最強かばんちゃん計画
青狸
きめらけいかく
ゆうえんち。ここは憩いのたまり場。
「かばんちゃん、きのぼり上手になったね!」
「えへへ……ありがとうサーバルちゃん」
このコンビも、思い思いの過ごし方をしているようだ。
「でも、まだちょっと危ないな、って思うときがあるんだ」
「そういうときはね、でっぱりに爪を食い込ませるといいんだよ!」
「そ、それはちょっと無理かな……。僕の爪、そんなに鋭くないから」
少し沈んだ表情のかばん。それを見つめるサーバル。
……すると。
「そうだ!じゃあわたしの手、かばんちゃんに貸してあげるよ!はいっ」
スポッ。
「「「……ええええーーーーーっ!?」」」
周囲が絶叫に包まれる。
周囲の様子に逆に戸惑うかばん、サーバル。
他数名が、狂騒の輪を外から遠巻きに眺めている。
「……そうか!みんなは『ふく』を脱ぐのを初めて見るのね」
「初めて知ったときは驚いたよ~」
「アライさんは知ってたのだ!」
「おんせんで聞いてたからねー」
―
混乱も静まったので、事情を説明する。
フレンズたちが身にまとっている服?のほとんどは、実は着脱できるのだ。
「はいっ、かばんちゃん」
「ありがとう!……わあ、ホントだ!爪を使うとすごく登りやすいよ!」
木から降りた途端、皆に囲まれるかばん。
ヘラジカが一歩前に出る。
「どうしたんですか、皆さん」
「いやあなに、皆思っていたのだ。かばん、お前は頭も良いし皆を気遣う優しさもある。だが、『パワー不足』だと!」
「私たちにアレほど見事な作戦を授けてくださった貴方のためにできることを、私たちずっと考えていたんですの!」
シロサイが声を張り上げる。
「そして見つけましたの。私たちの得意なところを貴方にお貸しすれば、そう!貴方は最強になるんですのよ!」
「『サイキョー』……へえ、面白いじゃない。一枚噛ませてもらうよ」
ヒグマに火がついた。
「リカオン!キンシコウ!」
「「はい!」」
「色んな得意を組み合わせて、あなただけのかばんを作ろう……」
「突然何を言い出すのよ。ゲームじゃないのよゲームじゃ」
「かばんのため……そう、これはヒト助け」
キタキツネも燃えている。萌えているかもしれない。
―
巻き起こるパワー・トゥ・かばん旋風。
ここで選出された2チームの紹介をさせていただこう。
ヘラジカとヒグマが手を組んだ!
チーム「へいげんハンター!」
「我々のコンセプトは……言わなくともわかるな。力!ある!のみだ!」
E:頭:オオアルマジロぼうし
E:体:シロサイふく
E:腕:ヘラジカあーむ
E:足:ライオンふっと
E:他:ヒグマはんまー
どう考えても強い。攻防に一切の隙なし。
殴り合ったら間違いなく敵無しだろう。
「どうだ!着心地は!」
「あの……これ……うぅ」
「うむ、感無量!という表情だな!」
「うんにゃー、違うんじゃないかなぁ」
「これは……お……重い……」
「か、かばーーーん!!」
倒れ伏すかばん。殴り合うどころではない。
「なぜですの……最強の布陣が」
「いや……どう考えても服が重すぎるんですよ服が……アンタよくアレ着て走れましたね」
ある種の畏敬の念をもってリカオンはシロサイを見つめていた。
ヒグマのハンマーも同じく重すぎることは自らの胸に仕舞っておくのだった。
―
「ふふ、見かけの数値に惑わされるのは、まだまだ初心者」
「アンタはいつから何の玄人になったのよ……」
服の着脱なら我々に一日の長あり!
