第12話 公爵家でのあれこれ②

ハーティアの住む屋敷の構造は、絢爛豪華な装飾品があるわけでもなく、シンプルな造りを残し、機能美という言葉が似合う程に、住む為に鮮麗された内装をしていた。


「荷物は、その辺に置いといてちょうだい。後で、他の給仕達に運ばせますから。」

「はい…よっこいせ!」


セバスが荷物を忘れて、ウォルフと浴室へと行ってしまった為に、仕方無しにシャル本人が、リビングのある部屋の前まで運ぶ嵌めになり、


「ふぅ〜」

「事前に届いた荷物とあわせるとこれで全部

?」

「これで全部です。足りないものは街で買い揃えればいいですから。」

「それもそうね。その時は、一緒に買い物行きましょう?シャルちゃん。」

「はい是非!ウォルフも一緒でいいですか?」

「もちのろんですわ!観光地巡りに、食い倒れ!いろいろ楽しみですわ!」


ハーティアの観光ツアーはさて置き、こうして、買い物の約束を取り付けたのである。


「どうぞ、シャルちゃん。」

「し、失礼いたします。」


うわー広い部屋ですねぇ•・


•・なんだか?いい香りがします!


「少し、狭いですが、好きな場所にお座りください。」

「えっ狭い?」


シャルがこんな事を言ってしまったのも無理も無い話しで、ハーティアに案内され、通されたリビングの広さは、1世帯が余裕で暮らせる程に奥行きのある部屋だったのだ。


「今、お茶を用意させますので。」

「ハーティアさん。ちょっと聞きたい事があるんですが?」

「なに?シャルちゃん。」

「この広いリビングの他にいくつ部屋があるんですか?」


高級ソファーの柔らかいクッションを抱え、素朴な疑問をぶつけたシャル。質問の答えは直ぐに返ってきた。


「えーと?私が、たまに迷子になるくらいにはありますわね。」

「ワーオ!」


シャルの開いた口が戻らない程に、驚愕を連れて。それもそのはず、外から見ただけでは、建物自体の大きさは測れても、その内部の奥行きまでは判らないのだから。


•・あ、は、は、は、


こんなところで働かさせられるなんてたまったもんでは無いとい気持ちとは裏腹に、さまざまな期待がごちゃまぜになり、混沌とした感情を抱いてしまった事は分かってあげて欲しい。 そして。


「どうかしましたか?シャルちゃん。」

「はうぅわ!い、いえ、なんでもありません。」

「そう、具合が悪いなら言ってね?」

「はい」


こんな感じのやり取りをしていた最中でも、笑顔を忘れないシャル。キュンとくるハーティアが独特な空気を作り出していたその時。


リビングの扉を開け、数人のメイド達がティーセットを運び入れると、「御茶をお持ち致しました。」と一礼し入室し、テーブルの上に、コースター、ティーカップと順に置かれ、淡々とお茶を飲むための用意が出来あがって行くのである。


