白面九尾の復活 中章 其ノ九


(何か話してるのか?)

(……わからない、でもこれは好機だわ! いい? 作戦はこう。結界を解いた瞬間、私がトラの背中に乗って、壁を焼きながら全力で突破! あいつの背中を一突きよ!)

(ふむ、悪くない作戦だ。だがうまく壁を焼ききれるか?)

(全力で術を放つわ。こいつらの反応からしていける筈! ……それより当然火に焼かれてる中を突破するから……悪いけどその覚悟だけして頂戴!)


 「正気か!?」と思えるほど無謀な作戦、しかし他に道は無い。志乃は早駆けの符をトラに施し期を待つ。ガサガサと壁がうごめく中、珠妃の話し声が聞こえてくる。


『返事一つで……助か……。……も……て……の……』


 その時、揺れていた珠妃の尻尾が丸まり、爪の伸びた右手を振り上げるのが壁の隙間から見えた! これはイロハが危ない!!


(いくわよ!)


 集中し、錫杖にありったけの力を込める。錫杖の先端、刃の部分が焼け真っ赤になった。もしかしたら術に耐え切れず砕けてしまうかもしれない。


 でも今は構わない!


 いつでも飛び出せる状態のトラに乗り、錫杖を鳴らすと同時に術を放った!


シャン!!!


ゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!


 結界が解かれたと同時に、物凄い大きさの炎が巻き起こる!

 壁全体が炎に包まれると同時にトラは地を蹴り、目の前の炎の壁に突進した!


 志乃とトラは一瞬で火の壁を抜けた!!


 その刹那が長い時間に感じられる……!


 壁を抜け、珠妃の背中が今見えた!!

 まだこちらを向いていない!!


 トラは珠妃に体当たりを喰らわせるつもりで突進する!

 志乃も赤く焼きごてとなった刃を突き立てるべく体勢を構えた!


 まだ珠妃は後ろを向いている!

 これは貰った!!!


 志乃が刃を突き立てる瞬間、こちらを見る珠妃の顔が少し見えた。


 その目は……笑っていた……!


(しまった! 罠!?)


 叫ぶ暇も後悔する暇も無かった!

 志乃とトラの視界が真っ暗になる!


 そして、もう二人の影はどこにもなかった。


「……ふふっ、あはははははっ!!! まんまとかかりおったわ!!!」

「?!」


 イロハは何が起こったのか判らず混乱している。突然植物の壁が燃え上がったかと思えば、珠妃が九本の尻尾をアサガオの花の様に広げたのだ。


「残念じゃのうイロハ。時間切れじゃ、見よ」


 そう言って広げていた尻尾を元に戻すと、後ろで燃えている植物に手をかざす。

 すると燃えていた火が消えていき、志乃とトラの姿は何処にも見えなかった……。


(志乃? トラ…?)

   

 一瞬だが燃え盛る壁から何か飛び出してきたのは確認できた。しかし珠妃が尻尾を広げた途端見えなくなり、それは消えていたのだ。

 では、飛び出してきたのが志乃とトラだったとすると……二人は一体どこへ?


「誘いに乗りこちらに飛び出してくるとは、妾も見くびられたものよ。背後からとはいえ首を取りに来た勇気はたたえようぞ。もうあやつらは何処にも居らぬ、無間むげん狭間はざまに送ったからのぅ」


(無間の狭間!?)


 空間の最果て、この世とあの世の、全ての空間の生まれる前の世界。入り込んだが最後、帰ってきた者の話など聞いたことが無い。


「妾もあやつらがどうなるかはわからぬ。向こうで死んだかのか、生きてるのか…。成仏できるだけ死んだ方がましだったかも知れぬ」


 淡々とそう言い放つ珠妃。


 イロハの目から光が消える。

 もう、二人に会えない……。


「お前が素直になっておれば、こんなことにならずに済んだものを」


ガキン!! 

ザクッ!


「うわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁぁあああああああ!!!!!!!」


 発狂し、斬りかかったイロハの刀を珠妃は弾いた!

 弾かれた刀は宙を舞い、地に刺さった。


「うわぁぁぁぁああ!! うわぁぁぁあああ!!!」

「……」


 刀を弾かれ、尚も発狂し泣きじゃくりながらも珠妃に掴みかかろうとするイロハ。珠妃はそんなイロハを軽くあしらい手首をひねる。


「うわぁぁぁっ! がぁぁあああああああ!!!」


「……ん?」


 珠妃は背後にまた気配を感じた!


(……先程から何者だ? まだ仲間が居るのか?)


 振り向くもまたしてもそこには何もいない。


(仕掛けてこないのをみるに仲間というわけではないのか? 面妖めんような)


 そう思いつつ、抑えても暴れようとするイロハを見て静かに言い放った。


「別れじゃイロハ。すぐ父もそちらに送ってやろう、お前のことは忘れぬ」


 イロハの両腕を片手でねじり上げ、もう片方の手で首を跳ねんと手を振り上げた。

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