チーム「ゆきやまのキツネたち!」
「えっこれ私も入ってるの」
E:頭:ツチノコふーど
E:体:トキいろのふく
E:腕:サーバルぱんち
E:足:ペンギンあんよ
E:他:ほらーたんていぎろぎろ
「大事なのは、すきる……」
「ええと、ピット器官!飛行能力!木登り力!水中移動能力!を兼ね備えた超かばんの誕生である!……らしいわよ」
空を、水中を、樹上を自在に翔けることができるなら、ピンチのときにも逃げやすくなるだろう。
「ホラー探偵ギロギロは何のために……?」
「面白いから、おすすめ……」
「おや、嬉しいじゃないか。作家冥利に尽きるというやつさ」
布教もほどほどに。
着心地を確かめるかばん。
「悪くは、無いですけど……」
「けど?」
「と、飛べないです」
「えっ」
「トキ、着たら飛べるようになるんじゃないの?」
「飛べないわよ だって私、これが翼だもの」
そう言うとトキは頭に生えた小さな翼で、ふわりと宙を舞った。
トリのフレンズたちは、頭の翼の羽ばたきによって飛ぶのだ。
「ピット器官も使いこなせるのはオレだけだからなっ」
「私たちの足も、手のフリッパーが無ければ効果は薄いでしょうね」
がっくりと肩を落とすギンギツネ。
「ぱっしぶすきるが強すぎる……」
そもそもどちらのチームもかばんにカバンを持たせようとしておらず、
一体彼女をこれから何と呼ぶつもりだったのだろうか。
「「あっ」」
―
うなだれる両チーム。
「何とか、かばんの役に立ちたかったが……すまない」
「いえいえ、結構楽しかったですし」
「わたしの手だけでも、もうしばらく使う?」
にっこりと手袋を差し出すサーバルに、かばんは首を振る。
「ううん。みんなの『ふく』を借りてわかったんです。みんなの良いところは『みんなだから』こそ良いところになるんだ、って」
「それと、僕のようなヒトは『弱いから』こそ色々と考えるようになって、みんなの良いところが見えるようになったんじゃないかな、って」
微笑むかばん。
「弱っちい僕だからこそサーバルちゃんに木登りも教えてもらえたし、ね」
「えへへ」
「もうしばらくは『ヒト』として頑張ってみます。苦手なことも練習して、少しでもできるようになってみせますからね」
「うむ……かばんのその気持ち、我々も見習わなければな」
「もうすこし……アウトドア派を目指すね」
誰よりも弱く、誰よりも強いヒト。
彼女とフレンズたちの日常はまだまだ終わらない。
―
「アライさーん。ずっと何か言いたそうだったけど、どうしたのー」
「うう……アライさんは力が強いわけでもないし、すぺしゃるなチカラがあるわけでもなかったから、ただ見ていることしかできなかったけど……かばんさんに一個お願いがあったのだ……」
涙目のアライさん。
慌てて、かばんが駆け寄ってくる。
「そうだったんですか……!ごめんなさい!お願いって、何でしょう?」
「あ、あの……あのあの」
「はい」
「かばんさんの『ぼうし』を、一度で良いからかぶってみたかったのだ!」
火山の噴火以来、ずっと追い続けたぼうし。羽飾りもあげてしまったため、憧れは募るばかり。
「もちろん、良いですよ」
「わーーーい!!やったのだーーー!」
「あ、じゃあ僕もお願い、良いですか?」
「なんでも言ってほしいのだ!」
「アライさんの首に巻いている『もこもこ』、一度つけてみたかったんです。
なんというか、かわいくて『おしゃれ』だなって」
「お安い御用なのだ!」
かばんの帽子を被るアライさん。アライさんのファーを巻くかばん。
両者とも少し照れ気味に、ポーズを取ってみたりする。
「フェネック!見てほしいのだ!このぼうし、やっぱり素敵なのだ!」
「うんうん、かわいいねー」
「さ、サーバルちゃん、どうかな」
「とーっても、すてきだよ!」
「『おしゃれ』って、楽しいのだ!」
「楽しいですね!」
「今のアライさんは、パークいちのおしゃれさんなのだ!
サイキョーなのだ!」
ざわ。ざわざわざわ。
「その話」
「詳しく」
「聞かせてもらおうかァッ!」
「「いざ、おしゃれ勝負ッ!!」」
フレンズたちの日常はまだまだまだまだ終わらない。
最強かばんちゃん計画 青狸 @aotanuki
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