「このティーカップ…ステキ〜♡」


紅茶らしき飲み物が入ったティーカップを手に持ちうっとりと見つめるシャルなのであらる。そこには。


何処かの工芸品なのだろうか、コースターには、金箔で鳳凰が描き出され、シンプルなデザインは残し、気品に満ちた表情をしていたのである。


「それ安物だけど、気に入ったのならシャルちゃんにあげるわよ?」

「えっ!」


想わぬプレゼントに同様するも、『シャル、一般常識は何処へ?!』のXデーへのカウントダウンが始まった瞬間でもあった。


____________________


「ハーティア様。只今戻りました。」

ウゥアンごしゅじんただいま♫」


数人のメイド達と入れ違うように、先風呂へと行ってしまった者達がリビングへ、フローラルの香りを連れて到着する。


「その子、ウォルフちゃんだったかしら?すごく綺麗になったじゃない!」

「普段からシャル様の手入れが素晴らしかったので、我ながら、少々本気を出してしまいまして。」

「あら?それじゃまるで、私の仕事、手を抜いてるみたいじゃない?」

「い、いえっ!決してそのような事はっ!…

ハーティア様。シャル様。ウォルフ様。私は仕事がありますので‥これで失礼致しいたします。」


負けじ魂を見せるも。ハーティアの発言に、鬼気迫るなにかを感じ、動揺を禁じ得無いセバスなのである。そして。


逃げるように去って行く彼の表情は、何処か羨ましいそうにしていた事は言うまでもないだろう。やがて。


「きれいにしてもらって良かったね、ウォルフ?」

ウゥアンよかったー♫♪」

「それに、私がやるよりも少しつややかだ…」

クファ…ハフンすこしねむい…zZz」


彼の心境を無視するかのように、とことこと歩いて主人たるシャルの座っているソファーにぴょんと飛び乗り、膝を枕にし、寝息を立てるウォルフなのである。そして。


「シャルちゃん。ウォルフに触っても良い?」

「良いですよ。どうぞ、好きなだけモフモフしてください。」

「ごくり……こ、これは、良い!…ずっと触っていたいですわね。」


ウォルフの身体に手を置いた瞬間 なんとも言えない幸せそうな表情をしたハーティアなのである。


____________________



「ハーティア様。御友人方が御見えになりました。」

「やっと、来ましたか。セバスにこちらへと通すよう伝えてちょうだい。」

「かしこまりました。」


ウォルフの毛並みを堪能している最中 メイドの1人か、来訪者を伝え、ハーティアがこちらへと招くよう指示を出す。そして。


「ハーティアさん。花蓮先輩達が来るのですか?」

「シャルちゃんの引越し祝いにでもと呼んだのですが、生憎あいにく3年の先輩方は、忙しいくて来れ無いそうで…アリスちゃん達だけですわね。」

「あの時の「あの時?どないときや?」

「ひゃんっ!か、花蓮先輩やめっ、きゃ♡」


シャルの台詞を被せるように、唐突に現れた

犬神 花蓮だ。花蓮が、ボーイッシュな装いをし何処らともなく現れた。


「ちょ!誰や?人をゴキブリみたいに言わんでや!?」

「誰と、話してますの?」

「いや、なんでもあらへん、ハーティア。」

「そうですか。で、なにしにこちらへ?今日来れ無いと言っていませんでしたか?」

「ハーティア。せやな、ちょっとした息抜きや。こう、シャロやん成分を補充しに」

「あふん。ら、らめぇ♡」


花蓮はシャルの身体を指でなぞるように、触れ、驚きにも似た甘い声を出してしまうのだった。


「シャルちゃん困ってます。その辺で辞めとか無いと、天罰がくだりますよ?」


ハーティアの予想は的中する事になる。


グゥアルルゥうるせー!」

「うお!なんやっ!」

ウアンこむすめ!」

「あべしっ!」


シャルの膝枕で寝息を立ていたウォルフが花蓮の乱入により、ビクつき飛び起きたかと思いきや、猫パンチならぬ犬パンチをお見舞いし、彼女の頭めがけ、鋭い牙を突き立てるのである。


「眠いの邪魔されたからと言って、噛んだらめっ!でしょう。ウォルフ!」

グルゥごめんなさい


まるで、ウィッグを外すかのように、ウォルフを引き抜いた。シャル。


「すみません。私のウォルフが花蓮先輩になんとお詫びしたらいいか…」

「い、いやーウォルフはんのスキンシップは過激やで、あはは」

「血がでてますわよ。」

「ホンマにウチの事 心配してくれておおきに。ハーティア」


クジラの潮吹くかのように鮮血を連れ、予想は的中し、何処らともなく取り出した包帯を巻き始めるハーティア。


「ハーティア様。アリス様達をお連れ致しました。」


一通り、ハーティアの介抱が終わると同時に、セバスがアリス達をリビングへと招き入れるのである。


「何やってるんですか?花蓮先輩」

「相変わらずですね。花蓮先輩」


リビングへと通された双子の第一声がこれである。


「あはは、アリスはん姉妹今日も私服可愛ええのう」

「「人の私服見て、オヤジ臭い台詞言わ無いでください!」」

「相変わらず、息ぴったり!のツッコミあざます!」

「「相変わらず、この人といると疲れる」」

「先輩をこの人呼ばわり!」


まるで、漫才のようなやり取りの最中でも一人何食わぬ様子で、お茶を飲み冷静な対応を見せる『少女』が会話を聞いていた。


「雪やん?何、しれっと茶飲んどんねん!ちょっとは、かばってやぁ」

「いやよ、面倒くさい。」

「雪やん、冷たい…だがむしろ、それがええ!」


兵藤 白雪である。だが、花蓮の台詞は無視してお茶を飲みほしたのである。


「おはようございます雪先輩。今日来れられたんですね。」

「ええ、私は、自分の用事が済でこっちに来たのだけれど…花蓮?」


アリスの挨拶もそこそこに、白雪に気づき近づいたウォルフとたわむれ越しに花蓮を一睨み、


「いや〜ん雪やん♡そんな目でウチを見いひんで、ドキドキするやん♡」

「そんなアホな会話してる場合?あんた。先週のレポートまだ未提出じゃなったけ?」

「うぐっ、それについては…」

「ふーん、じゃあ、あんたは私が卒業する頃に留年して、私の事先輩と呼ぶと」

「…ゆ、雪やんのこと先輩呼び…※ガチ百合警報※ありやな///」


腐女子もびっくりな表情を浮かべた花蓮。


「はい、はい、分かった。レポート作り手伝うから帰るわよ!」

「なんや、手伝ってくれんのか?」

「はあ、何言ってのよ、私が手伝うわけないでしょ!」

「ほな、なんで?」

「勘違いしないで!あんたに、先輩呼びされるのは嫌だなって思っただけなんだからね」


これ以上変な想像に付き合えるか!という気持ちとは裏腹に、なんだかんだ言って心配症の白雪なのである。


「拙者も、花蓮先輩殿と同級生とか、勘弁願いたいでござるよ」


その手には室内犬を持ち運ぶ為のバックを持ち、立ち姿はモデルをも彷彿とさせた『少女』が1人。天野 織姫である。


「姫やんまで、そう言うことを…なんや、この扱いは…」


がっくりと項垂れる花蓮を後目しりめ

この場に集まったシャルを除く全員が『それは、自分の胸に聞いてみるといいよ』賛同し


「さて、そろそろ私達は、お暇しましょうね、花蓮」

「いやや!なら、せめてケーキ!食べて帰ろうや!」


花蓮の腕を引くように帰ろうとするのだが、まるで、駄々っ子を彷彿とさせ、まだ帰る気の無い花蓮は必死で引き止めようとしたのである。


「…バニラアイスケーキが有るなら考えてもいい。」


甘い誘惑に釣られ、ピックっと足を止め、小さな声で言ったのである。


「そんな、無茶言うなや、温暖な気候の地域と違ってここは、春先というのにまだ寒いって!アイスなんてあるわけないやん!せやな、ハーティア?」

「ありますわよ?!」

「ほーら、ないやん!」

「私の話し、聞いてなかったのかしら?あると言ったのですわよ?」

「ってあるんかーい!」


ハーティアの『有る』という台詞を聞いた瞬間 目を輝かせ『出来れば、抹茶味が良い…』

と注文をしてみたのである。そして。


「そんなもの、ミズホからお取り寄せせな、あるわけ…「ありますわよ?」あるんかーい!」


花蓮の否定的な台詞を被せるように、ハーティアが『有る』事を伝えた。そして。


「よし!食べたら帰ろうね、花蓮」

「なんやろうなぁ、この疎外感…」


花蓮の嫌悪感とは裏腹に、なんだかんだ言って付き合いの良い白雪なのである。



