第8話


「先生、俺はなんて馬鹿なんだって思ってる?」


眩しいくらいピンク色の趣味の悪いベッドに座って私は言う。


先生は何も話さない。


きっとすごく怒っているんだ。


私が仮病使って先生をホテルに連れ込んだのだから。


先生は、これまた趣味の悪いバラ模様のソファに腰かけている。


「松木、今回のことは学校にも家にも連絡はしない。黙っていてやる。だからもう家に帰った方がいい。」


先生は本当に悲しそうな顔と声で話した。



ホテルに入り、ベッドで横になる私に先生は心配そうに「大丈夫か?」と声をかけた。


私は嘘をつくのに嫌気がさして仮病だったことを話した。


もちろんそれ以上のことはしていない。


だが、塾生と講師がホテルに入る行為自体がもうすでにアウトだ。


さすがの先生も怒ったようだったが私を叱りはしなかった。


「先生、ごめんなさい。」


私は自分のしたことの醜さに今更ながら気が付いた。


もう終わりだ。先生はきっと私のことを軽蔑したに違いない。


好きだからといって、やっていいことと悪いこと、それくらいの区別はつく歳だし、優しくて真面目な先生をこうして騙すなんて。


私はなんてかわいくないのだろう。


こんな私なんかを先生は一生好きになってくれないだろう。


「先生…ごめんなさい。」


目が熱くなった。燃えているように熱い。


その火を消すかのように目から涙が流れた。


たくさんたくさん流れた。


もっとかわいく泣きたいのに涙はどんどん溢れ、心臓もドクドクうるさくて息も上手にできない。


私の頭の中は『自己嫌悪』でいっぱいになった。


「松木、わかったから。落ち着いて。」


そういって先生は私を抱きしめた。


先生の右手は私の頭を押さえ、左手は優しく背中をさすった。


その優しさが私をもっと苦しめた。


こんなに醜い私に優しくできる先生が憎かった。


声をあげて泣いた。先生の大きな背中をぎゅっと掴んでたくさん泣いた。


先生は私が落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。

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