第4話


授業が終わる。

生徒達は足早に教室を後にする。

私は、「もしかしたら先生が教室に入ってきて話ができるかもしれない」という馬鹿な期待をしテキストを広げていた。

だんだんと生徒が減っていく。

外はもうすっかり暗くなっている。


足音がした。


革靴の音。


ガラガラとドアの開く音と同時に先生の声。


「あら、松木さん?こんな時間まで自習とは感心ねぇ。」


私の聞きたかった声ではなかった。

数学の相澤先生。細身で綺麗な先生だ。


「もう、帰ります。」


「はい、さようなら。また明日ね。」


相澤先生は優しい笑顔で右手を上げた。

会釈をして教室を出る。


今日も先生には会えなかった。


毎日先生達が最後の授業が終わってしばらくすると、交互に教室の戸締りのチェックをしに来る。

運が良ければ先生がチェックしに来る。

その時も私は今日のように当たり障りのない言葉を言い、教室を出る。

先生は私の苗字を呼び、「さようなら」とだけ話す。相澤先生のように私を褒めたりにこやかに右手を上げたりしない。

口元を少し緩めるだけだ。


それが嬉しい。


数十秒だけの2人の時間。


先生を好きになってから、そんな日々が続いている。

明日は会えるかなと淡い期待を抱きながら帰りの電車に揺られた。

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