白面九尾の復活 上章 其ノ二
ケノ国北部の屋根、
そして、その守り手こそが那須山に住まう
那須山の中腹に
屋敷は人間の住んでいるそれと大して変わらない。むしろ人間の
忙しそうに仕えている
数ヶ月前、蒼牙は病に倒れた。過労というよりは老衰かも知れない。野狗よりかは長いが、それでも狛狗の寿命は短い。何とか一命は取り留めたものの、医師の定期的な検診を必要としていた。
部屋では少女が全身白い毛に覆われた狛狗の脈をとっている。
そのすぐ横に同じような顔立ちをした少女がそれを見守っていた。
「……」
少女らの名は
「……大丈夫、今のところは、ですね。安静にしていれば問題ないでしょう」
「そうか、それはよかった」
問題ないと言われ、少し安堵の表情を見せる蒼牙。そして、突拍子の無い事を聞き始めた。
「ところでお主ら人里も回っていると聞いたが……人里は楽しいか?」
「はい?」
思わず聞き返す妹のたつほ。そんな質問をされたのは初めてだ。
「あ、いや。最近人里で変わったことは無かったかな?」
「変わったこと……姉さんどう?」
「人と妖の
「あ、いや。うむ、そうか」
蒼牙の聞きたかったのは、人里には何か興味をひくものがあるのか、ということだった。
何故そんなことを聞いたかというと、やはりイロハのことだろう。
イロハが帰ってきてからの蒼牙は、あまりイロハと口を利いていない。人里に何の為に下り、何をしてきたのか殆ど聞いていない。勝手に那須山を飛び出した事についてさほど厳しく叱ったつもりも無いのだが、聞こうとしてもまるで避けるかのように屋敷から出て行ってしまう。昔ほど構わなくなっていたのだが、やはり気になっていたのだった。
愛しい妻の忘れ形見、気にならない訳が無い。
「念の為、お薬出しときます」
「
「拾弐番を出して差し上げて」
たつほは姉に言われるまま大きな薬箱の引き出しを開けると、漢方薬の様な物を取り出して
「いつも済まないね」
「持ちつ持たれつ、ですから」
「はい、どうぞ。具合が悪くなったら飲んでください」
出来上がった薬を差し出すと姉妹は帰り支度を始めた。
次の患者が待っているのだろう。
「では冬になる前にまた来ますので」
「ありがとう、
「はい、お大事に~」
妹のたつほは自分の身の丈近くある箱を軽々と背負い、先に部屋を出て行く。
姉のみづちも出て行こうとして一度振り返り、
「……お酒、控えてくださいね」
そう言葉を残し
(ぐ……)
残された蒼牙は思わず絶句する、医者の目はごまかせない。
『失礼します』
「ん? 何だ」
入れ替わりに白い毛のやや若い
数年前まで山狗の
「
「ほう、お通ししろ」
「はい」
月光は一礼すると部屋を出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます