星ノ巫女番外編 お瀧のケノ国参り
京の都の端、貧しい長屋の一室でお
本職ではない。父の収入が見込めず
祈祷師の修業を終えた父は中々本業が上手くいかず、日雇いの仕事ばかり。遂には長屋暮らしとなった父に、母は愛想をつかして出ていってしまっていた。
(……うち、なんか昔から損な役回りばっかりやなぁ)
母と一緒に出ていこうとしたが、不器用な父を不憫に思い残ることにした。人付き合いが苦手な父がひと月もたずに野垂れ死ぬのが目に見えていたからだ。要は放ってはおけなかったのだ。
お瀧は父が嫌いではなかった。決して怒鳴ったりすることなく何でも教えてくれた。聞いてもいないのに習ったばかりの呪術の
(……なんかおもろいこと起こらへんかなぁ)
寺子屋に通う事もそこそこに内職の日々。たまの楽しみと言えば、頼まれた他所の子の面倒を見ることくらいだった。
そんなある日、家を空けていた父が三日ぶりに帰ってきた。
ガタッ!
「お父ちゃん?! 今まで何処行ってたん?!」
「お瀧やったぞ! これを見ぃ!」
走ってきたのだろう、汗だくの父が書簡を開けて見せた。
「ははははっ! どうだっ! 遂にお役目を授かったぞ!」
「ほんまに? 一体どんな?」
内容はよくわからなかったが、父の喜び様を見る限り本当なのだろう。
「善は急げ! 早速支度をするぞ」
「支度って? うちも行くん?」
「うむ! ケノ国の
「ケノ国って……むっちゃ遠いやん!! 何日かかるんや?!」
「そやから今すぐ支度や! 二十日もあれば着くぞ!」
「ええええ?!」
街道が敷かれたとて、徒歩での道中は決して楽なものではなかった。幸いなことに夜盗や追い剥ぎに出くわす事も無く、夜は粗末な旅宿に泊まれた。
そしてケノ国が近づくにつれ、嫌な噂を耳にすることになる。
今のケノ国は「化け物で溢れかえっている」と。
「噂、ほんまやったんやね。さっきケノ国から
「案ずることは無い。その為の祈祷師、その為のお役目だ」
父が言うには、ケノ国で有力な陰陽家が京の祈祷師を一人欲しがっているというものらしい。今思えばお役目というのは表向きで、厄介事を押し付けられたというのが本当だったのかもしれない。京で安定した職を持つ者がどうしてわざわざ遠方の危険な土地まで赴こうか。
職も無く元々人の良い父の事だ。二つ返事で引き受けてしまったのだろう……。
十七日後、お瀧たちは予定より早く葦鹿の里に着いた。
丁度その頃、ケノ国では例の「妖鬼討伐演舞祭」を控えていたのである。書簡にあった本家へ赴くと、分家があるのでそちらで待機して欲しいとのことだった。
「しわいなぁ(ケチ臭い、融通が利かない等の意)、こんな御大尽屋敷やのに」
「少々早く着きすぎたか」
仕方なく紹介状を頼りに分家を捜し歩く。
その途中でのことだった。
「お瀧!」
「!」
並んで歩いていた父に突然制止された。
父の顔を見ると真剣な表情である。
「………」
注意深く辺りを見渡していたが、やがて緊張を解いた。
「…どないしたの?」
「妖の気配を感じたのだ。が、もういない」
「…そう。!! お父ちゃんこれ見て!」
お瀧が見つけたもの、それは無残な姿になった獣の姿であった。犬だったのか猫だったのか判別すら出来ないほど酷く、辺りに飛び散った鮮血が死んでから間も無いことを物語っていた。
「妖にやられたんやろか? まさか、まだここらに?!」
「いや、もう気配は感じない。だがこれは犬同士の喧嘩ではなさそうだ」
そう言って父は獣の死骸の周りに護符を置くと、数珠を取り出し祈祷を行った。
「お祈り?」
「先祖代々に伝わる秘術の一つ『還魂の法』の応用だ。こうしておけば、この死骸も妖にならずに済む」
「ご先祖様ってあの『九尾の狐』を退治したご先祖様?」
「勿論だ。……しかしこうして子孫である我々が今、九尾の狐が居たケノ国にいる。何とも因果なものだな」
二人は死骸に土をかぶせるとその場を後にする。
すぐ傍で息を殺し、様子を伺っていた妖に気づく由もなく……。
星ノ巫女番外編 ─お
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