第7話


「やっぱりそんなに辛いか。近くに内科があるから…もう終わってるか。よし、じゃあネットカフェ…」


「ち、ちがくて!」


思ったよりも大きな声が出た。


「あ、あの、ちがくて。」


先生は少し驚いたようにこちらを見た。


「なんでもないです。おやすみなさい。」


私はこれ以上会話したら嫌われると思い、一方的に話を切った。

何か言いたそうな先生を無視して早歩きで駅の方へ向かう。

だが先生から逃げ切ることはできなかった。

右手首をがっしりとつかまれ先生に声をかけられた。


「松木!やっぱり具合悪そうだ。心配だ。」


こうストレートに心配されるのもなかなか照れる。

私はこの先生の一言に舞い上がっているが先生はきっと心から心配して言ってくれているに違いない。眉間のシワと手のひらの暖かさから伝わる。


「俺の家に来い。」


私は耳を疑った。


「え、先生、今なんて…?」


「俺の家。妻がいる、訳を話して少し休もう。」


がっかりした。

少しでも期待していた私が馬鹿だった。

よく考えればわかることじゃないか。先生の左手の薬指を見れば。

高い高い崖から飛び降りたような、そんな感覚。

ただただ、ショックだった。

それと同時に真面目な先生に対して腹が立った。

私の仮病も見分けられず、本気で心配までして、馬鹿なんじゃないか。

家に誘うなんて、お人好しすぎる。

こんなにかっこよくて優しくて真面目で、どうして私の先生じゃないのだろう。

どうして、好きになってしまったのだろう。


「松木!?泣くほど辛いんだな、ついてこい。薬を飲んで休もう。」


ポロポロと涙が流れていた。

なんて情けない。


「先生、あそこがいいです。」


めいいっぱい具合の悪そうな演技をしてホテルに指を指した。


「え、あそこは、まずいんじゃないか。」


先生は慌てる。

私は構わず続けた。


「先生、気持ち悪い、吐きそう…」


先生は困り顔のまま私の両肩を掴んでホテルのある方角へと歩き出した。



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