白面九尾の復活 中章 其ノ八
「なかなかやりおるわ。ならば次はどうかぇ?」
不敵な笑みを浮かべ、春華を追わせたあの使い魔を二体出した!
何やら呪文の様なものを唱え始める。
(一体何をする気!?)
警戒する三人。
だが何事も起こる様子は無い。
二体の使い魔は珠妃の周りを回っているだけで攻めてくる様子も無い。
「気を付けて。何仕掛けて来るかわからない以上、うかつに動くのは危険よ」
いつでも反応できるよう、錫杖を構える志乃。
(今度は何を……)
攻撃に備えるイロハ、体中の傷がジンジンと響き痛む。深手は無いが体力の消耗に伴い、痛みが体にずしりと圧し掛かる気がした。
二匹の使い魔が動いた!
宙を舞い、こちらに高速で向かって来たのだ!
三人がそれに気を取られ、一斉に身構える。
これがいけなかった!
メキメキメキッ!!!
バシッ!
「キャッ?!」
一瞬、志乃は何をされたのかわからなかった。正面から来る使い魔に対し、結界を張ろうとしたら、いきなり横から強く突き飛ばされたのだ!
(志!? っぐ!)
バシッ!
同じように突き飛ばされるイロハ!
「志乃! イロハ!」
トラは志乃とイロハを突き飛ばした者の正体を見た。植物の様な何か……いや、うねうねと動くそれは巨大なヤマツツジだったのである。
これも珠妃の術だというのか?!
立っているトラ目掛けて巨大な枝を振り下ろしてきた!
(トラッ!! う、うわっ!)
ガシッ!
起き上がりトラに駆け寄ろうとしたイロハに、様子を伺っていた使い魔二体が圧し掛かってきたのだ。二体はイロハの両肩をがっちりと取り押さえると、今にも頭から噛み付かんばかりの勢いである。
(こいつら! 喰われてたまるかぁぁぁ!!!)
イロハの目がほのかに赤く染まる。
「ガウッ!!!」
野生の本能的なものだろうか。イロハの
(志乃! トラ! ……あぁ!!?)
起き上がり二人の場所へ戻ろうとしたイロハ。
しかしそこには植物でできた高い壁が築かれていたのだ!
ガサガサと巨大な葉の集合体が
(こんなもんぶった切ってやる!)
ガサッ! バキッ!
ザザザザザザザッ!!!
しかしいくら斬りつけても壁はすぐ元通りに塞がってしまう。
枝が伸びてイロハを再び突き飛ばした!
「無駄じゃ、もう生きて出ることはできぬ。流石に野山の草木は強いのぅ。あやつらがどこまでもつか見物じゃ」
イロハの目の前、壁とイロハの間に入るように、珠妃と使い魔がいつの間にか立っていた。
恐るべし九尾の狐、屍や岩だけでなく植物までも操ってしまうとは。後どれほどの術を持っているのだろうか?
「……イロハよ。もう妾の力がどれ程のものか十分知ったであろう? 本気を出せばこんな物では済まさんぞえ? これで最後じゃイロハよ、妾の仲間となれ。お前の返事一つで仲間も父も助かるのだぞ?」
(……)
「ぐぁ!! くっ!!」
「がんばって! 今行く!」
巨大化した植物の壁の中、トラと志乃が迫り来る巨大植物と格闘していた。伸びてくる枝を払いながらトラへと近づく志乃。
トラは飛んできた松の実が目に当たり目潰しを喰らう。
更にトラの目の前に巨大なヤマツツジの花が現れる!
そして顔目掛けて霧を吹きつけた!
ピュシュー!
「ぐぇっ!?」
「焼炎っ!」
慌てて火の玉を作り、トラに圧し掛かっている植物目掛けて飛ばした!
すると植物は火を嫌い慌てて離れようとする!
「トラ離れて!」
「あちちっ!」
一緒に焼かれては敵わない、急いでその場から離れようとするトラ。
しかし足取りが何処かおぼつかない。
「焼火・防御陣!」
近づくとトラを中心に錫杖で円を描く。
シャン!
結界を張るとその回りに火が付き燃え盛った!
植物は結界と火に阻まれ近づいてこない!
「火が怖いみたいね、これで少しは時間稼げそう……どうしたのトラ?!」
「……ぬ……猛烈に……眠気が」
「これ飲んで!」
袋から何か取り出すとトラの口の中に放り込む。
気付けの苦薬だ。
口に入れられた瞬間トラは慌てて吐き出した!
「ぐぇぇえ!! 苦い!」
「駄目よ飲まなきゃ! 毒が消えない!」
「いや、もう大丈夫だ。眠気は何処かへ行った様だ!」
余程苦かったのだろう、遠慮した。
狭い結界の中、身を屈めながらトラは回りを見る。二人を追い詰めようとじりじり壁が迫ってくるも、火を恐れなかなか近づけないようだ。
「そういえばイロハは?!」
(しっ! トラ、あれ見て)
志乃が向いている壁の方向、その隙間から珠妃の後姿が見えた。うねうねと尻尾を揺らしながらイロハと何か話している……?
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