第6話


フリータイムで4時間ほどカラオケボックスにいた。

外に出るとすっかり日が落ちてあたりは暗くなっていた。


「楽しかった〜!遅くなっちゃったね、付き合わせてごめんね〜?」


「いやいや、いいのだよ。なにより楽しかったし。」


「また私の美声を聞かせてあげるね!」


そう言って奈菜はウインクをする。


塾が終わる時間をとっくにすぎていた。

楽しかった時間も過ぎ、まっすぐ家に帰るのも勿体無い気がしてどこかに寄って帰ろうかと考えたがお金もあまり持ち合わせていないためゆっくりゆっくり歩いて帰ることにした。


駅前の通り、お気に入りの音楽を聴きながら歩いているとふと嗅いだことのある匂いが私の鼻を撫でた。


目線を少し上げ、匂いの主を見た瞬間心臓がドクンと跳ねた。

この背中は絶対に先生だ。

髪の色も慎重も体型も先生に似ている。

「先生!」

頭で考えるよりも先に声が出た。


先生らしき男性はピクリと肩が動いた。

そしてゆっくりとこちらを振り向く。


「あ、松木か?どうした?」


どうしよう。話しかけるつもりじゃなかったんだけど。

顔が引き攣る。心臓もうるさい。先生がかっこいい。なんて話そう。どうしよう。


「今日、授業出てなかったな、何かあったか?」


先に口を開いたのは先生だった。

私の心配をしている。私が授業にいないことに気付いていた。なんだか嬉しかった。


「あ、えっと…。塾に行く途中で、頭、痛くなって…。それで、その、カフェで休んでて…。」


嘘、下手くそか。


「今はもう良くなったのか?」


あれ、意外とバレてない。


「帰れないくらい酷かったんだな。薬は飲んだのか?今からひとりで帰れるのか?」


先生は眉を寄せて心配そうな表情をした。

そんな優しい先生が素敵で、嬉しくて、悲しかった。


「薬はのんでないですけど、でも多分、あの、大丈夫です。」


私は先生の目を見て答えた。

"見惚れて"という表現の方が正しいかもしれない。


「駅まで、送ろうか?」


こんなに先生と会話しているのは初めてだ。そして、先生が別人のように優しい。ぐっと距離が縮まったみたいで嬉しい。

あれ、でも今、なんて言った?

送ろうか?って言ったよね?

先生と一緒に駅まで帰れるの?

そんな夢のことがあっていいの?


「先生。」


私はこの時、どうしてこんな事を言ったのかを覚えていない。


「どこかで、休みたいです。」


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