アライさんが征く~アライさんと大魔宮篇~

@komaji

たからもの

「ふぇ、ふぇねっく~」

「どうしたのアライさん、そんな弱々しい声で」

 フェネックは立ち止まって振り返る。

 横にいたはずのアライさんはいつのまにか後ろを歩いていた。

「あ、暑いのだ。毛皮がちりちりする」

「あー。ここは仕方ないよねえ」

 見渡す限りの砂。晴れ渡る空。ここはさばくちほー。

 ぼうしどろぼーを追ってここまで来たのだ。

「…もうすぐ干からびるのだ。…先に逝くアライさんを許してほしいの、だ」

 今にも倒れそうなアライさんにフェネックはどうしたものかと思案していると視線の先に洞穴らしきものがあった。


「…ふあ、涼しいのだ。ちょっと一休みなのだ」

 洞穴の内部は広く休憩場所として十分だった。

「助かったねえ」

 冷えた地面にほっぺを押し当てて寝ころんでいたアライさんがふと顔を上げた。

「あれは」

「あー、見つけてしまったねアライさん」

 アライさんが洞穴の奥にまだ先があることに気づいてしまった。

「行ってみるのだ探検なのだ~」

「ちょっとアライさん、休憩は…おーい」

 呼びかけに応えず楽しげな声を上げて奥へ突き進んでいく。

 疲労は忘れてしまったようだ。全く好奇心旺盛なアライさんらしい。

 微笑むフェネックはアライさんの後を追った。


 二人は奥へと進んでいく。

 ここを歩くのは苦ではない。砂に足を取られることもなく高低差もなく平坦な道だ。ただ暗くどこまでも続く。

 意気揚々と歩いていたアライさんの背中がだんだん丸くなってきた。

「…フェネック、暗いのだ怖いのだ耐えられないのだ」

 振り向いたアライさんは泣きべそだった。ああ、夜行性…。

 戻ろうか、そう提案しようとしたとき、いきなり朝が来たようにぱっと明るくなった。

「おお」

 目の前に広がる見たこともない不思議な地形。なにかの巣のようでもある。

 どこからか大きな声が聞こえてくる。しかし喋っている内容はよくわからない。

「ここは!ここはとってもお宝の匂いが立ち込めているのだ!」

 アライさんは興奮して目を輝かせている。

「…くんくん。そうかな。何か匂うかな?」

 フェネックの鼻は特別匂いを捉えていない。

「きっとあるのだ!探すーのーだー」

 言い終える前に駆け出すアライさんだった。


 くね。くねくね。

「もうなんなのだ!道がくねくねなのだ!」

「ほんとにねえ。あ、さっきここ通ったね。また同じ道に出ちゃったよ」

 道を曲がると分かれ道。選んで進むとまた分かれ道。

 どれくらい時間が過ぎたのか、足取り重くまた同じのよな道を曲がった先でいきなりセルリアンと出くわした。 

「うわあ!セルリアンなのだ!あっちいけ!」

 一瞬怯んだ後、セルリアンに飛び掛かろうとするアライさんの首根っこを急いで掴む。

「アライさん、逃げるよー」

 くるっと方向転換。アライさんを掴みながら来た道を走る。

「フェ、フェネックー!放すのだ、あれくらい追っ払えるのだ!」

「でもあのセルリアンの後ろにまだいっぱいいたよ」

「ええ!」

 道を何度か曲がったところでフェネックは立ち止まった。

「…」

「ふう、ここまで逃げれば安心なのだ。…どうしたのだ、フェネック?」

「あの曲がり角の先から気配が」

「ひえ、こっちからも来たのか」

 身構える二人の前に現れたモノは。

「スナネコです」

 ネコ科のフレンズだった。


「驚いたのだ。こんなところでフレンズに会うなんて。もしかしてスナネコもお宝探してるのか」

「お宝?ううん。ちょっとおうちを調べてるの」

「ここ、スナネコのお家なのか。めちゃくちゃ広いのだ」

「うーんと。おうちじゃなくて、おうちのおくだね。あ、それとこれ拾ったけどお宝かな。もしそうならあげるよ」

 丸く鈍色に光るものをアライさんに手渡した。

