人攫い事変の章 其ノ三
怪鳥は子供を掴み、羽音を立てながら今にも飛び立とうとしている。そこへ
──が、当たらない!
まるで怪鳥を避けるかのようにあちらこちらと矢が飛散する。矢が当たらず
ギェ! ギェェェエ──ェ!!
『うわぁぁぁー!!!』
『ひぃぃぃぃっ!!!』
突然砂の混じった突風が吹き荒れ、周囲にいた人間を無差別に襲った!
『
しかし
(このままじゃ逃げられてしまう! 一体どうすれば……)
ふと後ろに林があったことを思い出した志乃。身をかがめ風を背に駆け出す。
砂が背に当たるのを
「こっちよイロハ! 追いかけるわ!」
頭の手拭いを押さえながらイロハが林に転がり込んできた。
「ぺっぺっ、砂が口ん中さ入った! この風じゃまともに追えねぇぞ」
「林に
二人は林に
それでも
(私が追いつけなくても、イロハが奴の住処さえ突き止めれば……!)
だがその期待は裏切られる。前を走っていたイロハが足を止めていたのだ。
ピタリと豪風が止み、怪鳥の気配も全く感じられなくなった。
「あっれぇー……」
「……やられたわね。あの大きさで気配を隠せるなんて」
「うんにゃ。姿や気配は消えたけど、変な匂いが
「変な匂い? 妖怪の?」
「んー、なんか花の匂いみたいな…。あっちの
「まだ冬真っ盛りよ? 花なんて……」
イロハが指した方には岩肌が見える山があった。しもがらの崖と呼ばれてる場所で、獣や盗賊の住処と言われており滅多に人が訪れることの無い場所である。確かに妖怪の住処には打って付けかもしれないが、果たして……。
「迷ってらんないわね。案内して頂戴」
崖の下までくると見上げるほどの高い岩肌が目に映った。暗く静かなこの場所のせいで崖全体が巨大な妖怪のように見える。
「! こっから花の匂いしてくる!」
『
志乃が
「おー! すっげぇ!」
「触らない様に気をつけてね」
宙に浮いた炎が辺りを照らす。
するとどうだ! 茂みの間に
「虎穴入らずんばってね。このまま進むわよ。怖かったら帰ってもいいけど」
「ここで帰ったら笑い
二人は暗い穴の中へと入っていった。
ここで二人を待ち受けていたものとは……?
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