妖鬼討伐演舞祭の章 其ノ五
占い勝負は準々決勝まで進んでいき、志乃は淡々と勝ち進んでいた。
「──というわけです。同じ
「……そうか」
「……?」
小幡は素直に喜べなかった。昨日の二原山の宮司の言葉が引っ掛かっていたのだ。勝ち負けなどどうでもいい、このまま何事も無く、志乃が無事で帰って来ることだけを祈っていた。
…………
「見えた! 中身は蛙なり!」
「箱には
男が白い箱を開けると、季節には少し早い蝗が羽音を立て、歓声の中を飛び回る。馬鹿馬鹿しさ目当てに見物していたが、今回の占い対決は見ごたえがある。観客は徐々にその数を増やしていった。
「すっげぇ!! また勝った!! こりゃ志乃の優勝間違い無しだな!」
「何事も無きゃあな。しっかし身内ながら強すぎて詰まらん」
「ほだきと占いって
「まぁな。だが次の試合はどうだんべ。一回戦から見てたきと、あの若い
その時、典甚に近づき何かを耳元で
「ん? 何だ、木幡んとこのか…あ? ……わかった」
「どした典爺? なんかあったんけ?」
「ちょっとな。……悪いきとおめぇ一人でここさいてくれや、すぐ戻る」
典甚は男に連れられて何処かへと行ってしまった。一人になり心細くなるイロハだが、とりあえず少女の試合を見ることにした。
「西の方、
「おう!」
西の方からは大柄な僧侶の男が登場した。何でもこの男は二十年もの間、山に
「東の方、
(ぺこり)
『こりゃどっちだんべな……。どっちもほぼ相手を完封してきたかんな』
『あのでかい男、図体だけじゃないんだな』
『さっきの巫女といい、あの娘といい、占いは若い女が向いてるもんなのかねぇ」
観客から囁く声が聞こえる中、両者の前に箱が置かれた。
「助言は『食べ物』! 西の方から答えられよ!」
虎丸は目を閉じ、ふぅーっと息をつきカッと目を見開く。
「中身は
「東の方は如何に?!」
佐夜香はじっと箱を見ると一瞬だが驚いた表情を見せた。
そして何か悩ましげに頭に手をやると……。
「……同じく、中身は饅頭です」
箱を持ってきた男が蓋を開ける。
「お見事! 両者せいか……や、ややぁ?!」
中身を見て突然審判が驚いた。確かに箱の中には饅頭が入っていたのだが、何故か饅頭は半分かじられていたのだ。
「御題を食べるとは何事か?! 浅ましい真似をするな!!」
「ち、違います! 箱に入れた時は、確かに何事もありませんでした!」
準備係へ審判が顔を真っ赤にして怒ると、観客席からどっと笑いが起こる。
しかしイロハだけは笑わなかった。今まで餅と団子をほうばっていて志乃の試合しか見てこなかったが、今の試合で違和感を感じたのだ。
(さっき、あの箱に妖怪みてぇな気配を感じたぞ……?)
神経を研ぎ澄ませて辺りを伺う。しかし、大勢の観客の雑念に紛れてしまっているのか怪しい気配は全く感じない。仕方なく改めて試合を見るも、既に勝負は決し、両者が互いの健闘をたたえ合っていた。
「
「そこまで見破られちゃ何も言えねえや。がんばって優勝してくれよ、応援するぜ」
会場から称える声が起こる中、佐夜香は丁寧に頭を下げて戻っていった。
(志乃の他にもすげぇ人間がいたなんて、本当に人間の里は広いなぁ…・・。オラにもあんな術さ使えたらもっと強くなれんのに……)
イロハは昔、父から不思議な力を持つ人間の話を聞いたことがあった。自分たちの遠い祖先がその人間たちと協力し、
しかし、時代が流れるにつれ、そういった人間たちも姿を消しつつあるらしい。帰ったら志乃に頼み込んで術を教えてもらおうかと、本気で考えるイロハであった。
一方、志乃は待機場の陰から佐夜香の試合を見ていた。佐夜香の実力が気になり、密かに偵察していたのである。
今回志乃が討伐祭で占い対決を選んだのは、地味で人気が無く観客が少ないだろうという理由からだった。元々志乃は箱の中身を知る術を知っていたわけでは無い。数日前に試しにやったら偶然できてしまったのだ。
(どうして私は他の人とこうも違うのかしら……)
今まで生きることに必死で深く考えたことは無かった。もし深く考えれば、明日にでもこの才を失ってしまうのではないかと不安だった。幼い時の記憶が
しかしこの会場に来て、占いで箱の中身を知るということがどんなに大変なことなのか実感し始める。周りを見ると自分よりずっと歳上の者ばかり。もちろんその殆どがインチキなのだろうが……。
その中で佐夜香は自分とそう変わりなく、他者とは群を抜いて確かな実力を持っている。もしや自分と似た境遇の者ではないだろうか。
(まずっ、気付かれたかしら)
物思いに
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