第3話

「教科書147ページ、朝倉さんお願いします。」


ベルと同時に私の会いたかった人、先生が入ってくる。

「学校おつかれさん!」なんて無駄な話はしない。面白いモノマネもしない。昨日あった面白いことも話さない。

ただ教科書に沿って分かりやすい解説を入れながら授業を進める。

私はそんな先生の顔やホワイトボードに書く時少しだけ動く腕の筋肉や、スーツのしわなんかを見て内心幸せな気持ちになる。

そんな自分が少し恥ずかしい。


「松木さん、問4 解けてたら発表して?」


しまった。全く聞いていなかった。


「まだでした、すみません。」


「はい、じゃあ三条さん、お願い」


フォローの言葉もない、優しい笑顔もない、どうしてそんな先生を好きになったんだっけ?

塾に入って間も無い頃、廊下で先生とすれ違いざま肩がぶつかった。


「あっ」


その瞬間、柔軟剤の香りと私の腕に暖かい手のひらの温もりを感じる。

先生も驚いていたが、すぐに不安そうな顔になりわたしに言った。


「大丈夫だったか?ごめんな」


私の腕を掴んでいた暖かい手は、私の肩へと移動し優しくフワリと置き直された。


「すみません。」


その瞬間好きだと思った。単純でアホみたいだけどそう思った。

何でもなかったような顔をしてるけれど心臓はうるさくて顔は熱かった。


その時は恋したなんて自分の中では認めていなかった。だって、かっこいい人と肩がぶつかったのが好きになった理由だなんて馬鹿馬鹿しいし。

それからというもの週に3回通っている塾はあの先生が見られるからそんなに嫌ではなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る