「「「「「幸せ〜」


結局セバスが、白雪のご注文通りの品を用意し、なんだかんだ言って花蓮達も一緒ご馳走になったのである。


ただ、花蓮の抹茶アイスは、ほんのりと切ない味がしたのである。


____________________


場所同じくして、三年生組が帰宅して数分後。



「織姫さん、遅かったわね?」

「ハーティア殿。幾分。仕度に手間取ってしまって申し訳ないでござるよ。」

「そう、それならいいですわ。迷子にでもなったのかと思いましたわよ?」

「ハーティア殿が事前にくれた地図のおかげで迷わず来れたでござるよ。拙者が遅れた理由は、これでござるよ。」


一通り遅くなった理由を伝えた織姫は、ソファに座った状態のまま持っていたバックの中を見せた。その時。


アンおっつ?」

「拙者の彼氏の『彦星』のひーちゃんでござるよ。この背中の☆印がチャームポイントでござる!」

アオーンよろしく


コーギーを思わせる種類の『犬』が、顔を出し、織姫がそれを抱き抱え、満面の笑みで紹介したのである。


「「「「可愛い!!」


愛くるしい眼差しを向けらた一同は騒然となり、


「ウォルフも、あいさつして。」

ウォンよろしく!」

アンアンこちらこそよろしく!」

「ほほ、噂にきく愛犬家シャル殿の愛犬ウォルフでござるか。なかなか良い目をしているでござるよ。拙者のひーちゃんには、劣るでござるが。」


アンどやー

グルゥなにおー


「とても、愛くるしいとは思いますが、私のウォルフの毛並みの方が、艶があって綺麗ですので」


ウォーンどやー

キャウンぐぬぬやりおる


飼い主による、ペット自慢が始まり、場は

一段と賑やかになるのである。そして。


「シャルちゃんに一つ聞きたいことがあるんだけど…いいかな?」

「はい、なんでしょう?アリスさん。」

「どいうきっかけで、花蓮先輩達と仲良くなったのかな?と思っていてね、それを、聞きたいなぁと…だめかな?」


言いづらいいとは思っていても、どうしても気になりダメ元で聞いてみたアリスなのである。


「私も、それが気になりましたわ」

「拙者も気になりっていたでござるよ」

「私もお姉ちゃんと同意見かな。」


皆気になるようで、アリスの質問に賛同するのだった。そして。


「いいですよ。お話ししましょう」


最悪だけど最高の思い出を語り始めたのである。


____________________









場所同じくしてアリス一行が到着して数分後公爵家門前ではある『少年』が姿を見せた。


「ハーティア…俺様に何の用だろう?…告白か!」


その姿は、赤い蝶ネクタイに、スーツにハーフパンツとかなり奇抜なファッションを身につけ、手には薔薇の花束を抱え、にやにやしながら迎えが来る事を信じ待っている『少年』が1人。その時。


「あー、そこの君!いいかな?」

「見るからに怪しいが…君名前は?」

「クラウドです。俺怪しものではなくて、ここの住人に呼ばれた訳で…」


クラウドである。


「ここは、公爵家御令嬢ハーティア様が住まう屋敷 その兄上が黙ってないだろ?」

「だよなー」

「それに、こいつの格好今時の小学生も着ないって」


この台詞を聞いた強面の男性達はクラウドの目の前で相談した結果。


「君まさか!ストーカーていう奴か?」


妙なところへ着地したのである。


「詰め所の方でお話し聞いてあげるよ。」

「ちょっ!ち、違います」

「言い訳は、後で聞いてやる!」


結局彼の言い訳も聞いて貰えず、その場で現行犯逮捕となってしまったのである。


「ちょっ!俺の出番これだけかーー!」______________________

_






「あら?私…何か忘れてるような気がしますの」

「あーそいうのて思い出すと、結局どうでもいいものらしいよ!はーちゃん」

「ですわね、アリスちゃん。では、シャルちゃんのお話し聞きましょう」

「はーちゃん、お姉ちゃん。まじめに聞く!」

「クスス、まずは森での事をお話しいたします。」


そして、語り始めた最悪で最高の出会いの話_____________________第1章 二説 閉幕




















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