 スナネコはさらにいくつもの丸いものを取り出してアライさんに渡していく。

「いっぱいなのだ。でもこれがお宝なのか、フェネック?」

 アライさんは小首を傾げる。

「うーん。どうだろうね。アライさんがお宝だと思ったらお宝かも。スナネコはいらないの?」

「拾うのにまんぞく」

「じゃあ、もらうのだ。ありがとうなのだ。あ、そうだスナネコ。ついでに出口を教えてほしいのだ。アライさんたちは迷ったのだ」

「スナネコも迷っています」

「ええ!ここ、スナネコのお家じゃないのか」

「仕方ないね、一緒に探そう」

 それから出口を探す三人はセルリアンと何度も遭遇してどったんばったんの大騒ぎ。

 ふぇ、ふぇねっく~

          アライさーん、そっちにはセルリアンが

                            ま、まんぞくうぅ

「…はあはあ。た、大変なのだ。全く出られないのだ」

「迷うのにまんぞく」

 アライさんがフェネックを見ている。それは涙目だけれど、信じている目。

 頼られている。ああ、頼られている。期待に応えないと、どうすれば…ん?

 ふいにフェネックは顎を上げて鼻を鳴らす。

「アライさーん、あっちからジャパリまんの匂いがするよ。匂いを辿ればもしかしたら外に出られるかも」

「やっぱりフェネックはすごいのだ!」

 ぱっと顔を輝かせてみるみる元気を取り戻すアライさん。

 やっぱりアライさんは元気でないと。嬉しいな。

 

 三人はフェネックを先頭に通路を進む。

 そして。

 広いところに出ると目の前に見上げるほどのジャパリまんが現れたのだ。

「わあ!ついに発見したのだ!ジャパリまんの山がお宝だったのだ!やったのだ!」

「よかったねえ、アライさん。でも出口はあるのかな」

 フェネックは辺りを見渡すと隅のほうから視線を感じた。

「「あ」」

 目が合って声が被った。

「つ、つつ、つちのこだよッ!」

「ツツツのツチノコ?」

「違う!つちのこだよッ!やばいぞ、ソレは!」

 カランコロン音を立てながら現れたのはフードを被ったフレンズ。

「おい!そこのアライグマ!そのジャパリまんは備蓄だ。触るな!」

「何を言っているのだ。これはアライさんたちが見つけたお宝なんだぞ」

 つちのこはイライラしたように地面を蹴った。

「ああもう、溶岩調べてたら迷路が騒がしいから備蓄のジャパリまん置いて匂いで誘い出してやったのに…しかしやはりこの溶岩はセルリアンの成れの果てか。これほどのサイズのセルリアンどうやって…あいつらと一緒にいたとき近くにハンターがいたのか…ブツブツ」

「もしかしてつちのこ、助けてくれたの?」

「あ、あー、迷うからなここは!ちなみにあそこから外に出られるぞ!」

 尻尾が出口を指し示す。

「ありがとうなのだ、つちのこ」

 アライさんが駆け寄ってきた。ジャラジャラ音を立てながら。

「うん?お、おまえ何を持っている、ちょっと見せてみろ!」

 アライさんは小首を傾げながらスナネコから貰った丸いものを取り出した。

「うぼあはあッ!ジャパリコイン!しかもこんなにたくさん!どうしたんだこれ!?」

 アライさんはスナネコを見る。

「あそこで拾ったの。夢中だったからたくさん拾えてまんぞく」

「迷路でか。俺も探したけど一枚しか…。な、なあアライグマ、あのジャパリまんとこのジャパリコイン交換しないか」

「え!いいのか!…スナネコ!?」

「うん。アライさんにあげたものだからどうぞ」

「ふぇ、ふぇねっく~」

「はいよー」

「ついにお宝の山を手に入れたのだ!」

 ジャパリまんの前でアライさんの幸せそうな笑顔。得難いな。

「よかったねえアライさん」


 今回もたくさんのたからもの手に入れることが出来ました。byフェネック 

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