得る一般教養レベルの【新世代フェボル】についての知識を篤史の話を聞きつつも心の隅で思い起こしていた。


「君も知っての通り、一般に公開されている【新世代フェボル】の能力は《身体的に常人より秀でている》というものだけだ」


篤史は始めて(とは言っても会ってからまだ数十分なのだが)真剣な眼差しでことを語り、その目は何処か虚空を見据えているようでもあった。


「一般的に? 」


司は先輩の語ることが既にイマイチ飲み込めていなかった。何せその【新世代フェボル】である自分が生まれてこのかた十六年、身体能力の異常以外は何事もなく一般人と同じように過ごしてきたからだ。


「ああ、そうさ。【新世代フェボル】はただの身体能力異常者なんかじゃあない」


「じゃあ何が違うって言うんですか? 」


司は篤史の歩く前に立ち、まくし立てるようにして質問する。こちらも、その目は真剣そのものであった。


「よく聞くんだ。これから話すことはここ……オウスラクトで生き抜くための基本事項だ。我々【新世代フェボル】には……」


ゴクリと息を呑む。自分の知らない自分のことを他人から聞かされるのはこれほどまでにも不思議なことなのだとひしひしと実感する。


「……パズルを自分の意思で操る……能力がある」


司は目を見開き、口を開けたままその場に立ち尽くした。会って数十分。人生で最も衝撃的な発言をよもやそんな人物から聞くとは思わなかった。

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